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“スマートコミュニティ”時代2――地域連携とセンシングと(野城智也氏、山家公雄氏)

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1. スマートグリッドに不可欠なプロシューマーの精神 ――電力供給地とどうコミットメントするか

"スマートコミュニティ"時代1――生グリーン電力の先へ

1. スマートグリッドに不可欠なプロシューマーの精神
――電力供給地とどうコミットメントするか

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野城: [[スマートコミュニティ]]やスマートグリッドを実現するためには、覚醒した「プロシューマー」としての市民が大多数を占めるようになり、政治的な合意を経て、別のルールを生み出していく必要があるということですね。そうした人為的な制約が加えられることで、従来とは違う選択肢が生まれ、新たな市場競争が起こると。

山家: そのためには、教育も非常に重要だと思います。環境に覚醒するためには、環境教育はもちろんのこと、具体的にスマートグリッド、マイクログリッド(分散電源等を活用して需給を一致させるように調整されたローカルネットワークであるが、双方向のやりとりを前提としない)とはどういうものかなど、環境やエネルギーについてのしくみや技術を知るための市民セミナーや勉強会がもっと必要になっていくでしょうね。
ちなみに、私はヨーロッパと日本は置かれている状況がかなり似ていると思っています。アメリカは広大な国土の中に都市やインフラが点在していますが、ヨーロッパや日本では都市が密集しているし、環境マインドも似ている。ヨーロッパ発のスマートグリッドの思想は、日本の風土に馴染みやすいでしょうね。

野城: 確かに、アメリカの地平線まで続くようなトウモロコシ畑や太陽光発電施設、風力発電施設を日本につくるわけにはいきませんし、グリーン・ニューディールにしても、それぞれの人・組織によってずいぶんコンテンツが違うように感じますね。

山家: そうだと思います。だからといって、日本に再生可能エネルギーは不向きだというのは、議論のすり替えだと思います。とくに風力発電に関しては、日本は国土が狭く、起伏も多くて適地がないなどと言われますが、実際にはそんなことはありません。適地はまだまだあります。買取り価格の水準や受け入れ側である送配電の容量等の制約をどうクリアするかが問題なのです。

野城: 需要のある密集市街地では低周波騒音が問題になるし、逆に人口が少ない場所だと需要がないし、といったわけで、その地域ごとに最適設計を積み上げていく必要があるということですね。どんなかたちが可能なのか、模索することが必要でしょう。

山家: そういう意味では、新丸ビルで[[生グリーン電力]]を導入するというのは、非常に画期的ですね。都心で自然エネルギーを生産することは難しいですが、エリア外で生産されたエネルギーを、都市に住む自分たちも開発に関わることで、生産地の生活と自然環境を共有しているという感覚をもつことに、重要な意義があると思います。

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野城: まさに、三菱地所はプロシューマーになったということですね。もっとも再生可能エネルギーは価格の変動は少ないと見込まれるので、将来、長期的には上昇や変動が予測される石油価格との比較で考えれば、現状では多少高くても、長期的視野から見ると経済的になる可能性がある。また、リスク分散という意義もあります。

山家: そう、再生可能エネルギーは、価格の変動がないところが大きなメリットですね。燃料代はタダなわけですから、かかるのは初期投資とメンテナンス費用だけで、メンテナンスをうまくやれば費用はどんどん下がっていくことになる。

* 画像: 2010年度からすべての利用電力を「生グリーン電力」に切り替える新丸の内ビルディング

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2. 都市は電力供給地とどうコミットメントするか

2. 都市は電力供給地とどうコミットメントするか

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野城: それから、生産地とのコミットという話でいえば、雇用を生み出すこともできます。風力発電や太陽光発電では施設をつくった後に、運転やメンテナンスをする人が必要になります。バイオマス発電であれば、燃料収集や施設の運転に人員が必要になります。多少高くついたとしても、雇用を生んでいると考えれば、地方で生産されたエネルギーを都市が使うということは、都市が地方の経済にも貢献することにもなる。

