シリーズ知恵ブクロウ&生きものハンドブック

A MIDSUMMER DREAM, MIDNIGHT GLEAM

猛暑と共に梅雨が明けると、本格的な夏空がやって来る。夏は夜。その短い真夏の夜が明けるまで、空を見ていたくなる光の話を。

幽き光の夏

Now it is the time of night - Following darkness like a dream...
(さあ、いよいよ夜の世界だぞ ー 夢のように暗い世界を追っていく…)
- A MIDSUMMER NIGHT'S DREAM, V, i

街明かりを離れ、月の光も無い暗い夜空を見上げてみよう。ベガとアルタイルの間に、霞とも見紛うような淡い光が南へと下っていく。天の川だ。我々の太陽系を含む星の大集団、銀河系を中から見渡して実感出来る、夏の夜空だ。

時折、小さな光が鋭く空を走ることがある。飛行機のように点滅もしなければ、人工衛星のようにゆっくりでもない、一瞬の閃き。流星を、見たことがあるだろうか。都会の明るい空で見ることは難しい。気忙しく空に目を向ける時間も無い暮らしであれば、猶更だ。この連載では都会でも楽しめる星を語るのを主にしているが、夏休みらしく旅先で出会いたい幽き光の話を、今回はしよう。

流れる光の正体を追って

It is some meteor that the sun exhalse To be to three this night a torchbearer...
(あれはお日様が吐き出した光か何かで、今宵あなたのために、炬火を持つ役を受け持ち…)
- ROMEO AND JULIET, Ⅲ,v

古来、流星はしばしば天変の象徴とされた。流れて消える人の魂、悪魔に投ぜられた神の礫、天の扉から漏れる光。キリスト教では世界の終末に星が落ちると説く。
一方で、自然現象としての流星を、人はどう理解して来たのだろう。アリストテレス以来、流星は"気象現象"であった。完全なる天上の世界ではなく大気中の蒸気や発火であると考えたのだ。天体現象の一つと理解されるようになるのは、18世紀以降のこと。1798年、ドイツで初めて流星の高度が観測され、宇宙に近い場所の現象だと明らかになった。天体観測と天体力学が花開いた19世紀、流星と彗星の軌道の類似、周期の関係から、流星の起源が彗星であることが見出される。

流星の正体は、大きさ1ミリ程度、重さたった数マイクログラムの塵粒だ。この小さな粒子が、秒速数10kmという高速で地球に突入し、大気の分子、原子と衝突して、互いの電子を励起させる。こうして粒子が駆け抜けた後に残ったプラズマの発光を、私達は流星として見上げているのだ。

流星群の夏

And certain stars shot madly from their spheres. To hear the sea-maid's music.
(天上の星も、その歌の調べを機構として、狂おしくさわぎたったものだ)
- A MIDSUMMER NIGHT'S DREAM, Ⅱ, i

何もない日でも1時間に数個の流星が流れている。だが、年に何回か、流星の数が増える時期がある。同じ彗星から放出されて軌道上を漂う粒子の群が地球に衝突する"流星群"だ。7月下旬から8月中旬にかけて、規模は小さいものの幾つかの流星群が集まって活動している。そのために、普段よりも流星に出会いやすいだろう。

しかし、最大のチャンスは、何と言っても"三大流星群"の一つ、ペルセウス座流星群だ。例年8月12日の夜から13日の明け方にかけて迎える活動のピークでは、1時間に50個程度の出現を見せる。今年は月明かりの影響も少なく、流星を楽しむには良い条件だろう。望遠鏡も双眼鏡も要らない。照明の無い空の開けた場所で、夜半から未明の間、ただゆっくりと腰を据えて空を見上げていればいい。そう言えば、三菱一号館美術館で開催されている美術展には、勇者ペルセウスの活躍を描いた絵画が来日しているらしい。

女神の会合

Let her shine as gloriously As the Venes of sky, When thou wakest, if she be by...
(夜空にかかる金星のごとく、いよいよ光り輝くよう。目が醒めて、かたわらにいたならば…)
- A MIDSUMMER NIGHT'S DREAM, Ⅲ, ii

ペルセウス座流星群の活動が続いている翌14日の早朝、もう一つ注目の天体現象が起きる。夜毎に形と位置を変えていく月は、夜空の中を思いがけないスピードで動いている。その月に明けの明星が隠される金星食が、ほぼ日本の全国で見られる。
国立天文台による解説ページ
ウェヌス(金星)が再びディアーナ(月)を離れると、東の空にはアウローラ(曙)の気配が漂い始め、流星の小さな光も消えていく。上方には木星が輝いている。地平線近くに水星を見つけたら、貴重な体験だ。見回せば、おうし座、ふたご座、オリオン座。短い夏の夜の夢心地の間に、空はもう冬支度だ。

And yonder shines Aurora's harbinger;
(かなた向こうの空にぴかりと一つ、暁の女神のお先触れが)
- A MIDSUMMER NIGHT'S DREAM, Ⅲ, ii

(平井正穂、福田恒存の翻訳に基づく)

内藤 誠一郎
内藤 誠一郎(ないとう せいいちろう)

東京大学大学院にて電波天文学を学び、野辺山やチリの望遠鏡を用いて分子雲進化と星形成過程の研究を行う。
国立天文台では研究成果を利用する人材養成や地域科学コミュニケーションに携わり、2012年からは現職で広く学術領域と社会とのコミュニケーション促進に取り組む。修士(理学)。日本天文学会、天文教育普及研究会会員。東京都出身。
自然科学研究機構 国立天文台 広報普及員
(社)学術コミュニケーション支援機構 事務局長
天文学普及プロジェクト「天プラ」 プロジェクト・コーディネータ

おすすめ情報