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【丸善松丸本舗BookNavi】7月号 「食の安心・安全」

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肉が出荷されるまでの世界各地のルポタージュ『屠畜紀行』

松岡正剛氏が大胆にプロデュースし、書店のあり方の可能性を広げたとして、各種メディアから注目を集める丸善本店 松丸本舗と、サステナビリティを考えるまちメディア丸の内地球環境新聞がコラボレーション。その季節にピッタリの本をナビします。
* 6月号は都合によりお休みしました

BoolNAVI7月のテーマは「食の安心・安全」

今回お話を伺ったのは、この方々。
・松丸本舗ブックショップ・エディター 池澤 祐子さん(以下 池澤
・松丸本舗マーチャンダイザー 栢下 雅澄さん(以下 栢下

このシリーズは、丸の内地球環境新聞デスクの「アクビ」こと永野(以下 アクビ)がお届けします!

○ 6月のオススメ本

  • 『決定版 日本グルメ語辞典』大岡 玲 (著)/小学館文庫
  • 『貧乏サヴァラン』森 茉莉 (著)/ちくま文庫
行き場のない情報
  • 『食品表示・賞味期限のウラ側―食品の読み方「常識・非常識」』岩館 博人 (著) /ぱる出版
あやしい情報
  • 『食ニュースのウソ・ホント』馬渡 晃、馬渡 あかね (著) /日経BP社
  • 『食品の迷信―「危険」「安全」情報に隠された真実とは』芳川 充 (著) /ポプラ社
  • 『誤解だらけの「危ない話」―食品添加物、遺伝子組み換え、BSEから電磁波まで』小島 正美 (著) /エネルギーフォーラム
バイオな救急箱
  • 『ファーストフードの恐ろしい話』剣崎 次郎 (著) /彩図社
  • 『食のリスク学―氾濫する「安全・安心」をよみとく視点』中西 準子 (著)/日本評論社
極める
  • 『日常からわかる「食」と「料理」の安心・安全―ここから聞きたい!』江上 佳奈美 (監修) /旭屋出版
リスク社会
  • 『食の安心とマクロビオティック -調和のとれた心とからだと食- (ぐっと身近に人がわかる) 食の安心とマクロビオティック-調和のとれた心とからだと食- (ぐっと身近に人がわかる)』 /技術評論社
  • 『「食」の匠を追う』金久保茂樹 (著) /祥伝社
丸善の売り場から
  • 『世界屠畜紀行』内澤 旬子 (著) /解放出版社
  • 『食品の安全とはなにか』今村 知明 (著) /コープ出版
  • 『食品業界のしくみ』齋藤 訓之 (著)/ナツメ社
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アクビ: 今回のテーマは「食の安心・安全」です。原発事故による放射能の影響やユッケによる食中毒事件など、最近食の安全を脅かす事件が相次いでいますよね。

消費者の間では飲食店や食品業者への不信が広がっていて、食材のひとつひとつについて成分や産地を販売元に問い合わせている人もいるほどです。一見過敏にも見えるかもしれませんが、自分の血となり肉となる食に関することなのにもかかわらず、私たちはこれまで自分たちと生産者の間にあるブラックボックスをあまりに無邪気に見過ごしてきたのではないでしょうか......

「今こそ食そのものの来し方を見直すべきときなのかもしれない」そのような考えからこのテーマを設定してみました。それでは早速オススメ本を紹介していただきましょう

池澤: 食の安全とは少しずれるかもしれませんが、まず紹介するのは『決定版 日本グルメ語辞典』。作者は大岡玲さんという方で、大岡信さんという詩人の息子さんです。芥川賞もとられた方なんですよ

この本は松丸本舗のキーブックにも挙げられていてね。「グルメ語」の辞典で、36の食に関する言葉がズラッと並んでいます。例えば「やみつき」「さっぱり」「キレ」「コシ」「立つ」とか

アクビ: 「宇宙」なんて言葉もありますね。「味の宇宙」みたいな表現のことでしょうか。私はうどん好きなので「コシ」なんかはよく使います

池澤: 例えば「キレ」の章を見てみると、辞書的な言葉の意味だとか起源、CMで使われている事例などが分析されています。「キレ」は刀に由縁がある、とかね。海外では「ワビ」「サビ」と同じように独特の日本語として伝えられるんじゃないかしら