ここで留意する必要があるのは、商流と物流の違いです。たとえば実際には物の流れがなかったとしても、商流がおこることが重要なのではないかと私は考えています。たとえば、九州のある賃貸マンションで屋上に太陽光発電システム(65kW)を設置し、全住戸に1.5Kwずつ個別連携した事例(芝浦特機 ニューガイア上石田)があるのですが、契約上は、各戸の不足分を九州電力から買ったり余剰分を売ったりと売買があっても、実際に生産された電力はマンション内で近隣融通により消費されているんですね。つまり、電気の売買という商流はあるが、実は電気はほとんどマンション内で自家消費されていて、物流はほどんと発生していない。このように、スマートグリッドを進めるうえでは、バーチャルであっても何らかの方法で、使う側がコミットメントしていく仕組みを考えていくことが大事なのではないでしょうか。

山家: 大丸有であれば、エリアの協議会等でファンドをつくって、地方の自然エネルギー開発に投資するという手がありますね。現在、再生可能エネルギーの固定価格買取制度が検討されていますが、これにより電力会社が再生可能エネルギーを事業が成り立つ価格水準で買い取ることになると、その普及に関しては大きな効果があります。一方で、買取られた自然エネルギーは、一般の電力に紛れてしまい、消費者が関わっているという実感がわきにくい。

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例えば、開発事業者をつくって、エリア外にBOT(build operate and transfer=土地を提供してもらい、工場などの施設を建設して一定期間運用・管理し、投資を回収した後に施設や設備を委譲する開発方式のこと)方式で自家発電システムをつくっていくようなことも重要です。両者をバランスよく進めていくことが求められているのではないでしょうか。

野城: BOT方式を使えば、都心でも、民家の屋根を提供してもらって太陽光発電設備を設置し、発電・運用することが可能かもしれませんね。実際の電力はそれぞれで使っていただくけれど、一方でグリーン電力証書などを通じてカーボンオフセットにも使えると。電力生産に需要側がコミットする仕方は、まだまだいろいろとアイディアがありそうですね。

* 写真2枚目: 2010年に新丸ビルで導入が始まる[[生グリーン電力]]の供給において協力関係にある、二又風力開発株式会社の発電所(青森県上北郡六ヶ所村)

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3. センシング情報をいかに収集し、活用するか ――エネルギーの見える化がもたらすもの

3. センシング情報をいかに収集し、活用するか
――エネルギーの見える化がもたらすもの

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野城: スマートグリッドの技術的な課題でいえば、センシングされた情報・データをいかに使うか、ということにあります。ローカルな情報を積み重ねていって、地域内で電力を融通したり、だいたいの発電量と使用量を見越して、明日、あるいは数時間後にどれくらいの発電が必要かということを、電力供給側であるナショナルグリッド(電力会社が整備・管理している大規模な送配電網)が予測できるような情報が得られるようになる。あるいは電力の使い方を自律的に改善していくようなフィードバック情報を提供したりと、単なる[[エネルギーの見える化]]、だけではなく、センシングデータに基づいた制御技術が、これからのキーテクノロジーになっていくのでしょうね。

山家: そうですね。ナショナルグリッドというのは社会のインフラなので、いくらローカルで電力を融通し合ったとしても、最終的にはナショナルグリッドとの情報のやり取りが絶対に必要になります。そのための、情報の流れやシステムをどう構築するかというのが大きな課題です。

ちなみに、ヨーロッパの場合は、ご存知のように10〜20万人の小規模な都市が主流で、それらがネットワークで結ばれて国土を形成しています。東京のように巨大な都市は存在しないんですね。大丸有の場合、一つのビルがヨーロッパで言うところの一つのコミュニティに相当するような感覚です。そして、ヨーロッパでは、ミニマルグリッドがいくつか集まってローカルグリッドを形成し、さらにそれらを足し算していくようなイメージ。そのうえで、その都市の最適規模がどの程度なのか実証していこうというのが、現在行われているスマートグリッドの一つの狙いです。低炭素社会において、既存の社会インフラとどう共存していくのか、そのためのローカルグリッドの最適規模はどれくらいか、ということを見極めようとしているんですね。

