2月7日(月)、第39回地球大学アドバンスは「"ジャパン・ショック"から"ジャパン・シフト"へ~100年の計で東京と日本の未来を構想する」のテーマで開催されました。地球大学アドバンスは、これまで10回に渡ってTOKYO SHIFT シリーズを展開してきましたが、今回はその総括編です。ゲストに成長戦略総合研究所理事長、一般社団法人太陽経済の会代表理事の山崎 養世氏を招いて、日本と東京の「リセット」ビジョンについて伺いました。
民主党政権のブレーンとして知られる山崎氏は、「高速道路無料化」「郵政資金の地方への活用」「年金運用改革」など、数々の政策を提言してきました。また、昨年10月発売の自著『ジャパン・ショック』(祥伝社新書)にあるように、日本の国債暴落の危機(ジャパン・ショック)に警鐘を鳴らしています。そして、そこから脱出する起死回生の道として、「太陽経済」の推進と、それを包括的に実践するモデル都市構想を提唱しています。
この日の話も、そうした提言に沿うものになりましたが、経済・財政・金融面のみならず、歴史や文化、教育まで包含した非常に広範で壮大なものでした。日本の構造改革のためのヒントや示唆に満ちています。
日本で国債の安全神話が生まれたのはここ30年ほどに過ぎない。国債暴落は大きな危機だが、それをきっかけに、財政健全化と投資を新しい成長分野へと振り向けるべきだ。高速道路無料化は、移動手段が車しかない地方の経済を活性化させるための手段である。「太陽経済」は、産業化以前の人類が則っていた当たり前の法則に、21世紀の技術を用いて立ち返るための、極めて人間的な構造改革だ。など......。
山崎氏は、こうした提言を実現するため、「淡路島サステナブルスーパー特区」の推進活動に、顧問として関わっています。
「一点突破でモデルを作り、それを全国、ひいては世界中に全面展開する」(山崎氏)
「淡路島は(面積がほぼ同じ)シンガポールを超えるポテンシャルを秘めている」(山崎氏)
"ジャパン・シフト"のきっかけになる可能性を感じます。
そして、「TOKYO SHIFT」という観点で山崎氏が提唱するのは、竹村氏との共著本のタイトルにもなっている『環東京湾構想』(朝日新聞出版)です。中でも、東京の南東部に位置する房総半島に注目しています。
「東京は巨大な都市であるが故に問題も巨大。この問題を放置するわけにはいかないが、東京単体で問題を解決するのは難しい」(山崎氏)
首都圏全体で見たときに、人口分布は明らかに西に偏っています。この偏りを是正することが、首都圏が抱える問題を解決するカギになると山崎氏は見ています。そのため、首都圏全体をリングでつなぎ、新しい人と物の流れを作り出す。その一つとして機能しているのが、川崎市と木更津市をつなぐアクアラインです。千葉県の森田知事が通行料を大幅に下げたことで、房総はにわかに活気づいています。
「浦賀水道の辺りは、三浦半島と房総半島が近接している。ここに橋をもう一本作ってもいい」(山崎氏)
この構想の真の狙いは、房総半島に数万人規模のコンパクト・シティ群を作ることです。首都圏は、日本の中でも突出した超高齢化社会に突入していきます。高齢者が快適に暮らすことができる、「住・職・食・楽・交・教・医・憩」が一体となったまちが、これらかの時代に必要になってきます。
「宇宙船地球号」のコンセプトを提唱し、現代のレオナルド・ダ・ヴィンチとして知られるフラーの著書。「プラトンの『国家』に相当する壮大な書で、コロンブス以来の人類史を鮮やかに描いている」(山崎氏)
この2冊は、人口減少がもたらす構造変化を見事に描いた本です。生産者人口が減少して高齢者人口が増えれば、当然経済は縮小する。その事実を踏まえれば、これからの時代に必要になるのは、人が快適に生きていけるまちを作ることだ、という結論が導かれます。
都市と国土を作るヒントがこの2冊に満ちていると山崎氏は言います。特に、田中角栄の著作は現代において忘却されていますが、山崎氏は「現代必要なことがこの本に書かれている」と指摘します。1972年の時点で既に、大都市一極集中の弊害が認識され、それを克服するために人口をどう分散化するか、コンパクト・シティの発想が見られます。その先見の明には実に驚かされます。
山崎氏が「田中角栄政治を合理的に検証した数少ない書」と評するのがこの本です。角栄以後の自民党政治がいかに利権政治へと変質していったか、それが財政を悪化させ地方経済を衰退させたことを合理的に論証しています。
日本に欠けているのは政治イノベーション。田中角栄だけが唯一それを成し遂げた。日本が停滞から抜け出すには、アジア共同体への参画と教育の質の改善が不可欠。これがこの本の要旨です。山崎氏は、地方が直接世界に打って出るための教育の必要性を説きます。
経済学は物理学・数学の無生物では、経済のシステムの変更は説明できない。人間が作り出している経済活動は、生物学の法則によってこそ説明が可能。山崎氏も衝撃を受けたというのが、複雑系の祖カウフマンの本著。「古いシステムが倒れた後に新しいシステムが生まれてくるのは、さながら巨木が倒れたところに若い木々が育つのと同じ」(山崎氏)。
日時:2011年3月7日 (月) 18:30~20:30
ゲスト:岡本哲志氏(岡本哲志都市建築研究所 代表、法政大学エコ地域デザイン研究所 所属)
企画・司会:竹村真一氏(Earth Literacy Program代表/エコッツェリアプロデューサー)
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