街の安全と快適さを保ちながら環境に配慮した交通をどのように作り上げるべきか。現代の街の姿を考える際に必ず直面する問題に、大手町・丸の内・有楽町(大丸有)地区も取り組んでいる。[[電気自動車]]や自転車、水素燃料バスなどを利用するユニークな実証実験を2009年に行った。交通政策の研究者として知られる高橋洋二日本大学教授は、その実験で立案から実施、分析まで中心的な役割を果たしてきた。新しい取り組みで見えてきたものは何か。1月16日から始まる第2次社会実験を控えて、今回の社会実験の意味と、交通からみた大丸有の未来のあるべき姿を語ってもらった。
大丸有地区の特徴は日本経済の中心であるということです。ここまで超一流企業が集まっている街は、他に例がありません。いわば「日本の顔」と言える重要な地域です。そして交通の利用者が会社で働くオフィスワーカーが中心であることも特徴の一つです。また地域の公共交通の存在感が、とても大きいという特徴もあります*1。日本の玄関口でもある東京駅にはJRの主要幹線、大手町駅には地下鉄が集まっています。他の国に比べて日本は鉄道の輸送に占める割合が大きいのですが、その中でも大丸有地区の大きさは際立っていますね。
さらにこの地区は、街づくりで関係者のコミュニケーションが良いという特徴があります。「大丸有協議会」*2 が、街のビルオーナーや地権者の企業・団体等によって作られています。そこが、民間主体で自発的に街の課題に取り組み、街の価値を高めようと努力しています。これまで街づくりに努力を重ねてきた歴史があるからこそ、意義のある新しい取り組みを行いやすい街となっています。他地域では関係者の合意を得ることは、様々な課題にぶつかるでしょう。この長所を活かして、未来の街の交通の姿を考えなければなりません。
大丸有地区で働く人は約23万人いますが、それほどの人が集まるのにこの地区では交通の混乱は起きていません。世界のどの都市でも、渋滞などで都市機能が麻痺して、経済的な損失が生まれています。それに比べれば大丸有地区の姿は素晴らしいことであると評価できます。
しかし、この地区でも問題はあります。例えば、公共交通機関での朝の混雑は世界でも有数です。人とビジネスが集まっているために物流量も非常に多くなっているのです。将来的にはこれらが悪化する可能性もあるでしょう。
大丸有地区はこの10年で大きく変わりました。再開発が進み、ビルが高層化して容積が大きくなるとともに、ショピングゾーンを併設する複合型の大型ビルが誕生しています。丸の内仲通り*3 は高級ブティックが並び、日本有数のショピング街になりました。大型店舗や大型ホテル、また劇場やホールなどの集客施設が次々に開館しています。これらは街として素晴らしいことですが、こうした人の流れの変化は大丸有地区の交通にも影響を与え始めています。大丸有地区は地下駐車場が分散している場合が多いので、車で来た買い物客や観光客は、移動の場合に一度ビルの外に出て、入り直すなどの必要がある場合があります。地下通路が発達したのにあわせて、地下駐車場もネットワーク化するなどの対応が求められるでしょう。
*1 大丸有地区の交通事情。JR東京駅には東海道新幹線をはじめとする新幹線6路線、在来線7路線が乗り入れ、JR東日本管内では第5位となる1日の乗車人員が平均39万4,135人(2008年度・JR東日本発表)。さらに、地下鉄では5路線が乗り入れる大手町駅など4駅が存在し、エリア内では、20路線13駅、1日の平均乗車人員は99万7,000人にのぼり、大丸有地区は、東京の交通の中心になっている。道路では皇居の外縁を南北に走る幹線道路の「内堀通り」に隣接している。また東京駅周辺はバスターミナルもあり、ビジネス向けのタクシーやハイヤーの利用も多い。