2011年度の地球大学アドバンスのテーマは「コミュニティ・セキュリティの再構築シリーズ」。その第5回は、ゲストに日本政策投資銀行参与で『デフレの正体』の著者でもある藻谷浩介氏をお迎えして10月24日に開催しました。
これからの日本経済はどうなるのか、それを考える時、藻谷さんは景気の波より人口の波について考えるべきだとおっしゃいます。戦後の経済というのは単位の大きな人口を対象とする産業を中心に育ってきたわけですが、いま生産人口の大減少が起きています。その原因である少子高齢化は、日本だけでなく世界的な問題であり、環境・自然・人口というのが経済にとって制約になっています。それに対して日本が答えを出すことが出来れば世界に貢献できるのではないでしょうか。
藻谷さんの著書を拝見すると、その答えを出すためには、戦前から引きずっている体質を変えなければならないけれど、それを考えるとなると「日本とは何か」という問題に踏み込んでいかなければならないという困難さも抱えているということがわかります。
しかし、現在急務である東北の復興こそがその大きな変革のステップボードになりうるのです。東北の復興は日本にリセットの足がかりになる。そしてそれは地球へのソリューションへもつながる。ローカルな話のようで実はグローバルな話である東北をてこにして、どうやってこれからの日本のビジョンを描いていくべきなのか、今日はそのあたりをお話いただけると期待しています。
私はこれから、人によっては「日本おしまいだ」と思うような話をしますが、私自身はすく楽観的です。こういう話をやればやるほど楽観的な予感は強くなり、震災が事実が広がる大きなきっかけになるとも感じています。
2005年から2015年までの人口の変化を見ると、全体では234万人減少で、14歳以下は250万人減、15-64歳は761万人(9%)減、65歳以上は802万人(31%)増、75歳以上は481万人(41%)増となっています。一都三県を見ても、15-64歳は6%減、65歳以上は45%増、75歳以上は64%増です。首都圏は高度経済成長期には団塊の世代が流入して人口が3倍に増え、バブル後には団塊ジュニアも流入して現役世代が維持されたことで若い人がどんどん流入してくるという伝説ができましたが、2000年からは現役世代の減少分のほうが増加分より大きくなっています。
これは東京は極端に出生率が低いからで、だから実は、東京に若者を集めれば集めるほど日本の滅亡は早まってしまうのです。移民を入れてもそれは同じこと、移民国家のシンガポールでも東京と同じようなことが起こりつつあります。だらか、これを解消するには出生率を上げる方法を考えるしかないのです。
これは他の国でも同じです。以前は人口が増えると仕事がなくなるので戦乱になって人口が減るということがあった。しかし、戦後の日本が輸出産業で団塊の世代を養ってしまい、誰も死なずに人口増加を乗り切ってしまいました。この同じ道を他の国も歩んでいる。現役が増え、出生率が下がり始める頃が国として最強で、例えば韓国などが今その状況にあります。でもこれから高齢者が増えていく。中国も2040年には65歳以上の人口が3億人を超えると予想され、インドや東南アジアもその後を追います。
アメリカはちょっと変わっていて、白人の出生率が非常に高く移民も入れているので現役世代は減少しません。早死するので今のところ高齢者も少ない。しかし、一人あたりの医療費が非常に高く、今後高齢者が増えるといろいろ問題が出てくると考えられます。
しかし、それでも私は楽観しています。例えば、三菱地所はこんな東京の一等地に東京のバリューアップをするコミュニティスペースを作っています。これは現役人口減少社会に対応し長期的に生き残るための戦略で、自分の時代が一番良かったと思いたい老人性うつ状態の65歳以上とは違う価値観を持った人たちが活躍しているということなのです。
生産人口が減ると生産力が落ちると思われがちですが、日本では戦後ずっと機械化が進んできたので、人口が減っても生産力は落ちません。しかし、バブル崩壊とともに個人所得が減少し、消費は減少しています。新入社員より退職者が増える今後はその傾向がさらに進むかもしれません。
