2011年11月14日仙台・泉パークタウンにある仙台ロイヤルパークホテルと商業施設タピオの2ヵ所で「Rebirth東北フードプロジェクト」と名付けられた二つのイベントが開催された。三菱地所(株)CSR推進部が主催し、丸の内シェフズクラブと連携して行われた生産者支援の食のイベントは、多数の来場者を迎えて大成功に終わった。
一度きりのイベントでなく今後も継続していく、というこのプロジェクトが地元にもたらしたもの、そしてここから都市と地方の連携につなげていくための課題を、3回にわたってレポートする。
イベントは、丸の内シェフズクラブから5人、開催地宮城からは3人の一流シェフが参加して東北の食材を使い、それぞれのオリジナルの一皿をつくりあげるというものだ。昼間はタピオにおいて、主婦を対象に地元食材を使ったレシピが披露され、夜はロイヤルパークホテルにおいて、8人のシェフが手がけた料理を、招かれた東北の食関係者、生産者にビュッフェスタイルでふるまわれた。
※[丸の内シェフズクラブ参加者] 銀座寿司幸本店主人 杉山衛、イルギオットーネオーナーシェフ 笹島保弘、
際コーポレーションオーナー 中島武、ル・シズィエム・サンス・ドゥ・オエノンエグゼクティブ・ディレクター ドミニクコルビ、
マンゴツリー東京総料理長 館山修
[東北エリアシェフ参加者] RESTAURANT CHEZ NOUSオーナーシェフ 赤間義久、Restaurant Chez papaオーナーシェフ 佐藤和則、
仙台ロイヤルパークホテル総料理長 池田一之
今回のイベントで地元生産者とシェフたちをつなぐコーディネーターの役割を担ったのは、(有)マイティー千葉重 代表取締役の千葉大貴さんである。彼は、食のeコマース(EC)の初期段階から地元食材に絞ったECを手掛け、「地域に特化したEC」のプロとして注目され、現在は全国をフィールドに活動している。丸の内朝大学の「地域プロデューサークラス」でも、地域ブランディングに関する講師を務めたこともある。
筆者は、震災直後から本来のフィールドである食を越えたさまざまな案件が集まる千葉さんの姿を間近で見ていたが、後述するように「ビジネス」に不慣れな人が多いなどの課題を抱える宮城においては、千葉さんのもつ「ビジネス感覚」が必要だったと強く感じた。
マイティー千葉重
丸の内朝大学
震災から半年以上がすぎ、本業の食のプロとして「東の食の会」「東北食の流通ネットワーク」などさまざまな新しい流通をつくり出すプロジェクトにかかわる千葉さんは、今回のイベントについて次のように話した。「Rebirth東北フードプロジェクトでは、宮城側のコーディネーターとして、主に『地域食材の斡旋』『地元シェフの紹介』『地元行政との調整』をサポートしました。地方ではこの規模のイベントを地元で開催できる機会は本当に少ない。それだけに地元でも、宮城が変わっていくのではないか、変化のきっかけになりうるのではないかとの大きな期待が寄せられていました」。
イベント当日、地元シェフたちは気軽に有名シェフと会話しながらイベントを盛り上げ、生産者には生産物のプレゼンテーションの場となった。「地元のモチベーションを高めるという面ではイベントの意義は大きかった」と千葉さんは言う。当日の調理をヘルプしてくれた地元の若手シェフたちも「非常にありがたい機会だ」と、イベント終了後に口々に話していた。「今回は東京側で企画されたものでしたが、ここに準備段階から地元の人間を巻き込み、意見を採り入れていけば、より良いイベントになると思います」。千葉さんにもイベントがもたらす地元への効果は見えてきている。では、それを都市と地方とのサスティナブルな関係の構築に進めるためには、何が必要なのだろうか。
東の食の会
東北食の流通ネットワーク
「これまで、都市との直接物流の仕掛けは、持続することが難しかったのではないでしょうか」と、千葉さんは言う。震災後も、復興支援の名のもとに、かなりの数のイベント、商談会のオファーが千葉さんや生産者に届いている。筆者にさえも少なからずオファーがあったことを考えると、かなりの数に上るだろう。だが、依頼する企業側の安く食材を仕入れようという意図が先に立ち、生産者側が少なくない負担を引き受けながら参加しても、売り上げも顧客リストも何も残らない、そしてイベントも1回限り。このような事例は枚挙にいとまがないという。
