2014/11/18
まあ、なんでも知っているわけではないのですが。でも、彗星は太陽系の秘密を知っています!そんな話です。
最近は仕事帰りに見上げる空も、すっかり秋から冬の星空へと装いを変えました。朝晩の冷え込みも少しずつ厳しさを増し、都心でも冬の足音が近づいてきたのを感じます。でも、寒いから嫌ということはありません。寒ければ寒いほど、温かくした家での幸せは増します。寒い日にこたつに入ってアイスをほおばるなんて、なんて退廃的な喜び…。
でも、こんなことを言えるのは現代人だからでしょう。歴史の教科書で見かけるような、竪穴式住居。ああいう住環境では、昔の人はいったいどうやって暖を取っていたのか。再現実験する気も起きないほど、寒そうです。ひ弱な現代人などは、すぐに風邪を引いてギブアップしそうです。まあ、現代でも南極に行って数ヶ月キャンプ生活でもピンピンしている研究者もいますので、一概には言えませんが。
とにもかくにも、昔の人はいったいどんな生活をしていたのか。今となっては、それを知る手がかりは遺跡を発掘してその痕跡を調べ、そこから当時を想像するしかありません。もちろん、昔の暮らしが残されている地域に出かけて調査研究する方法論もあるでしょうが、いっそのこと数千年前の時代が目の前に出現してくれれば、楽ちんなのに…。
実はこれ、できちゃいます。考古学の世界では無理ですが、天文学の世界では可能です。欧州宇宙機関(ESA)の打ち上げた彗星探査機ロゼッタ(Rosetta)によるチュリュモフ・ゲラシメンコ(Churyumov–Gerasimenko)彗星の探査が、まさにこれを狙ったものなのです。
太陽系の惑星は、太陽の誕生した46億年前に同時に誕生しました。と言っても、いっせいのせ、でできたのではなく、まずは小さな天体(微惑星)が形成され、それらの微惑星が衝突・合体を繰り返しながら大きくなって、今の惑星のサイズになったものと考えられています。しかし、そのことを証明するのは簡単ではありません。
例えば地球上で46億年前の衝突・合体の証拠を探しても、見つけることはできません。なぜなら、地球の表面は46億年前の微惑星だったころの面影をほとんど残していないと考えられるからです。ある程度の大きさに成長した原始惑星の内部では、衝突に起因する熱でどろどろに融けてしまった惑星の成分が分化し、鉄やニッケルなど重い成分は惑星の中心部へ沈み、ケイ素など軽い成分は惑星の表面へ浮かびあがってきて、いまの地表を構成していると考えられているからです。今の東京の街を調べても、数千年前の暮らしは想像できないのです。
しかし、彗星は違うのです。太陽系ができた当時に存在していた微惑星の材料となった小天体が、微惑星に吸収されることなくそのままの姿で残っているものが、彗星であると考えられているのです。
46億年前の世界がいったいどのようなものであるのか。そのことを調べるために、ロゼッタはチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に向かいました。そして日本時間11月12日18時3分に着陸機フィラエ(Philae)の切り離しを地球へ報告し、翌日午前1時3分に、人類史上初となる彗星表面へのタッチダウン成功を報告したのでした。
残念ながら太陽電池パネルによる電力確保に失敗したため、内部電池で活動できる時間内でしか調査は行われませんでしたが、それでも彗星表面のサンプル調査など重要なミッションが実施されました。
これらのデータが、私たちにいったいなにを教えてくれるのか。今後の研究に期待したいと思います。
1979年広島県広島市生まれ。
東京大学理学部天文学科卒業、東京大学理学系研究科博士課程修了 (理学博士)、国立天文台広報普及員、ハワイ観測所研究員を経て現在に至る。
東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラムを担当。専門分野はIa型超新星を用いた距離測定と天文学コミュニケーション論。