松岡正剛氏が大胆にプロデュースし、書店のあり方の可能性を広げたとして、各種メディアから注目を集める丸善本店 松丸本舗と、サステナビリティを考えるまちメディア丸の内地球環境新聞のコラボレーションでお届けする【丸善松丸本舗BookNavi】。毎月、その季節にピッタリの本をご紹介しています。
9月のテーマは「産業としての食」。7月号も「食の安心・安全」というテーマでお届けしましたが、今回は産業という切り口からさらに深く掘り下げてみたいと思います。
今回お話を伺ったのは、この方々。
・松丸本舗ブックショップ・エディター 小川 玲子さん(以下 小川)
・松丸本舗マーチャンダイザー 宮野 源太郎さん(以下 宮野)
ご紹介いただいたのはこちらの5冊です。
平尾:今回は丸の内地球環境新聞編集部の平尾・池田の2名でお話を伺います。
食料危機、環境問題、世界格差など、様々な食の問題がありますし、日本食など文化という側面からもお話が聞けたらうれしいなと思います。これらは一方向から語るのが難しい問題だと思いますので、読書術として、いろいろな視点をご提案いただければ、と。
小川:ではまずこちらから。今、日本では農業が主力の政策としてありますが、世界的に見たときの農業の位置とか存在を見極めた方がいいのではないかな、ということで『多文明共存時代の農業』をオススメします。
著者の高谷さんは、「それぞれの土地の農業というのは、その土地の文化である」という考え方をお持ちで、「経済活動の方に主軸を置いた農業政策でいいのか」、そうじゃなくて「農業ありきの経済活動なのではないか」という主従関係について探っている方です。ですので、農業の土地に属した世界分布図なんてものもあるんです。それぞれの地区の農業を礎として産業を見る、という。
平尾:元々、経済という観点の方が後で入ってきたものですものね。
小川:そうなんですよね。特に日本は、江戸時代には鎖国していて、西洋的な産業と経済をはね除けて来られたので、ある意味、農業主体の時代だったわけです。ところが、日本が敗戦した途端に欧米文化が入って来て、ちょっとシステムが狂い始めたのではないか、ということについても書かれています。
平尾:おもしろいですね。
小川:和食を世界に文化として広げることも大事ですが、その前に、世界全体で考えて、その中でのアジアとか日本と考えることも必要かな、と。それぞれの土地の環境に見合った農業を、お互いが競争し合うのではなく、それぞれで共存して行くという視点から、日本の食文化の発信の仕方を見つめ直してみるといいかもしれません。
平尾:確かにそうですね。海外に日本食のレストランはありますけど、日本人が食べると「これは和食ではない」と思うものもたくさんありますよね。
小川:そうなんですよね。それがまたその土地に根付いているかというと、高級だったり、物珍しさに変わってしまっていて、文化として輸出できているかというと疑問だな、と思うんですよね。
宮野:「健康食」としてのパッケージとして輸出されているので、そこには飛びつくけど、素材などには視点が行かないんですよね。
小川:今、世界経済はグローバリズム、単一化という流れでこのような状態になっているので、そういったことに苦言を呈しつつ、多文明、多様化ということを考えてみるも必要かな、ということでこの一冊はオススメです。
小川:次に、そもそも"共存"ということを考えた時に思いついたのがこの本です。ダーウィンの進化論って、強いものが勝ち残っていくという意味で、資本主義に似ているところがあると思いませんか?
平尾、池田:確かに!
