シリーズ知恵ブクロウ&生きものハンドブック

小惑星にも環がある?

遠くから来る光がどのように遮られるのかを調べる事で、遮ったものの正体を探ることができます。今回は、そんなお話。

見えないものを見る

だんだんと春らしい陽気の日も増えてきた4月。まだまだ肌寒い日もありますが、着実に季節が進んでいることを感じます。この季節になると、夜の散歩も気持ちが良いもの。風のない穏やかな夜には、夜空を楽しみながら少し散歩してみるのも楽しいものです。

ところで、晴れている晩に夜空を見上げていると、意外と多くのものが飛んでいることに気がつきます。飛行機は当たり前としても、よーく見ているとじーっと動く光の点を見つけることもあるでしょう。これは人工衛星です。逆にすごく近いところでは、なにやら正体不明のものがばっさばっさと飛んでいるのも見かけます。空を見ろ、あれは何だ?鳥か?飛行機か?(いや、飛行機はわかるでしょ)

空の暗いところを飛んでいても、それがなんだかはよくわかりません。どうしたら正体を知ることが出来るでしょうか?いろいろな方法があるかと思いますが、ひとつは、そのなにかが明るいビルの前を横切った時に、そのシルエットから正体を推測することです。シルエットの特徴から、カラスかコウモリかくらいは区別がつけられそうです。
天文学の世界でも、それと同じ原理が使えます。いったいどこで使うのか?実は太陽系の中にいる、小惑星の素顔を知るために使うのです。

環がある小惑星?

太陽系には、太陽や惑星以外にもさまざまな天体が所属しているのですが、それらのひとつに、小惑星があります。小惑星の正体は、大雑把に言えば岩や氷の塊です。火星と木星の間にある小惑星帯にある小惑星や、地球に接近する軌道を取るもの、あるいは木星と海王星の間にいるケンタウルス族と呼ばれるものまで、さまざまな小惑星がいることが知られています。これらの小惑星はさまざまな形をしており、その形を知ることも、研究上の大事な関心のひとつになっています。変な形、楽しいですもんね。

もちろん、ひとつひとつの小惑星の近くまで探査機を飛ばしてじっくり観察するという手もあるのですが、お金が掛かりすぎるのが玉に瑕。くるくる自転しているであろう小惑星の明るさの変化を地球上から観察して、そこから形を推測するなんてやり方もあるのですが(ラグビーボールが回転すると、見るタイミングによって形がいろいろ変わるのと同じ理屈)、もっとスマートなやり方として、恒星の前を小惑星が横切る現象(掩蔽現象)を使うという方法があります。太陽系よりもはるか彼方にある星の手前を小惑星が通過すると、星からの光が遮られ、その明るさが変化します。その変化の様子から、小惑星の形を推測するのです。

2014年春、この方法を使った研究で画期的な発見がありました。なんと環があると思われる小惑星が発見されたのです。研究グループが観測したのは、Chariklo(カリクロ)という小惑星。土星と天王星の間にある、大きさが250キロメートルと比較的大きな小惑星のひとつです。このカリクロが、「UCAC4 248-108672」という星の手前を通過する掩蔽現象が2013年6月3日にあったのですが、その観測データを分析した研究者らは驚くべきことを発見をしました。小惑星本体による減光の前後にも、わずかな減光があることを見つけたのです(図)。おお!…って思ってもらえましたかね?

対称性を持ったこのわずかな減光は、いったいなにを意味するのか。素直な解釈は、小惑星が環を持っているとすることです。小惑星本体が星に被るその直前と、小惑星本体が星の前を通過し終わった直後に、環が少しだけ星からの光を遮ったと解釈するのです。土星はもちろん、木星、天王星、海王星にも環がある事は知られていましたが、スケールで言えば100倍くらい小さなカリクロにも環があるとすれば、その起源や維持する機構など、新たな謎が次々と浮かび上がってきます。すごい発見、ですよね?

掩蔽現象を利用した研究は、方法論としてはとてもシンプルなものです。でも、そこからこんな驚くべき発見がある。これがまさに天文学の魅力のひとつかと思います。今後の研究の進捗に期待しましょう。

高梨 直紘
高梨 直紘(たかなし なおひろ)

1979年広島県広島市生まれ。
東京大学理学部天文学科卒業、東京大学理学系研究科博士課程修了 (理学博士)、国立天文台広報普及員、ハワイ観測所研究員を経て現在に至る。
東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラムを担当。専門分野はIa型超新星を用いた距離測定と天文学コミュニケーション論。

天文学普及プロジェクト「天プラ」代表
東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム

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