シリーズ知恵ブクロウ&生きものハンドブック

浮いては消える、太陽黒点のメカニズム

太陽は私たちにもっとも近い恒星であり、唯一詳細に観測することのできる天体です。しかし、その理解は簡単ではありません。例えば、黒点はどうできるのか。今回はそのお話です。

沸き立つ太陽

季節は五月。年度初めの忙しさもひと息つき、あたたかな陽気に誘われて、ついついぼんやりとしがちな季節です。風も吹かない穏やかな午後、外の喧噪から離れひとり静かにみそ汁を温めれば、うっかりぐつぐつと沸騰してしまう事もあるでしょう。あるとしましょう。
そんな時、沸き立つみそ汁は太陽となります。鍋の底から次から次へと沸き上がってくるみそ汁の流れは、太陽表面を覆い尽くす粒状斑(グラニュール)のよう。時間的にも空間的にもまったくスケールの異なる現象ですが、似たような構造となるのは自然界の不思議です。

もちろん、太陽はプラズマの塊なのでみそ味はしませんが。

この粒状斑は、いったいどの深さから沸き上がってくるのか。その事については、まださっぱりわかっていません。正確に言えば、その事も含めて太陽の内部構造についてきちんと理解できていることは、ほとんどないのです。その象徴ともいえるのが、黒点の存在です。
太陽の黒点の正体は、磁力線の塊です。太陽には全体的に磁力線が貫いていますが、黒点には磁力線が集中しており、強烈な磁場を形作っています。みそ汁の例えのように、太陽の奥から沸き上がってくる熱いプラズマは、太陽の表面まで来ると冷やされて、再び奥へと沈み込んでいくという循環を繰り返しています。しかし、この強烈な磁場に捕らえられてしまったプラズマはふたたび沈み込むことを許されず、だんだんと温度が下がっていき、周囲よりも温度が低い暗いプラズマの塊となります(とは言っても、約4,000度もしますが)。これが、黒点の正体です。

黒点はどうできるのか?

実際、黒点の観測からはこのモデルを支持する結果も多く得られています。理論計算でも、だんだんとこのモデルを再現する事ができるようになってきました。少しずつ、しかし着実に、太陽研究者たちは正解に迫っているのです。とはいえ、観測的な制限から肝心の太陽の高緯度側の観測がなされてなかったり(地球からは太陽の極付近を見下ろすことができない!)、太陽表層から少し入った内側の事もよく見えていませんし、そこを補完する物理モデルもまだまだ十分ではありません。

鍋の沸き立つみそ汁を理解するのも簡単ではないことを思えば、太陽を理解する事が簡単でないのは当然です。今後、日本を始め、世界の太陽研究者がどのような成果を上げていくのか、期待しましょう。

高梨 直紘
高梨 直紘(たかなし なおひろ)

1979年広島県広島市生まれ。
東京大学理学部天文学科卒業、東京大学理学系研究科博士課程修了 (理学博士)、国立天文台広報普及員、ハワイ観測所研究員を経て現在に至る。
東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラムを担当。専門分野はIa型超新星を用いた距離測定と天文学コミュニケーション論。

天文学普及プロジェクト「天プラ」代表
東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム

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