地球大学アドバンス第35回は、「地球食」をテーマに10月18日(月)に開催されました。以下のお二人をゲストに迎え、食糧消費都市・東京で食のあり方を考えます。
・三國 清三氏(「オテル・ドゥ・ミクニ」オーナーシェフ/「立ち上がる農山漁村」有識者会議メンバー)
・小松 俊昭氏(金沢工業大学 産学連携室 コーディネーター 家守公室代表)
今回の地球大学アドバンスは、会場に来られない方にもお楽しみいただけるようUSTREAMで試験的に生中継されました。また、スペシャル・ゲストとしてフランスを代表する女性3つ星シェフ、アンヌ=ソフィー・ピック氏を迎え、フランス全土の学校で子ども向けにおこなわれている「味覚の授業」についてお話いただきました。シェフ手製の味覚のサンプル(フィンガーフード)を味わいながらの、耳だけでなく舌も楽しめる地球大学アドバンスになりました。
2010年(平成22年)時点の世界の人口は推計69億870万人。昨年からの増加は7,390万人で、70億人を超えるのは時間の問題といえるでしょう。
出典 国連人口基金 世界人口白書2010
100年前の1900年(明治33年)でおよそ17億人、50年前の1960年(昭和35年)でおよそ30億人なので、増加ペースが速くなっていることがわかります。
出典 国立社会保障・人口問題研究所 人口統計資料 2010年版
その間、食糧増産は何とか人口増加ペースに追いついてきましたが、竹村氏によれば、「近年は増産の頭打ち傾向が見られる」ということです。加えて、土壌の劣化や水不足が目立つようになり、生産量を維持できなくなるという指摘もあります。
生産効率を追求するあまり、工業製品のような食糧生産が常態化しています。同一品種での大量栽培は、病虫害の発生に弱いという側面も指摘されています。F1種や遺伝子組み換えの作物の普及は、モノカルチャー化への流れを推し進めているという見方も可能です。石油燃料を大量に使用しなければ成り立たない現在の農業の構造も、脱石油時代の持続可能な食糧生産に暗い影を投げかけます。
増え続ける人類の胃袋をどうやって満たしていくのか?大きな課題が目の前に立ちはだかっています。
東京は、食料自給率の極めて低い一大食糧消費都市です。カロリーベースで1%、生産額ベースで5%というところです。
出典 農林水産省 都道府県自給率
しかも、東京の食糧「輸入」元は国内に限りません。世界中から食糧を調達しています。「東京は地球を食べている」(竹村氏)状態にあります。
これは一見、東京の脆さを表していますが、見方を変えれば、「東京の食生活が変えることは、世界の食料生産が変える可能性を秘めている」ということでもあります。
「消費地の力で産地を変える」。新丸ビルの生グリーン電力のように、大消費地・東京が、日本の、世界の食のあり方を変えるポテンシャルを秘めていることを、竹村氏は強調します。
スペシャル・ゲストのフランスを代表する女性3つ星シェフ アンヌ=ソフィー・ピック氏は、フランスで20年以上の歴史がある「味覚の一週間」を日本でも開催するために来日されました。
アンヌ=ソフィー・ピック氏参加イベント
三國氏も顧問として参加する「味覚の一週間」は、フランスの一流の料理人たちが、小学生に味覚を教えることをはじめ、国民全員で食文化のあり方を考えるイベントです。毎年10月第3週にフランス全土で開かれています。
1980年代にイタリアで起きた「スローフード」運動の影響も受け、次世代を担う子供たちに、フランスの食文化を伝えていくことを目指しています。いまでは、国をあげての「食育」活動に発展しています。
「フランス人にとって、食べることは生きること。食べるために生きるか、生きるために食べるか、それぐらい文化としての食にこだわりと誇りを持っている」(三國氏)
そのフランスでも、いや、そのフランスだからこそ、食文化の乱れは大きな社会問題と捉えられています。
味覚が人格形成に与える影響についての研究が進み、一説では12歳までに味覚を学んでいない子供は、親を傷付け、その子が親になると自分の子供を傷つけるという調査結果もあるのだそうです。
連日のように報道される親子の暴力事件と、日本の食の現状に大きな危機感が、三国氏が今回日本で「味覚の一週間」を開催した大きな原動力になっています。
三國氏は、東京の食糧生産力にも注目し、「江戸東京野菜」を使ったメニューを早くから展開しています。
「江戸東京野菜を育てている農家たちは、江戸時代から3代続く歴史がある。住宅地に隣接している畑では、農薬も化学肥料も使えないため、真面目に有機無農薬栽培をやっている。その物語を伝えたい」(三國氏)
「江戸東京野菜」の流通の現場には、ここ1年で大きな変化が見られるといいます。
「以前は、東京産の野菜は、他の産地のものと一緒くたになって市場に並べられ、産地も何もあったものじゃなかった。それが、最近になって、東京産の野菜が流通段階で仕分けされるようになり、東京産を指名買いする人も出てきた。最近は需要が増えて入手するのが難しくなってきた感もある」(三國氏)
東京で生まれた食べ物が、東京で人の口に届く。東京で暮らし、働く人にとって嬉しい循環が生まれてきているようです。
能登半島の付け根に位置する富山県氷見(ひみ)市で「はとむぎ」の栽培が始まったのは1985年(昭和60年)のこと。減反政策で転作の必要に迫られたのがきっかけです。当初は細々とした栽培でしたが、JA氷見の組合長のアイディアで、「氷見はとむぎ茶」を売り出すようになります。この流通販売に氷見市が全面協力し、1本売れるたびに市に5円の寄付をするモデルが生まれます。
「氷見はとむぎ茶」は、年間200万本を販売するヒット商品になりました。氷見市に年間1,000万円の収入をもたらしました。氷見市はハンドボールが盛んなまち。この「氷見はとむぎ茶」による収入を使って、ハンドボール場を整備するなど、スポーツ振興に大いに役立てているということです。
氷見はとむぎ物語
小松氏の話から見えてくるのは、農商工連携、官民連携の大切さです。組織や業態の垣根を超えて、地域が一つになってこそ、地域は活性化の上昇気流に乗るのではないでしょうか。
「ヨーロッパの都市は城壁都市で、城の内と外が明確に分かれている。一方、東京を始めとする日本の都市は、周辺に農地と宅地が混在している。東京は、生活感の溢れた生産地になる大きな可能性を秘めている」
北陸を拠点に活動する小松氏は、生産地・東京の可能性について、このように語ります。
考えてみれば、東京も一つの「地域」。銀座ミツバチプロジェクトによる蜂蜜生産をはじめ、都心のど真ん中が「産地」になる実績も生まれています。東京には、消費地としてのパワーだけでなく、生産地としてのポテンシャルも十分にあるということです。それを生かすも殺すも、東京で暮らし、働く私たち自身にかかっているのではないでしょうか。
外食の際は、ぜひ「ミクニ・マルノウチ」で「江戸東京野菜」を。日々の生活の中でも、自分が食べているものが、どこから来ているか。まずは意識するところから始めてみるとよさそうですね。
ミクニ・マルノウチ
日時:2010年11月29日 (月) 18:30~20:30
ゲスト:清水浩氏(慶応義塾大学 環境情報学部 教授)
小林成基氏(NPO自転車活用推進研究会(自活研)事務局長)
企画・司会:竹村真一氏(Earth Literacy Program代表/エコッツェリアプロデューサー)
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