2014/09/16
満天の星空を見て「宇宙は広いなぁ」とゆめ思うなかれ。宇宙は広いですが、見えている世界は狭いのです。
今年は広島カープが優勝しそうです。いや、優勝すると信じています。広島生まれの者としてはたいへん喜ばしいことで、テレビ中継についつい見いって しまいます。ピンチやチャンスの度に一喜一憂し、野球に全く興味の無い家人には冷たい眼で見られる日々ですが、そんな中、ひとつ気がついたことがありま す。チャンスの時は右手をぐるっと回して左の側頭部を触り、じっと耐えていると、よく打つんです。いや、ほんと。
まあ、これが功を奏しているのかどうかは神のみぞ知るですが、もしも宇宙人が地球を観察していて、たまたま私を観ていたら意味不明な生き物だと思う でしょうね。この惑星の生き物は大丈夫か。知性はあるのか。私が宇宙人の立場でも、判断に悩みそうです。いや、悩まないで知性無しに○を付けるかな。
でも、私はそんな宇宙人に言いたい。私ひとりを見て人類を判断しないでいただきたい、と。私から人類についてそれなりにわかることもあるかもしれま せんが、地球にはたくさんの人が住んでいるんです。少ないサンプルを見て、全体を見た気になるのはよくありません。もしそうせざる得ないときには、それを しても差し支えない理屈も同時に考えるべきでしょう。
こう書くと、なにを当たり前のことをと思われるかも知れませんが、あなたも知らず知らずのうちに同じ罠にはまっていませんか?例えば満天の星空を見たときにとか。
都心を離れ、街明かりのない理想的な環境に行けば、そこには満天の星空が広がっています。人間の眼で見える限界の明るさである6等星まで数えると、 一晩のうちに見られる数は3〜4000個ほど。都心のまばらな星空を見慣れた者にとっては、(よほどひねくれていない限り)感動的なシーンです。ちなみに 私はひねくれています。
でも、この満天の星空を前にして、素朴に「宇宙は広いなぁ」と言ってはいけません。なぜなら、見えている星のある範囲は決して広くないからです。私 たちの住む銀河系全体では、星の数はおよそ1000億個ほど。一方、満天の星空を構成している星たちは数千個程度。桁にして8桁も違います。8桁、つまり 1億倍です。私たちが肉眼で見える星の数は、この銀河系にある星の1億分の1に過ぎないのです。
左のグラフは6等星までの星がどれくらいの範囲にあるのかを表した図ですが、そのほとんどが数百光年以内の星である事がわかります。銀河系全体が10万光年ですので、数百光年なんていうのは銀河系のサイズに比べて1000分の1程度のスケールです。見えている宇宙は、なんて小さな世界なのか…。
天文学の話は、基本的には日常的な世界とはかけ離れた存在です。こういった世界の話を楽しむときには、スケール感を常に意識するのが良いでしょう。 いま見ているこれの空間的スケールはどうなのか、時間的スケールはどうなのか。いま話題に挙がっているものが、全体のどの範囲のことなのかを意識すると、 より腑に落ちる感が得られるのではないかと思います。ぜひそんな意識を持ちながら、天文学の話題を楽しんでみて下さい。
1979年広島県広島市生まれ。
東京大学理学部天文学科卒業、東京大学理学系研究科博士課程修了 (理学博士)、国立天文台広報普及員、ハワイ観測所研究員を経て現在に至る。
東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラムを担当。専門分野はIa型超新星を用いた距離測定と天文学コミュニケーション論。