去る6月28日(月)に開催された第31回地球大学のテーマは「TOKYOが牽引する日本のエネルギー構造改革」。
ゲストに、
・山家公雄氏(エネルギー戦略研究所株式会社・取締役 研究所長)
・福泉靖史氏(三菱重工業株式会社 エネルギー・環境事業統括戦略室 次長)
・井上成氏(三菱地所・都市計画事業室副室長/エコッツェリア協会事務局長)
のお三方を招いて、「スマートグリッド」に「生グリーン電力」、「電気自動車(EV)」など、日本の、そして東京のエネルギー構造改革を推し進めていくにあたって鍵を握る技術やコンセプトについて話を伺いました。
まずは、エネルギーの構造改革がなぜ必要か?モデレーターの竹村真一氏のイントロダクションから。
「CO2排出削減、低炭素化もさることながら、エネルギー安全保障の観点からも、日本の、東京のエネルギー構造改革が必要です」
ここ数年、日本のエネルギー自給率は7%前後、石油依存度は50%前後で推移しています* 。
昨今、CO2排出削減の観点でエネルギーが論じられる傾向にありますが、エネルギー自給率の低さと石油依存度の高さには、太平洋戦争とオイル・ショックで、日本は苦い経験をしてきました。
ピーク・オイルによる石油価格上昇が指摘される中、持続可能な産業構造を構築するためにも、石油からの脱却を前提にしたエネルギー構造の改革が必要とされています。
「スマートグリッド」という言葉の意味は、使う人によってまちまちで、実に多義的ですが、山家氏は、「スマートグリッド」を「ICT技術と蓄電池、蓄熱技術をエネルギーインフラに利用して、エネルギーの効率的な創造・利用やエネルギーアセットの有効活用を促すシステム、事業」と定義します。
ここで特徴的なのは、「スマートグリッド」を、電力網・電力システムの枠を超えて、エネルギー全体で捉えていることです。
山家氏は、スマートグリッドの展開について次のように考えます。
「スマートグリッドで主役を担うのは、CO2フリーのエネルギー源だと考えています。省エネの徹底は大前提です」
「エネルギー消費者が、再生エネルギーの発電装置や、電気自動車(EV)に代表される蓄電設備を持つことで、単なる需要者から、生産も行う"プロシューマー"へとなる。すなわち、需要側がアクティブなプレイヤーになることが、スマートグリッドを成立させる前提であると同時に、スマートグリッドがもたらす大きな社会変革の姿だと考えています」
山家氏によれば、「プロシューマー」は、個人や家庭だけでなく、新丸ビルのようなオフィスビルや、地域もその主体になりうるということです。
「プロシューマー」を中心に据えることによって、とかくシステマティックに捉えられがちな「スマートグリッド」のシステムの中で、需要側の人間の主体的な関わりが重要であることが、改めて想い起こされます。
続いて井上氏からは、大丸有エリアのエネルギーマネジメントと、その一環で導入した「生グリーン電力」についての説明がありました。
「2000年から2010年の10年間に大丸有エリアでは20棟のビルを更新しました。現在建設中のものも含めて、今後10年で10棟のビルを更新していく予定です。大丸有エリアには104棟のビルがあって、そのうちの30棟、およそ30%が、20年の間で更新されることになります」
CO2排出量の見通しはというと、
「2020年には、公表値ベースで1990年比1.4倍、使用実態を加味すると1.8倍になるというシミュレーション結果も出ています」
つまり、90年比25%削減を実現するには、見通しから半減以上の削減努力をすることが求められていることになります。
「最先端の省エネ機器をトップランナー方式で導入することで、ビル内部で40%の電力使用量を減らすことができる試算です。また、創エネという観点では、太陽光発電や風力発電を可能な限り導入していますが、そうしたオンサイトの再生可能エネルギーでまかなえるのは、ビル全体の電力需要の1%にも満たないのが現実です」(井上氏)
これでは、ビルやエリアの取り組みだけで25%削減を達成するのは到底不可能です。井上氏によると、そこで、
「オフサイトの地域と連携しながらCO2排出削減に取り組む方法として、"生グリーン電力"の導入に踏み切った」ということです。
現在の大丸有エリアのCO2排出総量は年間約80万トン。"生グリーン電力"の導入により年間約2万トンの排出量削減が見込めます。新丸ビルの他に10棟、20棟と同じ仕組みを導入していけば計算上は大幅な削減を達成できるわけですが、
「ビルを運用していく中で、自然エネルギーの不安定さを日々実感しています。まずは1年間、"生グリーン電力"で新丸ビルを運用して、その結果を踏まえて、大丸有エリアでの次の対策を考えていきたい」(井上氏)というのが現状のようです。
自然相手の難しさにどう対応していくか?新丸ビルでのデータやノウハウの蓄積が、これからの自然エネルギーの普及・発展につながっていくことを期待してやみません。
福泉氏は、スマートグリッドと電気自動車(EV)の親和性、スマートグリッドにおける電気自動車(EV)の役割・可能性について、さまざまなことを論じました。
中でも印象的だったのは、「交通の電化とエネルギーインフラへの統合」という観点からの一つの提案です。
「電気バスを導入し、ITS(高度交通システム)を整備した高速道路にバス専用レーンを設けて、鉄道よりも柔軟性の高い公共交通システムを導入する」(福泉氏)というものです。
通勤・通学時間帯と日中では人の動きは変わります。時間帯ごとに変動する人の動きにあわせて、公共交通システムの側が柔軟に運行経路を変える、というのが具体的なイメージです。時間帯に応じた経路の変更は、ITSで制御します。
電気自動車(EV)をエネルギーシステムの側だけから見ていると、台数が多ければ多いほどいい、という発想にもなりかねませんが、それでは交通システムとして見たときに問題を引き起こすことになりかねません。
電気自動車(EV)をスマートグリッドの中の重要な器官として位置づけながらも、交通システムの一部として捉えて、社会全体で最適な形態を模索する。こうした統合的な都市設計の重要性が、ますます問われてくるように思います。
福泉氏は、プレゼンテーションの最後を次のような言葉で締めくくりました。
「スマートグリッド、スマートコミュニティというのは、限定されたエリアのエネルギーマネジメントではなくて、大需要地の都市だからこそ引き起こせるグリーン・イノベーションだと考えています。大需要地では大勢の人に設備投資にかかるコストを薄く広く負担してもらうことができます。そこで集めた資金は、エネルギー生産地である地方へ分配することで、地方で自然エネルギーを生産するインセンティブへとつなげることができます。これはまさに新丸ビルの"生グリーン電力"のモデルそのものですが、これからの日本が取り組んでいくべき姿だと考えています」
実はこの指摘、福泉氏だけでなく、皆さんが言葉を変えて説明していました。
東京にしかできない、東京だからこそできるエネルギーシフト。
それはまさしく、日本のエネルギー構造を変革する大きなポテンシャルを秘めていると言えるでしょう。
テーマ:TOKYOが日本の森を元気にする
日時:2010年7月26日 (月) 18:30~20:30
ゲスト:北川原 温氏 (東京芸術大学 教授 /北川原温建築都市研究所 主宰)
小沼 伸太郎 氏 (三菱地所ホーム株式会社 発注統括室長)
企画・司会:竹村真一氏(Earth Literacy Program代表/エコッツェリアプロデューサー)