シリーズ知恵ブクロウ&生きものハンドブック

宇宙に生き物はいるか?

この宇宙には、私たちの住む地球以外にも生命の溢れる世界があるのでしょうか。

東京の夜景は星空の如し

今年もそろそろ終わりが迫ってきました。仕事帰り、電車に揺られながらぼーっと物思いにふける、そんなことが似合う季節でもあります。今年できたこと、できなかったこと、反省すること、反芻すること。さまざまなことを思い返しながら、目の前を流れていく東京の街を眺めます。
あの街に灯る明かりの下では、誰かが暮らしている。もう家について楽しく食事をしている家族もいれば、親の帰りを待つ子がひとりで遊んでいるかもしれない。はたまた、喧嘩しているカップルもいれば、私と同じように物思いにふける子もいるかもしれない。いまこの瞬間にも、そんなさまざまな人の世界があの明かりの下にあるのだということを考えるたびに、この人の住む街のぬくもりを感じます。

私にとっては、星空も街明かりと同じです。ひとつひとつの星の下には、惑星系があるかもしれない。それらの惑星の中には、生き物がいるものもあるかもしれない。私たちが太陽からの光を受けて暮らしているように、いまこの瞬間にも、あの星の周りにあるはずの惑星では日々の暮らしがあって、そこでは同じようなことを感じている存在があるかもしれない…。そのように考えれる時、星は冷たく光っているのではなく、東京の街明かりのように暖かな光を放っているように感じるのです。

もっとも、東京の街明かりの下には確かに人が住んでいることを私たちは知っていますし、その気になれば確かめにいくことも可能です(ドアは開けてくれないかもしれませんが)。それに対して、夜空に輝く星たちの世界に、本当に生き物がいるのかどうかについては、まだなにもわかっていませんし、直接確かめに行くことも困難です。先ほどの話がまったくの妄想であるのか、それとも確かな見方であるのか。それを知るには、まだまだ多くの時間と努力が必要でしょう。

しかし、それは不可能なことではありません。現代の科学・技術をもってすれば、十分に可能なことなのです。例えば太陽系外惑星の探査は、その象徴的な例のひとつでしょう。すでに地球とそう変わらないサイズの惑星について、たくさん見つかっています。これらの惑星の表面に大気があるのかないのか、さらにはその成分がなんであるのかについても、観測によって確かめる方法論が確立しており、あとは時間とお金と努力の問題になっています。注目すべきは、太陽系の外だけではありません。太陽系の内でも、生命の存在について大きな発見が続いています。そのひとつが、火星大気中でのメタン発見です。

火星のメタンのルーツを探る

火星の大気にメタンがある。そのことが最初に報告されたのは、2009年のことでした。このニュースは、驚きを持って迎えられることになります。ありふれた物質のひとつであるように思われるメタンが存在することの、いったいなにがすごいのか。それは、メタンが生命の存在と深く関係する物質だからです。

ふつう、大気中にあるメタンはほっておけば、太陽からの紫外線照射などを受けて分解されてしまいます。したがって、安定的に大気中にメタンがあるということは、常になんらかのプロセスによってメタンが供給されている必要があります。彗星衝突など、惑星外からメタンが持ち込まれる可能性もゼロではありませんが、それよりも火山噴火の際に放出されたり、有機物の分解によって生じると考えられています。有機物が生じたり、それがバクテリアなどによって分解されるプロセスそのものが、生命の存在を示唆することになるのです。

火星のメタンは、火山起源のものなのか、生物起源のものなのか。それを確かめるには、直接火星まで探査機を飛ばして生命の有無を確かめるという直接的なやり方もあるのですが、それはなかなかコストもかかってたいへんです。もしも地球からの火星観測によって、少なくとも火山起源でないことを示唆できれば、生物起源である可能性がぐっと高まるはず。そのように考えた日本の研究グループによって、火星大気中の火山ガスの含有量が調べる試みが行われました。その結果、火星の大気中の火山ガスはあったとしても少なく、火星のメタンが火山起源ではないことが示唆されたのです。

もしも私たちの地球の兄弟星とも言える火星に生命が存在するのであれば、この宇宙には私たちが思っていた以上にたくさんの生命が存在するという見方をすることが可能になります。もっとも、火星のメタンに関しては、その後の火星探査機の調査ではなぜか検出されず、メタンが常に存在するのかどうかについては、よくわからなくなっています。

しかし、宇宙における生命の存在可能性について、これまでになくさまざまな手がかりやヒントが見え始めているのも事実でしょう。私たちの住むこの宇宙は、生命で満ちた世界なのかどうか。今後の研究の発展に期待して、連載の終わりにしたいと思います。

高梨 直紘
高梨 直紘(たかなし なおひろ)

1979年広島県広島市生まれ。
東京大学理学部天文学科卒業、東京大学理学系研究科博士課程修了 (理学博士)、国立天文台広報普及員、ハワイ観測所研究員を経て現在に至る。
東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラムを担当。専門分野はIa型超新星を用いた距離測定と天文学コミュニケーション論。

天文学普及プロジェクト「天プラ」代表
東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム

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