東京大学の震災復興プロジェクトの一つ、「三陸水産業・漁村・漁港復興に向けた産学官連携支援プロジェクト」を中心に、三陸沿岸部での復興へ向けた取り組みを紹介する本企画。第2回は、大学等の研究者と被災地域とが連携して復興に取り組むようすと、浮かび上がった課題などをレポートする。
海底の状況把握は、当初水産業や養殖業の復興に向けた大きな課題であった。震災後、多くの漁業者の間で、津波の引き波によって陸上から流れ込んだ大量の瓦礫が、沿岸の漁場で沈降しているため、養殖イカダや定置網などを設置するのが困難なのではないかという危惧があった。当時も潜水士による潜水調査は行われていたが、水深20mよりも深いところは調査が難しく、状況が把握できていない海底が多かった。
そこで、東京大学海洋アライアンスでは、海底調査技術を持つ研究者による調査チームを作り、水中カメラロボットを用いた海底調査を行った。2011年5月に行われた宮城県南三陸町志津川地区および歌津地区での水中カメラロボットの調査では、最深65mまでの海底面をビデオ映像で録画した。調査の結果、対象海域の海底に瓦礫はほとんどなく、さらに津波以前に堆積していたヘドロも引き波によってさらわれ、砂の海底が広がっていることが確認された。調査のビデオ映像により実際の海底の状況を見ることで、漁業者はすぐにでも養殖漁業の再開が可能であることを確信し、不安を払拭することができた。
上記の経験をもとに、東京大学海洋アライアンスは日本財団と共同で,「海の再生支援プロジェクト~水中カメラロボットによる被災地の海の再生力探査事業~」を立ち上げた。このプロジェクトは、地域の依頼に応じて、水中カメラロボットで撮影や調査を行い、調査結果を現地で分析、報告会を行うことで、今後の漁業再開、復興に向けた準備や計画の参考としてもらうというもの。これまで、三陸沿岸の8地域で調査が行われており、現在も活動は継続している。
海の再生支援プロジェクト~水中ロボットによる被災地の海の再生力探査事業~
2011年8月27日、岩手県大船渡市三陸町越喜来(おきらい)にある北里大学三陸キャンパスにおいて、「水圏の生産力解析~漁業による三陸の復興に向けて~」と題した緊急シンポジウムが開催された。全国から主として三陸沿岸域をフィールドとして研究を行ってきた大学および公的機関の研究者が集まり、各専門分野で被災前から進めていた研究の成果や知見を広く公開・情報共有し、被災地水産業・漁村の復興への貢献に関して議論を行った。
このシンポジウムに参加した地元の漁業者からは、湾内の資源状況や海底の瓦礫の状況がわからないため、漁業や養殖業の再開が不安との声があった。しかし、調査データを元に震災前後での海洋資源の状況を比較した結果、三陸の多くの湾で想定以上に早く貝類・海藻類などの資源回復が確認されているとの報告に接し、大変安心していた。現在も越喜来にあった北里大学の研究者・OBを中心として、海底調査や資源量調査など越喜来水産業の復興に向けた産学連携プロジェクトが進められている。
大槌町では、住民集会や復興協議会で繰り返し議論を重ねてとりまとめられた、「大槌町東日本大震災津波復興計画」の基本計画が、2011年12月26日に臨時町議会の議決を経て策定された。この基本計画は「海の見えるつい散歩したくなるこだわりのある『美しいまち』」を将来像として描いている。その上で、大槌町の強みである「海」を中心とした地域資源に着目し、重要性と緊急性の観点から分野横断的に取り組むべき施策を「未来を創る5つの重点プロジェクト」としてまとめ、取り組みを進めることとしている。
また、町内10地域に設置された地域復興協議会から提案された地域計画をベースに地域の特徴や住民の意見を反映した復興計画が策定され、今後創意工夫を生かした復興への取り組みが地域ごとに進められることとなった。
大槌町赤浜地区の方が「『ここに何が残ったか』『残った者たちが後世に何を伝えていくべきか』」を考え、形にしていくことが、この地域に生かされ、今後もここに住み続ける者としての使命」と語ってくれた。また別の方からは「被災当日の自分の行動を話すので記録してほしい」とのお話をいただいた。この方は津波が来るのを自宅から見て、定められた避難場所には向かわず、本能的に高いところへ逃げ、助かったという。「幼い頃、祖父から何度も聞いた「津波が来たら高いところに逃げよ」という話が体に染み込んでいたから」という。赤浜地区の復興計画の柱の一つに「低地部に津波被害を伝える鎮魂の場、教育の場として活用し、災害に強い人造りを行う」とある。この計画の方向性を受けて、本プロジェクトでも地域の方に被災当日の行動を聞きとり、マップに落として記録する調査を始めることとなった。
現在多くの被災地域で、復興に向けたまちづくり計画が策定されている。赤浜地区に見られるように「その地域に何が残ったのか」「後世に何を残すべきか」を地域住民が考え、それをベースとしてまちづくり計画が策定されている例も少なくない。震災後約10ヵ月が経過し、地域住民が主体となって復興計画が策定されることによって、地域として何をすべきか、そして、復興への課題とその優先順位が整理されてきている。一方、それをどう解決し復興を実現していくかを考えると、地域住民だけでは対応しきれない技術的課題が少なからず浮かび上がってくる。
このように被災地域においては解決すべき課題が明確になるにつれ、従来から言われているように、これら復興に向けた地域側の技術的課題を都市部の企業やコミュニティに伝え、マッチングを図るコーディネーターの存在が今後さらに重要になってくると考えられる。しかし、コーディネーターやそのような役割を持つ組織が十分機能を発揮できる場(プラットフォーム)が存在していないのが現状である。
多くの被災地域でキーワードとして挙げられるのが産業振興、地域コミュニティの構築、防災、食とエネルギーの自給であり、これらは都市部におけるまちづくりにおいても課題となっている。であれば、まずは、これらの課題をエコッツェリアのような都市部まちづくり組織と被災地域のコミュニティでともに考える場(プラットフォーム)をつくることが重要ではないだろうか。このような場の議論を経て、都市の企業やコミュニティと被災地域コミュニティとの協働型の復興プロジェクトが立ち上がってくることを期待したい。
三陸水産業・漁村・漁港復興に向けた産学官連携支援プロジェクト
東京大学大学院農学生命科学研究科の復興支援プロジェクト
千田良仁(せんだ・よしひと)
東京大学海洋アライアンス特任講師、株式会社アミタ持続可能経済研究所 アソシエイト・フェロー。専門は水産経済学、地域開発論。全国各地で地域に眠っている地域資源を発掘、可視化し、これらの地域資源を地域内外の「ひと・もの・かね」をコーディネートすることによって、地域に「生業(なりわい)」を創出し、地域主導で内発型の持続可能な地域活性化の構築を支援するさまざまな活動を展開している。地域再生マネージャー(中津川市、三好市)、総務省「地域人材ネット」登録専門家、食農連携コーディネーター。香川県出身。