過去のアーカイブ過去のニュース

【松丸本舗BookNavi】12月号 「グリーン・クリスマス」

booknavi1012_top.jpg

松岡正剛氏が大胆にプロデュースし、書店のあり方の可能性を広げたとして、各種メディアから注目を集める丸善本店 松丸本舗と、サステナビリティを考えるまちメディア・丸の内地球環境新聞がコラボレーション。その季節にピッタリの本をナビします。

BoolNAVI12月号のテーマは「グリーン・クリスマス」。 12月に入り、街中にはクリスマスソングが流れ、ショーウィンドウに並ぶ、思わずプレゼントにほしくなるような商品にそわそわ。大丸有(大手町・丸の内・有楽町)は、省エネ型のLEDが使われたイルミネーションで彩られています。一方で、盛んな巣篭もり消費の波に乗って家で省エネ型のクリスマスを過ごす方も多そうです。 そんな、省エネや環境、サステナビリティに配慮したグリーンなクリスマスを楽しむ本とは?

今回お話を伺ったのは、この方々。
・松丸本舗ブックショップ・エディター 大音 美弥子さん(以下 大音
・松丸本舗マーチャンダイザー在岡 正人さん(以下 在岡

このシリーズは、丸の内地球環境新聞デスクの「アクビ」こと永野(以下 アクビ)がお届けします!

○ 12月のオススメ本

『DIYで楽しむ!イルミネーション入門BOOK』 野口 克也 (著)/Gakken Mook
『ロウソクの科学』 ファラデー (著)、三石 巌 (翻訳) /角川文庫
『太古の世界 恐竜時代』 ロバート サブダ、M. ラインハート (著)、わく はじめ (翻訳) /大日本絵画
『クリスマス・キャロル』 ディケンズ (著)、池 央耿 (翻訳) /光文社古典新訳文庫
『若草物語』 ルイザ・メイ・オルコット (著)、松本 恵子 (翻訳) /新潮文庫
『お日さま お月さま お星さま』 カート・ヴォネガット (著)、アイヴァン・チャマイエフ (著)、浅倉 久志 (翻訳) /国書刊行会
『資本主義はなぜ自壊したのか 「日本」再生への提言』 中谷 巌(著) /集英社

○目次

第一章 電気?ろうそく?クリスマスの"灯り"
第二章 絶対失敗しないクリスマスプレゼント
第三章 世界名作劇場の真実
第四章 クリスマスと資本主義

電気?ろうそく?クリスマスの"灯り"

booknavi1012_03.jpg

アクビ: 南半球の国の雪が降らないクリスマスは、"グリーン・クリスマス"と呼ばれるって、ご存知でしたか?今回は、環境やサステナビリティという意味で"グリーン"なクリスマスをテーマにお届けしたいと思います

在岡: 私はまず、手作りでクリスマスを盛り上げるのに役立つ実用的な本『DIYで楽しむ!イルミネーション入門BOOK』を持ってきました。冬になるとお問い合わせが増える本です。最近では、身近でもクリスマスにライトアップされるお宅は増えていますね

大音: 郊外では住宅地一体がライトアップされているところもあるようですよね。競争するように

アクビ: それで観光地化している場所もありますよね。大丸有でも、丸の内イルミネーション2010*1 や光都東京*2 などのライトアップで賑わいます。でも、自分でイルミネーションを設置するとなると途方にくれてしまいそう......
*1 丸の内イルミネーション2010
*2 光都東京

booknavi1012_01.jpg

在岡: そうなんですよね。この本は、自分でつくるイルミネーションの入門書なんです。自宅での巣ごもりクリスマスを盛り上げる、こんな方法はアリですよね。特に子どもたちは喜びますよ

この本の良いところは、必要な部材が手に入るホームセンターの連絡先一覧があったりするところ。これ、けっこう重要なんです。あと、イルミネーションの値段も記載されているのは親切ですね。実は、イルミネーションってけっこう高いんです。5万円もするものもあったり

