2011年度の地球大学アドバンスのテーマは「コミュニティ・セキュリティの再構築シリーズ」。その第6回は、ゲストに資源・食糧問題研究所代表で『食糧争奪』の著者でもある柴田明夫氏をお迎えして11月28日に開催しました。
今回から2回にわたって"農"をテーマに開催しますが、今回は日本国内の食と農の問題です。柴田先生は『食糧争奪』という本の中で、包括的な分析とそれに対する対策についてのビジョンを展開されています。それによると、記憶に新しい2008年の記録的な食料高騰のあと、平穏に戻ったかのように思われているがそこには誤解があり、日本では円高で相殺されている部分があるけれど、世界的には食料価格は高騰していて、状況は逼迫の度を増しているというのです。
エルニーニョや投機マネーが原因と言われるけれど、それはトリガーに過ぎず、構造的な原因がある。それは、世界経済を牽引するのが先進国からブリックスへと移っていくことで、それを支える人口が8億人から30億人に急増することであり、そこにバイオ燃料や気候変動の問題も加わって複雑に絡み合っているということ。それについてまずはマクロなビジョンを提供していただこうというのが今日のテーマなのです。
柴田先生は、食糧の安全保障を地球規模でやるべきだということを言っておられる。それは今までアメリカが担ってきたバッファをアジアが担うことでしか出来ず、そのためには日本がビジョンを持ってデザインしていかなければならないというのです。
食糧問題については、同じデータを見ても楽観論と悲観論が真っ二つに分かれますが、私はこれから深刻化するだろうと見ています。問題の始まりは価格の上昇となって現れます。ここにはマネーゲームの側面もありますが、資源全体が同じような動きをしていることからも一過性ではない、安い農産物の時代の終わりを告げるものと考えられるのです。
3.11以降、国内では電力不足が起き、海外では資源価格の高騰が続いていて、日本は供給制約に直面しています。これに対応するためには耕作放棄地の解消など官民一体となって国内資源の活用を図る必要があるのです。
世界の経済は、新興国に引っ張られる形で成長を続けていますが、穀物や原油の価格を見ると、70年代から90年代まで安定していたものが2000年代から急上昇しています。これは、パワーシフトによって人口8億人の先進国から30億人の新興国へ資源需要が移動したためで、いずれは価格が安定するはずですが、それは「均衡点価格の変化」ということになると思います。
生産量は伸び続けていますが、消費がそれ以上に伸びています。理由の一つは新興国が豊かになることで肉の消費が増え、餌となる穀物の需要が急増していること、世界の穀物生産の約4割は家畜の餌となっているのです。もうひとつはバイオエタノール、アメリカではトウモロコシと大豆の生産量が過去最大レベルながらエタノール生産の急増により、期末在庫率は最低レベルに落ち込んでいるのです。
それを補うために、単収の多い米、麦、トウモロコシが全食糧生産の約半分を占めるようになり、さらに遺伝子組換えによる単収の増加が図られていますが、これは多様性が失われることで脆弱性というリスクを追うことにつながるのです。
日本はこれまで高品質のものを安い価格で到達できていましたが、その前提となっているのは「離れる農業」であり、生産と消費が離れることでその過程がブラックボックス化され、安全が脅かされるようになってきています。また東日本大震災では食料の不足がパニックを起こすということもわかりました。それに対応するためには、国内生産を増加し、備蓄を厚くするという「不足すること」を前提とした農業政策への転換が必要ですが、現在の日本は農業の担い手の不足や地域コミュニティの崩壊、森林の荒廃という危機にさらされています。
その対策として最も有効なのは、水田を復活させることです。休耕田にソーラーパネルを設置するのではなくて、水をはって米を育てる事が必要なのです。水田は単にコメを作るだけでなく、国土を保全し、水源を涵養し、太陽エネルギーを蓄える自然のソーラーパネルでもあるのです。農業や農村を見つめ直してみると、意外といろいろな問題外が解決できるのではないでしょうか? 農村に行けば仕事も食べ物もあるという意味で、健全な農村は社会のセーフティーネットにもなりうるとも思うのです。
竹村氏は柴田氏が最後に言及した「萃(すい)点」という言葉に触れ、「ここを押せば、日本の根本問題が解決するような場所のことで、それが休耕田だということ、そこに若者が参入できるような構造を作ることが必要なのでは」と質問、柴田氏は「究極的には農地法の問題で、制定した当時は所有者=耕作者とすることで生産量が上がると考えられていたが、それが変わってきているので、意欲のあるものが耕さるような制度にして行かないと」と答えました。
さらに遺伝子組み換え作物(GMO)の動向についての質問に、「GMO元年と言われるのが1996年だが、特許が切れる20年後の2016年くらいからは中国も参入してくるのではないか。自然は急速に反逆してくることはわかっているが、多様性を維持することを安全保障と考えるという動きはまだない」と答えます。
さらに安全保障という観点から備蓄について柴田氏は「800万トンが必要だと見ているが、それを実現するには市場原理に任せているだけではダメで、地域資源の保全という観点が必要。農地だけでなく、人を導入し、水を保全する事が必要」と言います。竹村氏はこれに「太陽エネルギーをどう効率的に濃縮し利用するか、という見方に位置づけ直す必要がある。そう考えると、農業は太陽エネルギーの貯留装置として日本の経済の中で全然知会う位置づけで見ることが出来るようになる」とつづけ、柴田氏は「そのあり方というのは地域ごとに違ってくるので、地域からの発信のもつながる」と話しました。
柴田氏はTPPについても、同様に農業資源を保全できるかという話と捉えると「外国から安い米が入ってきてコシヒカリ以外は壊滅するというが、日本の400万トンもの需要に応じられる国はない。むしろ日本は輸出の可能性が高まってくるのではないか。20万トン輸出できれば日本の農業の状況は変わってくるのではないかと思う」と話し、竹村氏は「TPP議論で国を開いたら日本の農業がだめになるというのはかつてのグローバリズムの考え方を引きずっていて、淘汰されるものはあるだろうがいい物は出て行く用になると考えるべき。なんでも一方的に開けばいいということではないが、20世紀のグローバリズムの議論からはそろそろ脱却したほうがいい。、ものを買うことがどこへ何を投資することになるのかが見えるようになれば、消費を通じて未来に投資していくという発想を持つことができ、生産中心の経済から抜け出すことが出来るのではないか。」とまとめました。
日時:2011年12月19日(月) 18:30~20:30
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