アクビ: 普段なんとなく使っている言葉をこうして並べて分析するって、面白いですねえ

栢下: 「まったり」という言葉も挙がっていますが、最近は「まったり」は食べ物ではなくて雰囲気とかに使われることが多いですよね

池澤: 風味の「風」なんて風に味があるみたいな表現で、よく考えると不思議よね。英語だと「flavor」で風なんてどこにも感じられない。そういうところに東洋と西洋の違いが出るんです

アクビ: 味の表現に自然の要素が入っているのはアニミズム的なものなのかも

池澤: あと「立つ」という表現も独特なんです。「味が立つ」って言うでしょう?でも味が立ったり座ったりって、よく考えると不思議。「腹が立つ」とか、「腕が立つ」とか、立身出世だとか立場だとか、日本には「立つ」という言葉が色々なところに使われていて、その表現が食にまでおよんでいるというところが面白いですよね。洋の東西、中国などから来た文化についても織りまぜて書きながら、日本の独特な文化を紐解いているんです。言葉から食を楽しむのもありだし、そこに日本的な味を見出していくのもありですよね

アクビ: 言葉という切り口が松丸本舗らしいチョイスですね

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池澤: 次は、作家による食の本です。『貧乏サヴァラン』の作者は森茉莉さん。森鴎外の娘です。彼女は江戸っ子なんだけど、パリに暮らしていたこともあって江戸とフランスの味を色々と取り上げているんですよね。晩年はとても貧乏だったんだけど、本人はそんなこと気にしていなかったみたい

家事はからっきしダメだったみたいだけど料理だけは得意で食いしん坊だったらしくて。この本ではそんな森茉莉さんが手軽に作れるレシピを紹介しているんです

アクビ: 手作りすれば食材も選べるし、そこに何が入っているかもわかっているので安心ですよね

池澤: はっきりと「貧乏」と言っているところも潔くていいですよね(笑)。「ナスの味噌汁に水からしを溶き入れる」だとか、「枝豆ハム入りご飯」だとか。手軽に肩肘はらずに出来る江戸メニュー、パリメニューが満載です

アクビ: 学生の節約ご飯のような!(笑) 食に関してのエッセイってけっこうありますが、こんなに身近なのってユニークですね!

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池澤: オレンジページには絶対に載らないようなメニューなんですけど、いいなあと。魯山人の食のエッセイなんかはアカデミックじゃないですか。でも森茉莉さんはそこにあるハムと枝豆で...なんて(笑)。でもそこにある一工夫が面白いんですよね

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アクビ: それでは、栢下さんのオススメも聞いてみたいと思います

栢下: 今回は松丸本舗のテーマが6月からSEASON03になってリニューアルしたので、本と一緒に売り場のコーナーも一緒に紹介していきたいと思います

アクビ: 今回のテーマは「情報LIFE日本」なんですよね

栢下: そうなんです。「情報LIFE日本」という大テーマの下に「情報フィットネス」、「情報レストラン」、「情報の入口と出口」、「情報ホスピタル」の4つのゾーンがあり、その中に100のコーナーがあります。まず紹介するのは「行き場のない情報」というコーナー。このコーナーからは『食品表示・賞味期限のウラ側―食品の読み方「常識・非常識」』という本を持ってきました

池澤: 食品表示って、色々と規制があるんですよね。みなさん意外と見てますよね

アクビ: でも、見てもわからなかったりもします。消費期限自体、正しいのかどうかが疑わしい面もありますし、そもそも消費期限って何なのかというところからよくわからない

栢下: 昔は製造日だけが書かれていたけど、今は賞味期限・消費期限しか書かれていないですよね。昔は製造日からいつまで食べていいかを消費者が自分で判断するようなところがあったんですけど、今は賞味期限・消費期限を信じるしかない

もう少し広く食について知りたい時には、「あやしい情報」というコーナーからこの3冊。『食ニュースのウソ・ホント』、『食品の迷信―「危険」「安全」情報に隠された真実とは』、『誤解だらけの「危ない話」―食品添加物、遺伝子組み換え、BSEから電磁波まで』。食に関する情報が本当なのか嘘なのかと検証したい時にどうぞ