アクビ: た、高い...。でも、毎年リユースできますしね......。実際のお宅のライトアップ事例がたくさん載っているのも参考になりますね

大音: イルミネーションも高いけれど、まず家買うところからはじめないとね(笑)。もう少し安く、どんなお宅でも楽しむならロウソクなんてどうかな。『ロウソクの科学』はオススメです

この本の作者のファラデーがなかなかハンサムなのよ。オスカー・ワイルドみたい。ファラデーは1861年にロンドンで大変な人気を博したクリスマス講演をやったんです。それもあってこの本を選んでみました

この本はその講演をまとめたもので、ファラデーは子ども向けにろうそくに関して仕組みから、何からできているのか、歴史などを総合的に語っています。炎や明るさについて、燃焼から何ができるのか、ひいては地球全体の話まで、全部教えてくれる本です

アクビ: 最近では広末涼子さんとご結婚されたキャンドル・ジュンさんが話題になったりもしましたし*3、夏至や冬至に電気を消してキャンドルで過ごす"キャンドルナイト"も一般的になってきていますしね。なによりキャンドルの明かりってロマンチックでクリスマスにぴったりです。それに、比較的、懐にもやさしいです

実はこの本、ご紹介いただくのは2回目なんですよ。丸善松丸本舗BookNavi9月号「夏休みの宿題・オトナ編」*4 のときと今回と。よほどオススメの本なんですね!

在岡: 松丸本舗の定番ですし、よく売れている本ですね

*3 2010年10月9日に、女優の広末涼子さんがキャンドル・アーティストのCandle June(キャンドル・ジュン)氏と婚姻届を提出して結婚したと発表した
*4 【丸善松丸本舗BookNavi】9月号「夏休みの宿題・オトナ編」

絶対失敗しないクリスマスプレゼント

在岡: 次は、クリスマスプレゼントの定番の絵本『太古の世界 恐竜時代』を持ってきました。『不思議の国のアリス』の仕掛け絵本をご存知の方は多いと思いますが、それと同じ作者のマシュー・ラインハルトさんによるものです。以前丸善本店でワークショップをやってくれたこともあります。この業界の巨匠ですね。これがすごいんですよ、本当に

アクビ: えー!恐竜が!わっすごい!食べられちゃう。ひと見開きに5~6個も仕掛けがあるなんて豪華ですね。この立体感!これは楽しいですねぇ!!わぁ!おぉ!(以降、感嘆詞省略)

booknavi1012_04.jpg

在岡: 一つ一つ凝っています。並大抵ではないですね。初めて見たときに驚きました。今日持ってきたのは店舗に置いているサンプルなんですが、これだけ色々な人に触られても壊れていないという精巧なつくりも素晴らしいです

いろいろなところで紹介しつくされている感もあるんですが、プレゼントの決定版としてこの時期にはやっぱりオススメしておきたい、と。それに、教育的配慮に満ちていて、文章のレベルが高いんですよ

アクビ: たしかに、仕掛け絵本なのに文章がしっかりとしていますね。勉強になります

大音: 私たちが読んでもびっくりするような内容ですよね

アクビ: こんなプレゼントがもらえれば、巣篭もりクリスマスでも子どもたちは絶対に大喜びですね

在岡: 家庭のクリスマスを盛り上げる本です

世界名作劇場の真実

大音: 家庭のクリスマスといえば、『若草物語』なんですよ。これは、南北戦争でお父さんが従軍して残された4姉妹とお母さんの、ある年のクリスマスから次の年のクリスマスまでの一年間の物語なんです。物語は「プレゼントのないクリスマスなんて、実際意味が無いわ」 という次女のジョーのぼやきの場面から始まるんですよ。意外と覚えていらっしゃらない方が多いんですけどね

在岡: そういう話だったんですね!

