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【寄稿】「自転車で低炭素!」大丸有コミュニティサイクル実験への期待と課題(2)

【寄稿】小林成基・NPO自転車活用推進研究会 事務局長

○ 主体は「官」から「民」へ

news091118_03.jpg運営は民間会社が請け負う。公共団体が運営すると、公平平等についての問題が発生する。つまり、IT化された公共の個人認証システムは、わが国の住民基本台帳ネットを見てもわかる通り、まったく国民生活に定着していない。現状では、認証と課金が簡単にできるクレジットカードや携帯電話のシステムを利用するしかないが、これらを持っていない人は公共自転車を借りることができない。「官」がやれば、不公平とそしられるが、「民」がやれば、それは民民の契約であり、なんら問題は生じない。自治体は、公共的な土地の占用を認め、電力やインターネットの接続など必要な公益特権を認めるだけである。

こうした新機軸が市民の理解を得るまでには、時間がかかる。失敗しても市民の税金を使っていなければ、罪は軽い。というので、最も肝心なメンテナンスを含め、設置から運営の費用いっさいは民間任せである。

ホワイトバイクから約30年、数多くの失敗と試行錯誤を重ねて、大規模な成功例とされたのはリヨン市で2004年に始まった「ヴェロブ」だった。ラテン語系の言葉で「Velo」は自転車を意味する。これに愛する「Love」を組み合わせた造語である。この成功を受けて、同じ会社がパリ市で始めたのが「ヴェリブ」。こちらは自由「Liverty」を組み合わせた。人口217万人、ほぼ名古屋に匹敵する大都会・パリ市全域に、約300メートル弱の間隔で貸し出し返却拠点をつくり、20,600台もの自転車を配置した。半年間で述べ20万人が利用すれば成功、と目標を立てたが、実際には初年度に2,700万アクセスを超える実績をあげた。世界中が驚き、注目した。パリ市長は第二のフランス革命と大いばりである。

成功の影には盗難や破壊、歩道の暴走や初期の大渋滞など問題もあった。また、それまでの12年間で市内の自転車走行空間を、95年の約8キロメートルから50倍の400キロメートルにまで延伸するなどの環境整備があったことを忘れてはならない。一般のクルマでの移動を不便にし、路線バスの専用レーンをつくり、違法駐車を徹底的に排除するなどの総合的な取り組みも見逃せない。

○ 大きな期待と今後の課題

news091118_02.jpg今回、大丸有地区でおこなった、コミュニティサイクル社会実験は、5ステーションに50台と、パリ市のそれに比べるべくもないが、純粋に一定地域内での交通を脱炭素化した点では、本家に匹敵するシステムである。わが国でおこなわれている実験のほとんどが、通勤の手段を兼ねており、これを本来の意味のコミュニティバイクと呼ぶことには抵抗を感じる。パリ市などでは、ランチタイムに歩いて行ける範囲を越えて店を選ぶ人が増え、個々の店では客数は変わらないのに、足を伸ばしてくる客のせいで客単価が上昇したという報告もある。大丸有地区でも同じような朗報が聞けるだろうか。それともまだまだ解決すべき課題が明確になってくる結果になるだろうか。計画段階から参画したひとりとして、実験結果を固唾をのんで見守っている。

現在のさまざまな規制や制限の下で、最大限可能な利便を準備したつもりだったが、心残りがひとつある。使うときのちょっとしたことだ。

使いやすい小径自転車なのに、外装6段の変速機付きになっていたことだ。外装変速機はチェーンが送られている状態でなければ変速できない。慣れない人はギア比を高くしたまま停止してしまい、こぎだすときにふらついたりして危険である。停止状態で変速できる内装ギアを準備するのが当然であり、不特定多数の人を相手にするというデマンドサイドの配慮が欠けていた。実験はこうしたごく些細なことで、評判は簡単に地に落ちる。

これからもさまざまな試みがおこなわれるだろう。新しい時代の交通を創造しようとする意欲と努力を、日本中に広げていくためにも、細部にまで及ぶ細心の配慮と戦略性を期待したい。