過去のアーカイブ過去のニュース

京都・東京水物語 「 "酒"から"水"を考える 」~京・みやびサロン第3回~

miyabi_sake1.jpg

「日本酒は水でできている」

去る9月14日(火)、エコッツェリアで第3回「京・みやびサロン in 丸の内」が開催されました。お題は「京の水と酒を知る」。講師は、京都の老舗酒造メーカー・キンシ正宗で取締役・物流製造部長を務める田中明さんです。
キンシ正宗

冒頭の言葉は、会が始まるやいなや、田中さんが発したものです。

日本酒の成分は、およそ8割が水です。水で味が決まるといっても過言ではありません。
ところが最近は、日本酒が米と製法で語られることが多くなっています。
水の味と、水をどう確保していくかも、酒造りにとっては非情に重要な問題です。

京都は、実に地下水の豊かなまちです。
京都は盆地。盆地はもともと地下水が溜まりやすい地形ですが、さらに京都の場合は、桂川、鴨川、宇治川など、市内を多くの河川が流れています。また、いまは干拓されてしまいましたが、戦前までは、京都南部の伏見の地に「巨椋池(おぐらいけ)」という巨大な池がありました。河川や池から、地下に多くの水が吸収されています。
その量、実に211億トン。琵琶湖の水量にも匹敵するといいます。関西大学の楠見晴重教授は、京都の地下の水瓶を、「京都水盆」と称されました。
地表の水、地下の水 - 酒造りと水

miyabi_sake2.jpgところが、水盆・京都でも、地下水が止まる事態が発生しているといいます。
宅地化に加え、道路の舗装や河川堤防のコンクリート化で、地中へ水が染み込む入り口が閉ざされつつあります。さらには、地下鉄や下水道の整備、建物の基礎を地下に打ち込むことで、地下の水脈が分断されてしまったことも原因として考えられるということです。

1781年(天明元年)、京都市中で創業したキンシ正宗が、名水を求めて伏見にやってきたのが1880年(明治13年)のこと。以来、伏見の地は名水を育み続けていますが、伏見の地下水が止まれば、伏見で酒を造ることができなくなります。田中さんの危機感は募ります。

「人間の体の3分の2は水でできている。その水がどこから来ているか、もっと真剣に考えてほしい。水道水も、決して自然の水ではない。酒を通して、水のことを考えてもらうきっかけをつくりたい」

この日、会場では「唎き酒」ならぬ「唎き水」が行われました。「水道水」と「伏見の水」、「海洋深層水」を唎き分けるというものだ。水道水に含まれる塩素の味と臭いを嗅ぎ分けられるか、軟水の「伏見の水」と硬度の高い「海洋深層水」の硬さを見分けられるかがカギです。

miyabi_sake3.jpg

田中さん曰く、「水道水くらいはすぐに分からないと生物として危機的」とのことですが、やってみると、味や舌触りが違うのは分かるものの、それぞれを唎き分けるのは意外に難しい......。
みなさんは、唎き分ける自信はありますか?

思えば、江戸城本丸を見上げるここ丸の内は、もともと海だったところを江戸時代の初めに埋め立ててできた土地です。地下を掘っても出るのは塩水ばかりで真水は出ません。いまでこそ、水道の蛇口を捻れば(センサーに手をかざせば)水が出るし、ペットボトルで水が買える時代ではありますが、水には苦労させられた記憶を持つ場所なのです。

秋の夜長、そんなことに思いを馳せながら、仕事帰りに丸の内でちょいと一杯やってみると、酒と水との付き合い方にも少し変化が出るかもしれませんよ。ただし、飲み過ぎても責任は取りませんので、その点は悪しからず。

関連ニュース

京・みやびサロンin丸の内 第3回(終了)

共催 : 大丸有エリアマネジメント協会・京都館
とき : 2010年9月14日(火) 19:00~20:30
ところ : エコッツェリア(新丸ビル:オフィスゾーン10階)
講師 : 田中 明 氏 (キンシ正宗株式会社代表取締役・製造物流部長)