大音: すごいのがね、この家族は、今年は父親もいないし質素にクリスマスを過ごそうと決めていて、子どもたちは自分のほしいものを我慢してまで大好きな母親にプレゼントをあげようとしているのね。でも、クリスマスの朝にお母さんは急に出かけちゃって、帰ってきたと思ったら「今すごく貧しいお家で赤ちゃんが生まれて大変だから、あなたたち、用意してくれたその朝ご飯をその人たちに差し上げていいでしょう?」って言うんです

booknavi1012_05.jpg

それって、すごくない?いわば試練なのね。子どもたちは言葉を飲んで、寒い中を朝ご飯を持って歩いて届けに行くんですよ。貧しくても助け合うことや、人のための行ないの良さだとかが描かれているのね

この『若草物語』の4人姉妹が愛読していたのがディケンズなの。ディケンズの『クリスマス・キャロル』は、ご存知ですよね?「クリスマスなんて」とクリスマスを忌み嫌っていた守銭奴のスクルージおじさんが夜中にいろいろな幻を見せられて改心し、「みんなで一緒に生きている喜びを分かち合うことこそがクリスマス精神なのだ」と悟る物語です。クリスマスとは何なのかがわかる良い本だと思います

在岡: いい話ですよね

アクビ: 『若草物語』も『クリスマス・キャロル』も小学生のころ読んだのですが、今改めてあらすじを聞くととても考え深いですね

大音: 今読むと、全然違って素晴らしいですよ。『赤毛のアン』や『ピーターパン』なども

アクビ: テレビで放映されていた世界名作劇場のアニメのイメージが強い作品ですね

大音: 世界名作劇場とディズニーは、読書離れを起こす意味では悪の根源なんですよ(笑)。努力なしでわかるし、物語の楽しい部分だけを抜き取って、悲惨な部分が、うやむやになってしまうところがあるのね。影がないと光は際立たない、それが本当に言いたかったところのはずなんですけど

アクビ: アニメでよく知られている物語の原作って、けっこう残虐なシーンがありますよね。罰を犯すと本当にひどいことが起こったり

大音: そうそう、道理を教えてくれているんですよね。『若草物語』も、ある意味「お父さんなんていない方がみんな幸せよ」なんてメッセージにも解釈できるし(笑)。『若草物語』の4姉妹の次女のジョーのモデルは作者のオルコットなんだけど、オルコットのお父さんは思想家で先鋭的な哲学者だったらしいんですよ。いろいろなことに手を出しては失敗して一家が没落して、お母さんは苦労のしっぱなし。"だめんず*5"なのよ(笑)。それでオルコットでありジョーは、「自分が一家を支えるためにしっかりしなきゃ」と、立派に育ちましたと

*5 ダメな男の意味。ダメ男体験談を紹介するノンフィクション漫画作品『だめんず・うぉ〜か〜』倉田 真由美 (著)で命名された

クリスマスと資本主義

booknavi1012_02.jpg

大音: もう一冊は、カート・ヴォネガットがキリストの生誕を描いた絵本『お日さま お月さま お星さま』。この人が書いた『ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを』という小説は、隣人愛に目覚めちゃって自分の財産を次から次に配っていくお金持ちをめぐるドタバタ劇で、ある意味『クリスマス・キャロル』の現代版ね

『お日さま お月さま お星さま』は、そんなシニカルな視点を持った作家が描いた絵本なの。天と地の創造主の目を通して描かれた聖夜物語。この話を凝縮させると、「見えるものよりも見えないものを見ようとする態度が大事だよね」ということかもしれない

この『若草物語』も『クリスマス・キャロル』も、カート・ヴォネガットも、結局言っていることは、(新しい本を取り出しながら)これなんですよね。『資本主義はなぜ自壊したのか 「日本」再生への提言』、格差、環境破壊、資源不足など、すべての原因は資本主義だと論じている本です