小川:それに対して、多文明・共存を考えた時に、進化自体が共存してきたということを唱えてきたのが"今西進化論"を確立された今西錦司さんです。
個々が競争して進化してきたのではなく、滅亡することもあるけれど、それぞれの種があくまで共存の中でその時代の適性にあって残ってきたという考え方で、平等に分配するという考え方のマルクスの共産主義ともまた違う。資本主義と共産主義の間を"たゆたっている"ような考え方なんです。
平尾:日本的なんですかね。
小川:そうですね。おそらく日本人の考え方にあっているんじゃいかと思います。こういった進化論と産業をダブらせてみると、今の産業の行く末がちょっと垣間見えるかもしれません。逆に、進化論や生命科学への興味がここから沸いていただければ、読書の幅も広がるのではないかな、と思います。
小川:じゃあ、そこで日本をもう一度考えてみるという視点でこちらをご紹介します。これはどちらかというと統計や資料がまとめられている本です。「もったいない」を切り口に、この日本独自の言葉が生まれた背景から、日本の農業がどういうものであったのか、というのを振り返っています。
「もったいない」という言葉を世界に広めて、先日亡くなられた環境活動家のワンガリ・マータイさんの意志を継ぐ意味も込めて、この3冊で世界から見た日本を考え直すというのはいかがでしょうか。
平尾:ではここからは宮野さん、お願いします。
宮野:なぜか頭の中に"土"という言葉がありまして、ふと浮かんだのがこの本です。昭和50年代の随分古い本なんですが、軽井沢の別荘で野菜や麦を育てたり山菜を採って自給自足をされていて、お料理を紹介しているものです。なんと言うか、本当にいいなーと思う本なんです。
水上さんご自身が9歳から18歳までお寺に入られていて、非常に厳しい修行の中で、住職さんからも「もったいない」と言われていたという経験も書かれているんですが、ただの料理本ではなくて、まず季節のことや、その時々の季節のものを捨てずに活かす、そして何よりそれを供することでお客さんに喜んでもらう、という人生論のようなものにもなっているんです。
平尾:どうして"土を喰う(くらう)"というタイトルなんでしょうか?
池田:印象的なタイトルですよね。
宮野:ひとつは、その時々に「今何がどのくらい採れるのか」と、畑と相談しながら作る料理ということ。これを精進料理という、と書かれています。
さらに、サトイモとかダイコンとか、水洗いもせず土をはたいて料理して、さらに皮も焼いて供するんです。厳しい季節の中で、皮は土の中で実を守る役割をしていて、それを焼いて供すると、土からの養分を吸っているのですごく甘くておいしい、と。料理人が皮をぐるぐる剥いてゴミにしてしまうのが「悲しい」とも言っています。
それこそ「もったいない」ということですよね。何度も「悲しくなる」と書かれていて、今生きていらっしゃったら何ておっしゃるかな、と思います。それこそ福島の方なんて土壌そのものが文明の最たるものに侵されてしまっていますから。
平尾:30年前に既に「悲しい」とおっしゃっていたんですね。
宮野:スーパーに野菜が並んでいてもいろんなものがパッケージ化されていて、「お客様に献上するためではなく、メーカーに献上しているんじゃないか」ということも書かれているんですよ。単なるお料理本ではなく、文明論と言うか、生活の術を見直すような本なのかな、と思います。ぜひ、私たちの身体に関わるものなんだ、という視点で読んでいただきたいです。文章を堪能するだけでも楽しい本ですので。
池田:そしてこちらも土ですね。
宮野:これは単純で、日本のいろいろな場所に行って土を取ってきて色を紹介している本です。実は関東は黒っぽいんですが、関西の方は白っぽいんです。
平尾、池田:そうなんですか!?
小川:土の色がおいしそう〜!
宮野:こうやって各地の畑の土を集めているんですが、こうやって分解していくとものすごくきれいで、北海道なんて真っ白なんですよ。
平尾:土と感じないですね。砂というか。
宮野:そうですね、土というと多様なものを感じないですが、これを見ると「土って豊かなんだな」と思います。日本の土地ごとに土が違って、さらに川辺や畑、山辺や海辺ですごくきれいなコントラストを描いているものなんだな、と。
日本だけでもこんなに豊かなので、だからこそ、そこで作れる野菜や果物の名産があって、味が違ったりしていて、世界に広がればそれこそもっと多様なわけで。風土に合わせて土も変わって行くんだな、と感じます。
外来種の問題なんかもありますが、それは風土そのものも変わってしまっているのかな、とも思いますし、多様性が画一化しているのかもしれないし...。40ページほどですぐに読めてしまうんですが、いろいろなことを考えさせられる本です。
小川:宇宙からの視点だけじゃなく、足下の土を見るだけで実は地球を実感できるんですよね。一番簡単なのに、みんながなぜかしない。
平尾:「土ってどんな色?」と聞かれても答えられないかもしれないなって思います。こんなに身近なのに...
小川:やっぱり「何かしなくちゃいけない」というときも、自分の本当に身近なところから見つめ目直していくことかな、と思います。まずは一番身近な土からですね。
宮野:今回ご紹介した本は、どれも3.11以降を考えるのにキャッチーに思えますが、実は全て震災前に発売されたもので、驚いたことに35年も前に出版されたものもあるんですよね。
これらの書物で、マクロな文明論や産業論をただ教科書的に捉えるのではなく、ずばり土そのものや個人の食体験などミクロな視点と、行ったり来たりしながら考えていけるのが、読書の醍醐味ですね。
営業時間: 9:00〜21:00
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