2014/01/08
渦巻銀河の「腕」では、いったいなにが起きているのでしょうか。
新年、明けましておめでとうございます。年末年始はいかがお過ごしだったでしょうか。帰省をされた方も多かったのではないかと思いますが、この時期の交通機関はまったくもってしんどいですね。私は車での移動でしたが、高速道路の大渋滞はもはや年末年始の恒例行事。日本人の忍耐強さと、昨年の苦労を忘れる鋭い忘却力に感心するばかりです。もちろん、私も含めて。
でも、この渋滞と同じことがこの宇宙でも起きている事を知っていると、渋滞の列もあに楽しからんや、です。宇宙のいったいどこで交通渋滞が起きているのか。それは渦巻銀河の中でです。渦巻銀河に特徴的な腕模様は、実は星やガスが渋滞を起こしているところと考えられているのです。
渦巻銀河では、全体的に見れば構成員である星やガスが、同じ向きに公転運動をしています。太陽のまわりを惑星が巡るのと同じように、星やガスはその銀河の中心を巡っているのです。渦巻銀河に分類される私たちの銀河系でも、それは一緒。太陽系は、銀河系をおおよそ2億年で1周する速度でこの瞬間も動いているのです。日常生活の中では全く気がつかないですけどね。
渦巻銀河の中には、ところどころ星やガスの密度が周囲よりも高くなっているところがあります。公転運動の途中で、そのような場所に星やガスが差し掛かるとなにが起こるのか。実は、ここで渋滞が発生しているのです。
時系列を追って、なにが起きているのかを説明しましょう。密度の高い場所に星やガスが近づくと、スピードが上がります。そのまま渋滞地帯を通り抜け、渋滞地帯を離れるに連れて、また速度を戻していきます。
星は空間密度が低いので他の星と衝突することも無く、素直にこの渋滞地帯を通り抜けるのですが、ガスはそうはいきません。スピードを上げてこの渋滞地帯に突入すると、前にたまっているガスに衝突して衝撃波が発生します。この衝撃波によってガスが部分的に圧縮され、そこから濃いガスの雲である分子雲が作られます(図を参照)。
この分子雲の中から、新しい星が何百個という集団で生まれてきます。このように、銀河の腕の部分は、次から次へと星が生まれる、ドラマチックな現場のひとつなのです。
このように、渦巻銀河の腕模様を星やガスの渋滞現場であると捉える考え方を、密度波理論と言い、多くの渦巻銀河が密度波理論の考え方で説明できることがわかってきています。一方で、密度波理論では説明できないケースもあり、まだ十分な説明が出来ているわけでもありません。渦巻銀河の腕がどのようにしてできてきたのか、あるいは維持されているのかについては、まだまだわからないことだらけなのです。今後の研究の発展により、その秘密が明らかになることを期待しましょう。
※本コラムは、「本郷宇宙塾」12月の講演を参考に執筆しました。
東京大学大学院にて電波天文学を学び、野辺山やチリの望遠鏡を用いて分子雲進化と星形成過程の研究を行う。
国立天文台では研究成果を利用する人材養成や地域科学コミュニケーションに携わり、2012年からは現職で広く学術領域と社会とのコミュニケーション促進に取り組む。修士(理学)。日本天文学会、天文教育普及研究会会員。東京都出身。
自然科学研究機構 国立天文台 広報普及員
(社)学術コミュニケーション支援機構 事務局長
天文学普及プロジェクト「天プラ」 プロジェクト・コーディネータ