シリーズ知恵ブクロウ&生きものハンドブック

棚田が教えてくれる大切なこと

山の斜面や谷間の傾斜地に、階段状につくられた水田「棚田」。
千枚田とも呼ばれるこの風景は、訪れる誰もが「懐かしい」と感じる日本の原風景であり、私たちの祖先の知恵と苦労がぎっしりと詰まった、大切な財産でもあります。

旅人から「ここの棚田は美しいですね」と言われて、棚田を耕作する農家さんがこう言ったとか、
「棚田って何?これはただの田んぼだよ」。
「棚田」という呼び方自体は、遡ること室町時代くらいにはあったのですが、現在のようにわりと一般に聞かれるようになったのはそんなに昔ではなく、ここ20年くらい。それまでは農家さんにとっては、お米をつくる「ただの田んぼ」でしかありませんでした。最近になって研究者や、都市に暮らす人などが「棚田」と呼ぶようになり、農家さんも「俺の田んぼは棚田って言うのか」と認識を改めたというエピソードがあります。それでは、棚田は平地の田んぼと比べてどんな特長があるのでしょう?

棚田はエライ!

わたしたちの多くが、日本人の心の原風景として美しいと感じる棚田。実はこの棚田は、さまざまな機能を持っているのです。
中山間地に位置するため水のきれいな水源に近く、昼夜の寒暖差が大きい棚田は、おいしいお米を育てます。そして、多種多様な生きものを育む生態系の宝庫でもあり、多くの絶滅危惧種に指定された生きものも見ることが出来ます。また、もともと地滑り地帯に作られた棚田も多く、地滑りや洪水、表土の流出を防いで地下水を蓄えるなど、国土や環境を保全するたくさんの働きを持ったエライ!田んぼなのです。

棚田を耕作するのは大変…。

急な斜面や谷間などに作られた棚田は、実は大型の耕作機械を入れる事はできません。ということは、昔ながらの人力に頼って耕作をする作業も多いのです。耕作農家の高齢化や農村の過疎化、そして減反政策などにより、経済効率の悪い「棚田」は次第にその数を減らしつつあります。お米の生産の場としての棚田は耕作維持をすることが困難になってきているのです。

新しいフィールドとしての棚田

ここ15年ほど、全国で棚田保存会などが次々と立ち上がり、生産の場としての棚田の耕作とは別のアプローチで、棚田の保全や活用が行われるケースが増えてきました。
都市や近隣から、お米作り体験したい人を募って数枚の田んぼを貸してもらい、田植えや稲刈りなどの作業体験が出来る『棚田オーナー制度』の運営。学生・子どもたちの環境学習や農業体験のフィールドとして。生態系保全のためのビオトープとして棚田を活用したり、企業の社員がボランティアなどを行うCSR活動(社会貢献活動)のフィールドとして。そして、地域活性化のためのイベント(棚田の火祭り、棚田カフェなどなど…)を行うフィールドとして。棚田の活用の可能性はますます広がっています。

棚田が教えてくれる大切なこと

今、棚田は、人と生きものをつなぎ、農村と都市をつなぎ、過去と未来をつなぐ新しい舞台となりつつあります。経済効率だけが唯一の価値ではありません。棚田は別の物差し・生き方を示してくれます。"古い棚田"の中に、"新しい再生のヒント"がたくさん詰まっているような気がします。
みなさんも「棚田」へ、そのヒントを探しに出かけてみませんか?

久野 大輔
久野 大輔(ひさの だいすけ)

1972年生まれ。西伊豆松崎町の石部棚田で棚田オーナーを始めたのをきっかけに「棚田病」にかかり、棚田へ通うようになる。
本業のグラフィックデザインの仕事の傍ら、NPO法人棚田ネットワークのスタッフとして、棚田の現状と魅力を一人でも多くの人に伝えるべく、さまざまな情報発信やイベント企画などを行っている。
石部棚田
NPO法人棚田ネットワーク

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