なぜ、持続しないのだろうか。それを乗り越え、持続するためには何が必要なのだろうか。千葉さんは言う。「地元にも課題があります。それは、生産者、事業者の意識改革です。」
農業、漁業ともこれまでは、農協、漁協がつくりあげた、商材を渡せば値がつくという商慣習に依存してしまい、都市と商売をする上で必要な「損して得取る」ようなの関係構築に慣れていないというのだ。これは、まさにビジネスセンスである。
これまで、各種食のイベントは「祭り」として「復興支援イベントは、1回だけでメリットは少ないからやらない」か「物産展は、負担が大きく疲弊して終わり」というパターンが多かったという。これからは、「目先の利益にこだわらず、将来を見据えて信頼関係を築くといったビジネスセンスが身につくことで、「祭り」の一歩先にある「ビジネス」につなげるという展開も考えられる」と、千葉さんの話は示唆に富んでいる。「そこを啓蒙しながらコーディネートするのが僕らコーディネーターの仕事です」。その上で持続する関係性のストーリーを、顕在化する。そしてそのストーリーを生産者に納得してもらい、都市と地域のサスティナブルな関係への橋渡しをする。それこそが、地元のコーディネーターが果たすべき役割だと言う。
今回のイベントは、一度のメリット・デメリットだけではかるとその意義を見失う。「普段シェフと付き合う機会が少ない生産者の人たちに、シェフとのルートができる」「そのシェフからまたさらに他のシェフに商材の良さが伝わる」「消費者に名前を知られた上で食べてもらえる機会もできる」「メディアでの良く扱われる」など、広がりの可能性までストーリーを考えていければ、参加する意義も継続する意義も大きく広がっていく。
そのために、千葉さんは生産者に東京に行き、各シェフの店に実際食べに行くことも提案している。食材の扱われ方、シェフの人気と支持を集める理由、それをわかった上でリスペクトの気持ちベースにした関係構築が重要なのである。逆にシェフたちにも「地元の温泉地に泊まりながら、食材を食べ比べ、生産者、地元の人間と一緒にメニューを開発するような付き合いをしてほしい」とも言う。都市と地方の双方が意識改革をし、文化を理解しあいながら交流することで、より親密な信頼関係が生まれる。それでこそ、東京と地方をつなぐこのようなイベントは意味をもってくる。
第1回のイベントによって、地元食産業のネットワークの中核となりそうな人間との新たな出会いや、地域外からの移転希望企業が増えるなど、食のネットワークを構築していく上での効果が出てきているようだ。「パワーアップした地元のネットワークを活用して、東京にやってもらうだけではなく、地元発の食のイベントも仕掛けていきたいですね」。そう話す千葉さんが次のフェイズで考えているのは、地元の食に関する次代のキーマン、担い手を育成していくこと。イベントは、その人材育成につながる。東北にとって、地元に人材を残すための、新たな財産になるだろう。
第1回のRebirth東北フードプロジェクトが持続する関係構築のために残したものは、小さいものではない。これから継続して実施が計画されているイベントにも、より良い関係構築に大きな役割を果たしていくことが期待される。
次回は2月に東京丸の内でイベントが予定されている。
株式会社都市設計 H.O.M.E. Project 取締役。 東京と仙台の二拠点で建築設計、コンテンツプロデュース、地域活性など 幅広いプロジェクトを手掛ける。 丸の内朝大学にはコンテンツプロデュースで関わる。 昨年7月に行われたMIYAGI AID in GINZAでは実行委員長、 Rebirth東北フードプロジェクトではイベントディレクション、 その他、名取・美田園ひまわりプロジェクトなど、 多くの復興関連プロジェクトに東京と宮城をつなぐ役割で積極的に参加している。 宮城県出身。