その消費の減少を実は輸出がカバーしています。不景気だとか日本は終わりだというムードで輸出が減っていると思っている人も多いかもしれませんが、実はバブル期から約50%も増えています。円高ということは輸出が増えているということのはずなのに、誰もその現実を見ようとはしないのです。
実はこれが一番の問題なのです。このまま行くとどんどん円高になって、多くの企業が外国に出て行ってしまいます。でも実は、出ていった先の外国でも数十年後には同じことが起きるというのは先ほど見たとおりです。いま起こっているのはデフレではなく、作り過ぎによる値崩れで、消費が減少していくのならやり方を変えないと立ちいかなくなるのは当然のことです。
ではどう変えればいいのか?諸外国と日本の関係を見てみると、フランスやイタリアは対日本の貿易が黒字に転じています。それに貢献しているのは旅行者が落とすお金やワインやブランド品であり、高い単価で売れる文化的な背景を持つものなのです。日本もこれからは考え方を変えて、そのようなものを輸出していかねければなりません。
まとめると、「活路はスイス化・仏伊化にあり」。大量生産・低単価の商品を世界中から調達して廉価で販売することをやめて、地域地域の生活文化に支えられたハイセンスで高単価の「地域ブランド商品」を流通させる。減り続ける現役世代や、財政窮乏の公共の財布を奪い合う商売をやめて、高齢者の貯蓄や、アジアで増える中上流層の所得を狙って、モノやサービスを売る商売へ脱皮する。中高年の退職で減る人件費を投資とR&Dにまわすのをやめて、若者の給与を上げ、女性を再雇用し日本の内需を維持・高度化することが必要だということです。
藻谷氏と竹村氏の対談がはじまり、話が東北復興に及ぶと、藻谷氏は「三陸のような不便なところで成り立っている産業は、たとえば主に香港に輸出されるあわびやふかひれのように単価が高いものが多く、実は日本の最先端を行っています。でも、彼らもそのことが分かっていなくて、硯の産地である宮城県の雄勝町などもすごい技術を持っているのに、教材用の硯ばかり作っていて、その技術を生かせていない。こういうのも今後付加価値化していくべきです」と東北からの変革を求めました。
これに対し竹村氏は「この惑星で起こっていることは元素がさまざまなものを作り、それを人間が加工してさらにすごいものを作るというアップサイクリング。そして、日本には素晴らしい自然があるけれど、これも実は急峻すぎる土地の水を調律し、スローな水をデザインして作ってきたもの」といい、「これがまさにアップサイクリングで、東北の自然もアップサイクルしていくかたちで復興していかなければならないのでは?」と聞きます。
藻谷氏は「三陸ではブナ林を造営して、水をスローに流れるようにしています。潮がぶつかるところに陸からの栄養が流れ込んで素晴らしい漁場になっている。今回の津波でもブナ林は傷ついていないので、漁獲はすぐ復活します。これまではそれを安く売っていたけれど、これをブランド化して高く売るチャンスがいま訪れている」と答えます。そして「ローカリティに根ざせば頑固なじいちゃんも耳を傾ける。いままでは企業が拠り所だったが辞めた後も続くのは地域性ではないか」と「地域性」をキーワードに上げます。
竹村氏はそれに対し「地域によって進化の形というのが異なる。たとえばインドは道具の進化というのがほとんどない。しかし人間のソフトウェアが育っている。人間の進歩が道具に蓄積するか、人間に蓄積するか。環境に蓄積するか。その尺度で考えると、進歩の見方が変わってくる。人間や環境に蓄積していくというのが21世紀の価値観。人間の労働蓄積を人間と環境に特化していく。東北はまさにそういう地域で、だからこそ、今日の話を出発点にして、東北こそが日本と世界の未来を開くためにどうするかを今後の宿題にしたい」とまとめました。
日時:2011年11月28日(月) 18:30~20:30
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