東京都千代田区大手町一丁目。ここに何があるかご存知でしょうか?
三井物産ビルの脇に、平将門公の首をお祀りする「将門塚」があります。そして、今はお茶の水駅の近く外神田の地に鎮座まします神田明神も、かつてはこの付近にあったと伝えられています。
大丸有(大手町・丸の内・有楽町)と言えば、高層ビルが立ち並ぶ、世界でも有数のビジネスセンターです。このエリアに、歴史の重みを感じさせる「将門塚」があることは驚きですが、さらに驚くのは、神田明神のお祭りが開かれる5月、このエリアが江戸の下町へと変貌することです。正装に身を包んだ神職、紋付袴姿の氏子総代に、神輿を担ぐ半纏姿の氏子たち。江戸時代から続く文化とまちのつながりが、今も息づいています。
今年は5月9日(日)に、神田明神・大神輿と将門神輿が将門塚と大手町・丸の内周辺を巡行することになっています。
さて、この辺りで神田明神のお祭りについて整理しておきましょう。
日本三大祭、江戸三大祭として名高い「神田祭」は、まさしく神田明神のお祭りですが、残念ながら今年開催されるお祭りは、その神田祭ではありません。
江戸時代の延宝年間・四代将軍家綱公の治世までは、神田祭は毎年斎行されていましたが、綱吉公が五代将軍になった天和元年(1681年)から、隔年斎行となりました。当時、江戸のまちを大いに賑わせていたのは神田明神の神田祭と日吉山王権現(現在の日枝神社)の山王祭。2つの祭りは毎年の楽しみであると同時に大きな費えを伴う一大イベントでした。江戸のまちの疲弊を懸念した幕府が、町民の負担を軽くしようと配慮して、2つの祭りが交互に斎行されるようになった結果です。どちらの祭りも、江戸城内への神輿の巡行が許され、将軍直々の上覧があったことから、いつしか天下祭と呼ばれるようになりました。
その後、明治維新を経て、大正~昭和~平成と時代の荒波に揉まれながらも、江戸っ子に愛され続けてきた神田祭。近年では、「神田祭」(本祭[ほんまつり]と呼ばれます)の間の年に、小規模の「蔭祭(かげまつり)」が斎行されるようになりました。
今年はその蔭祭の年に当たりますが、例年以上に見所満載、初物づくしの蔭祭が斎行されることになっています。というのも、今年は、神田明神の御祭神・平将門公の奉斎700年奉祝の意味合いを込めています。将門公奉斎は、延慶二年(1309年)のことです。
ところで、神田明神は神田・日本橋・秋葉原・大手町・丸の内の「江戸108町会の総氏神」と称されますが、江戸時代、その町数は200を超えていたとも言われています。当時、氏神と氏子の関係は緩やかで、一つのまちが複数の氏神を崇敬することも珍しくありませんでした。天下祭の神田祭・山王祭で神輿を担ぐことを許されたのは、大伝馬町・南伝馬町・小舟町(今の日本橋の町々)の町民だったと言われていますが、このことは、この町会が神田明神・日吉山王権現をともに氏神としていたことを表しています。ちなみに、これら「伝馬町」は、幕府や諸大名の交通・通信を担う国役を負った重要なまちでした。それが、明治時代に一町一社とすることが定められ、神田明神を氏神に持つ町会は108町となりました。
話をお祭りへ戻します。
ズバリ、今年のお祭りの見所は、神田明神・大神輿と将門神輿の揃い踏みです。神田明神を出発して大鳥居を出るまでの間(朝9時ごろ)、将門塚での奉幣の儀(12時半ごろ)、そして将門塚からサンケイビルまでの間で、2基の神輿が並んで巡行します。
ここで、みなさんに声を大にしてお伝えしたいのは、例年、大丸有で働く多くのビジネスマンが、将門神輿の担ぎ手になっているということです。今年その数は、大丸有に籍を置くそうそうたる企業から、総勢700人を超える予定です。アナタの同僚も参加しているかも?
また、日本に古来より伝わる2つの物語、「大江山凱陣」と「大鯰と要石」を再現した附け祭が、蔭祭に初登場するのも見所の一つです。氏子町々の子供たちが中心となって曳く予定です。
今年のゴールデンウィークの締めは、今も息づく江戸の文化と町の粋を体感しに、休日出社ならぬ、神田明神へ「出社」してみてはいかが?
*写真1枚目:大手町を練り歩く将門神輿
*写真2枚目:浮絵神田明神御祭礼之図 喜多川歌麿2代 文化3~13年(1806~16)
*写真3枚目:神田御祭礼 飯田町中坂上ル図 作者:歌川芳藤 作成年:弘化4~嘉永5年(1847~52)
*写真4枚目:神田明神から宮出しする大神輿
(写真提供:いずれも神田明神)
5月7日(金)18時 将門塚保存会大神輿(将門神輿)神霊入れ <於:神田明神>
5月8日(土)19時 大神輿遷座祭 <於:神田明神>
5月9日(日)終日 神田明神大神輿渡御・将門塚保存会大神輿(将門神輿)渡御
[大神輿巡行路] [将門神輿巡行路]
5月17日(月)14時 例大祭 <於:御社殿内>
5月18日(火)11時 献茶式(表千家家元奉仕)<於:御社殿前>
5月18日(火)18時 明神能・幽玄の花(金剛流新薪能)<於:御社殿前特設舞台> ※有料
さらに詳しい情報は、神田明神のサイトまで。