2014/02/04
超新星爆発が起きた直後に見られるであろうショックブレイクアウト。この現象を探す研究が進んでいます。
刺激惹起性多能性獲得細胞、通称"STAP"細胞の発見は大きな話題になりました。新聞やテレビでは、どこを見てもこの発見のニュース一色だったかと思います。その研究内容の価値の高さはもちろんのこと、若い女性の研究者という、一般的な科学者像を良い意味で裏切ったことも、世間(というかマスコミ)の関心を惹起した理由のひとつでしょう。この研究が、今後どのように進化していくのか、とても楽しみですね。
さて、報道を見ていると、彼女が研究者人生を歩み始めるまでのストーリーはもちろん、子どもの頃のいろいろなエピソードまで取り上げられていましたが、本来研究成果とは関係がない事柄にも興味を持ってしまうのは、人間の性なのでしょう。プライベートに踏み込んだ話はいただけませんが、子どもを持つ親にとっては、どのような環境の下で、どのような経験を積んだら彼女のように輝けるのかは、関心があるのは理解できます。その輝きの秘密を知りたい。それは超新星でも同じ事。おお、強引。
超新星とは、ある日突然明るくなって見える天体のこと。その正体は、星の最期の大爆発です。超新星の種類にもよりますが、もっとも明るくなったときには、元々の星の数億倍から数百億倍の明るさになります。ひとつの星が爆発した現象のくせに、星が何百億、何千億個と集まった銀河に匹敵する明るさになるのです。
でも、それは「もっとも明るくなったとき」の話。そう、超新星の明るさは変化するのです。超新星の種類にもよりますが、爆発直後から急速に明るくなっていって、およそ10日程度でもっとも明るくなります。その後はだんだんと暗くなっていき、見えなくなっていくというのが典型的なパターンです。下の図は、その明るさの変化を示していますが、これにだまされてはいけない。ほぼすべての超新星は、十分に明るくなった頃に見つかるので、実は、爆発の本当の瞬間にはどんな明るさになっているのかが、観測的にはわかっていないのです。
理論的研究からは、星が急激に明るく輝く瞬間が、爆発直後にあると予想されています。ショックブレイクアウトと呼ばれる現象です。星の中を伝わってきた衝撃波が星の表層に達したときに、急激に温度が上がって星が強烈に輝く現象です。この時の明るさは、爆発後に1〜2週間程度経ってからやってくるピーク時の明るさ(図の最大光度)に匹敵する明るさになると考えられているです。つまり、超新星は二度強烈に輝くのです。
ただ、この現象は、せいぜい数時間くらいしか続かないと考えられているので、見つけることは至難の業。偶然、その超新星が出現する場所を見ていないと、見つけられません。超新星が頻繁に起こるならまだしも、ひとつの銀河では出現する確率は100年間に1回程度と、滅多に出会えるものではありません。実際、偶然に見つかった数例を除き、まだまともにショックブレイクアウトを観測できた事例はないのです。
この難問に挑んでいるのが、東京大学の木曽KWFC超新星探査プロジェクト、通称KISSプロジェクト。ひとつの銀河しか見ないからなかなか出会えないだけで、一度のたくさんの銀河を見られれば、きっと見つけられるんじゃあないか?そんなアイディアに基づき、東京大学木曽観測所が誇る広視野撮像カメラを使って、ショックブレイクアウト探しを進めています。ショックブレイクアウトが見つかる確率は3年間で数個程度とかなり低いですが、ショックブレイクアウト後の超新星は事前の期待通り見つかっており、ショックブレイクアウトを発見することも時間の問題でしょう。今後の研究成果に期待しましょう。
※本コラムは、「本郷宇宙塾」1月の講演を参考に執筆しました。
1979年広島県広島市生まれ。
東京大学理学部天文学科卒業、東京大学理学系研究科博士課程修了 (理学博士)、国立天文台広報普及員、ハワイ観測所研究員を経て現在に至る。
東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラムを担当。専門分野はIa型超新星を用いた距離測定と天文学コミュニケーション論。