アクビ: なるほど。さすがのオチです。最近、"資本主義2.0*6"や"公益資本主義*7"など、これまでのマネー主導型の資本主義を問い直して新しい資本主義を考える動きが強まっていますよね
*6 『資本主義2.0 宗教と経済が融合する時代』水野 和夫、島田 裕巳(著)などで唱えられている、宗教と経済が渾然一体となった資本主義
*7 『新しい資本主義』原 丈人(著)などで唱えられている、「公益」を核に置いた資本主義

大音: この10~20年で、資本主義社会に関しては大きな転換がきっとあるでしょうね。あってくれ、とも思いますし。『クリスマス・キャロル』のスクルージは金貸しの利子で生きているんだけど、そのうちお金 至上主義になってどんどん心を捨てていく。本当に大事なのは、スクルージが子どもの頃にいじめられて悲しい時期を過ごしただとか、それを妹だけはかばってくれたというようなことを思い出して、ヒューマニティを取り戻していくというところなんですよ

アクビ: スクルージおじさんは資本主義の象徴として描かれていて、そこから心(ヒューマニティ)を取り戻し脱却しようという。"季節モノ"としてなんとなく触れていた物語でしたが、そういう思想があったのですね。ヴォネガットの『お日さま お月さま お星さま』でいう「見えるもの」はお金で、「見えないもの」は心、とも置き換えられますね

大音: そうなのよ。スクルージを表現する「守銭奴」という言葉って、いつの間にか使わなくなったでしょう?つまり、みんな守銭奴になっちゃったんだ!って気づいて(笑)。よく考えたら、私たちは物事をお金という尺度でしか判断していない、それが当たり前になっている。ディケンズは1840年代から資本主義で荒廃する世界を訴え、変えようとしていたんです。それから170年、そろそろ変わってもいいわよね

アクビ: ちなみにおふたりは、日本のクリスマスについてどうお考えですか?キリスト教徒でもないのにだとか、企業に消費をあおられているというような批判的な声もよく耳にしますが

大音: 『若草物語』や『クリスマス・キャロル』で描かれているような、家族の温かみが感じられるようなものだともっといいんでしょうけどね。でも、日本のクリスマスはデート資本主義だから(笑)

在岡: クリスマスって、年末年始が忙しすぎてついついスルーしてしまうんですが。でも、今のクリスマス、私は別に嫌じゃないです。ないよりあった方が

大音: お祭りは多い方が楽しいわよね

在岡: 最近でもクリスマス・ツリーを飾ったりするんですかね?

大音: 『DIYで楽しむ!イルミネーション入門BOOK』も売れているように、家をイルミネーションで飾る人も多いんじゃない?でも、きっとクリスマス・ツリーと雛人形はすたれないわね。雛人形とツリーが一緒なのよ、日本人にとっては。季節の飾りとして。そのうちクリスマス・ツリーを速く片付けないとお嫁にいけないなんてことになったりして(笑)

アクビ: そう言われると、なんだかそうなる気がしてきました......。今年はすばやくツリーを片付けることにします!(笑)

クリスマスの楽しみ方は人それぞれ。その楽しみに、今回ご紹介いただいた本にあったような、家族や心を考えるあたたかい時間を加えると、もっと豊かなクリスマスになるかもしれません。 プレゼントに迷っている?それなら、松丸本舗のブックショップ・エディターに相談してみては。的確な、でも思いもかけないような本をナビしてくれるはずですよ。

関連ニュース

丸善本店 松丸本舗

営業時間: 9:00〜21:00
アクセス: 〒100-8203 千代田区丸の内1-6-4 丸の内オアゾ4階
お問合わせ: Tel 03-5288-8881 /Fax 03-5288-8892
松丸本舗ウェブサイト

松丸本舗では、松岡正剛氏の読書術をブックショップ・エディターがワークショップ形式で伝授する「読書の秘訣-セイゴオ式目次読書法」を毎月開催中!詳細は直接"店頭にて"お問い合わせください。