過去のレポート都市の“グリーンワークスタイル”を探る

自動車の代替として自転車を活用する ――都市交通のエコ・スタイル(疋田智氏)

エコな乗り物として、近年、自転車通勤やコミュニティサイクルが大いに注目を集めている。しかし一方で、自転車が絡んだ事故が多発し、社会問題となっているのも事実。都市のモビリティの一つとして、自転車を安全に有効活用するためにはどうすればいいのだろうか。自転車ツーキニストとして自転車通勤を実践、自転車の有効活用を説く疋田智さんは、私たちの自転車への認識を新たにすることに加え、ルールづくりやインフラ整備が不可欠だと言う。昨秋、コミュニティサイクルの本格的な社会実験を行った大丸有における、今後の課題について疋田さんに詳しくお話を伺った。

取材協力:Tokyo Bike!!

1. 自転車は車両であることを認識しなければならない
――日本の自転車利用の問題点

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エコな乗り物として、近年、注目を集める自転車だが、都市で普及するには、大きな課題がある。それは、自転車と歩行者、自転車と自動車など、自転車が絡んだ事故が多いこと。とりわけ、先進国では日本で断トツに自転車事故が多いのはなぜか。そこには、狭い国土から起因した、自転車走行に対する日本人の認識の問題があると疋田さんは指摘する。

疋田: ご存知のように、自転車というのは、車両と同じカテゴリーに入る移動体です。道路交通法でも、自転車は車両と同じ扱いで、車道の左端を走るように決められていますね。ところが、これまで日本ではずっと、自転車は歩行者と同じカテゴリーだと思われてきました。これこそが事故多発の根源です。日本の自転車事故の年間死亡者は700人前後と、先進各国の中では突出して多く、不動の1位をキープしています。歩行者と同じカテゴリーだと思い込んでいることから、自転車が右も左もデタラメに走行し、平気で歩道を走り、結果、多くの事故を引き起こしてきたといえます。

なぜ、皆さんは自転車で歩道を走るのか。「自転車通行可」という歩道が多いことにも由来しますが、最大の原因は、車道を走り慣れていないために、車と一緒に走行することを怖いと感じるからではないでしょうか。ところが、それこそが大きな間違いです。歩道では自らが加害者になってしまう可能性があるばかりでなく、歩道の方が、自転車が被害者になってしまうリスクがはるかに大きいんですよ。これは、アメリカやヨーロッパでは常識中の常識です。

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それはなぜか――。自動車を運転するドライバーにとっては、歩道より車道に存在するものの方が、認知度が高くなるからです。つまり、歩道を走っている自転車は、ドライバーから見ると別のカテゴリーのものとして、ドライバーの心に壁ができてしまい、意識の外に追いやられてしまうのです。ところが、歩道を走っている自転車も、交差点では車道に出てきます。この交差点での出合い頭の事故が、自転車が絡む事故の71%* を占めているのです。ドライバーに視認されているかいないかで、結果は大きく変わってしまうのです。交差点事故の割合が、日本では異常に高い。歩道のほうが〈安心〉かもしれませんが、車道のほうが〈安全〉なのです。まずは、安全と安心は違うということを認識してもらいたいと思います。

ドライバーから見ると、車道を走る自転車は危なっかしいし、邪魔だと感じることもある。じつはそれこそが、自転車を認知している証拠であり、安全への第一歩なのである。

* (財)交通事故総合分析センター(平成10〜15年)

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2. 自動車も自転車も歩行者も、鉄則は左側通行 ――自転車を安全に乗るために必要なこと

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