池澤: でも、ここに書いてあることだって本当とは限りませんよ

アクビ: インターネット上のデマに警戒しよう、なんて言われていますが、原発事故の際にはデマとされていたものが事実で大手メディアが報じていた公式発表がウソだったりもしましたよね。360度情報が張り巡らされている中で、どの情報を選んで信じるかというのはとても難しいです......

booknavi110704.jpg栢下: その他にも、「バイオな救急箱」というコーナーからは、『ファーストフードの恐ろしい話』『食のリスク学―氾濫する「安全・安心」をよみとく視点』という本を持ってきました。食べ物や薬などの口に入るものに関して中心に実用書的な本が並んでいるコーナーです。ファーストフードに関しては以前から危険性について色々と言われてきましたよね

あと、食の安心・安全からは少しずれるんですが、「極める」というコーナーからは『日常からわかる「食」と「料理」の安心・安全―ここから聞きたい!』、「リスク社会」というコーナーからは『食の安心とマクロビオティック -調和のとれた心とからだと食-』、「匠」というコーナーからは『「食」の匠を追う』という本を持ってきました。調理人の視点から食の安心・安全を考えてみるのもいいと思います

アクビ: 大丸有でも食の安心安全に関してはいろいろな取り組みがなされているんです。食育丸の内は、丸の内の実力派シェフが考案したレシピで東京の食材を使ったランチメニューを定期的に提供していたり、最近では生産者が丸の内で直接食材を販売するマルシェが頻繁に行われています

食育丸の内: 旬のシェフズランチ 食育丸の内: 丸の内マルシェ

わたしもシェフのみなさんに食の安心・安全についてお話を聞く機会があったのですが、みなさん「そんなこと当たり前だ」とおっしゃるんですよね。美味しくて安心安全なものを提供するのは当たり前。しかし、それには相応のコストがかかる

不景気からのデフレやクーポンサービスで安売り・割引などが世の中に溢れていますが、安いものにはそれなりのからくりがあるのですよね。でも、特に都市部にいる私たちは、ものがつくられている場所と消費者の間がブラックボックスになっているこの状態に慣れてしまっていて、当たり前でないことに気がつかなくなってしまっているのかも

池澤: 世界一のシェフとわれている人がシシリア島に住んでいるらしいんですが食材は全て自分で育てて、ワインは契約ワイナリーのオーガニックのものだそうです

栢下: 食材を選ぶところから始まっているんですね

池澤: 身近なところでも最近農薬や鮮度などに気をつける農家も増えてきているけど、今度は食の安心安全に放射能というモンスターが加わっちゃって...

アクビ: 無農薬のものに放射能がある場合は、農薬があって放射能がないのと比べてどうなんでしょう

栢下: 自分で調べるしかないんですよね

池澤: どうやって情報を選ぶかっていうのが大事よね。生きるための情報のフィルタリング

アクビ: まさに今回の松丸本舗のテーマは「情報」なわけですが

栢下: 松丸本舗にある本がベストというわけではありませんが、ひとつの見本として考えていただければと思います

池澤: 食自体は薬になったり病気を防いだり元気のもとになったりもともと人間が持っている力を引き出してくれたりするものだから、使い方次第ですよね

アクビ: 体内に入った放射性物質の排出を促すような食品もありますしね。一次情報にアクセスして自分で判断するのもあるでしょうし、松丸本舗のようなフィルタを信用するというのもありですね

栢下: そういう情報が探しやすい売り場になっているので、ぜひのぞいてみてください。あと、もちろん丸善丸の内本店の方にもたくさんの本が揃っています。この『世界屠畜紀行』は人文書のコーナーにあったものですが、動物が肉になっていく過程の精肉のルポルタージュで人気がある本です

池澤: これ、面白いですね。韓国、バリ島、エジプト...、世界中の屠畜がたくさんのイラストで紹介されている

栢下: そのほかにも、『食品の安全とはなにか』、『食品業界のしくみ』などの本も丸善の売り場にありました。キーワードをもとに新書から専門書のコーナーまで何か所かの売り場を見てみれば、自分好みのものがみつかりますよ

アクビ: 食の安心・安全を確保するには、まずは適切な情報を手に入れることから。松丸本舗の売り場のように本の種類や分野、メディアの種類までも飛び越えて自分に必要な情報を編集してみるとよさそうですね

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