野城: 大丸有地区でいえば、大丸有地区全体が一つの単位になるのか、あるいは、大手町、丸の内、有楽町でそれぞれの単位になるのか、あるいはビルごとの単位になるのか、どの規模が最適かを見ようということですね。

山家: 大丸有なら、おそらくビルという単位が、一つの基準になるでしょうね。 野城: なるほど。そうすると、それぞれのビル内に入っているIT機器の通信プロトコルが、メーカーによって違うといった問題を解決していく必要がありそうですね。このビル内ではこれをデファクトスタンダードにしましょうといって先頭に立って牽引する組織が必要になりますし、そうした地道な活動こそが重要になっていくと。

山家: おっしゃる通りだと思います。実はそれがいま、スマートグリッドで一番ホットな話題でもあるのです。経済産業省も技術の標準化に着目して、スマートグリッドの送電網構築に不可欠な26項目の技術について、国際規格化の後押しを始めたところです。

野城: 現状では、それぞれのデバイスが好き勝手に、別々に"外国語"を話している状況なわけですが、後付けでもいいから、ちゃんとそれが通信し合えるように、いわば翻訳機のようなものを入れるなど、対応が必要になりますね。

クロックマップ

山家: それからテクノロジー面でのもう一つの鍵は、システム開発のオープン化でしょう。ヨーロッパでは、各ローカルグリッド単位で需給システムを構築できるようなイメージでシステム開発を行っていますが、ドイツではオープン化の方向で開発を進めていて、基本設計をWeb上にアップし、みなでブラッシュアップしながら構築しようとしています。アメリカも、スマートグリッドにGoogleとマイクロソフトが参入し始めましたが、これも、システムのオープン化を見込んでの動きだと思います。オープン化で進めれば、変数が多くて階層も多い複雑なシステムも、あっという間に構築できてしまうし、それが標準になりますからね。

野城: コンピュータOSのLinux方式、というわけですね。残念ながら、日本はそういうやり方はあまり得意ではありません。でも、膨大な知恵が必要なほど、オープン型イノベーションが不可欠、というわけですね。いうなれば、今いるこのビルのこの部屋のスイッチを消すことが、このビル全体で、あるいはエリア内で、さらには電力系統全体にどういった影響を与えるのかということを、ITを使って評価し、双方向に制御していこうという壮大な試みなわけですから。

山家: ITの専門家から見れば、スマートグリッドはITそのものに見える、というのも納得できます。山ほどある膨大な情報を集めて処理しなければならないわけですからね。標準化はもちろんのこと、インターフェイスも大きな課題の一つです。

現在、HEMS(Home Energy Management system)や、BEMS (Building Environment and Energy Management System)が注目されていますが、現状はスタンドアローンで、家の中、あるいはビルの中だけでゼロエミッションをやろうとしています。これをどうエリアでつなげるかといいうのも課題です。ヨーロッパでは、家中のさまざまなデバイスごとにネットワーク化し、ローカルのエリア内で制御したほうが効率がいいというイメージをもっています。それが、スマートグリッドの設計にも反映されています。そう考えると、単体で完結してしまっているHEMSもBEMSも、いずれは廃れてしまうかもしれません。

野城: ましてや現状は、それぞれのメーカーごとに独自のシステムを採用していて、互換性、連携性がありません。もっと汎用性があり、みなが使えるものでないと、ネットワーク化は難しい。過渡的なシステムになってしまう可能性はありますね。

* 写真2枚目:新丸ビル10階エコッツェリアにある「クロックマップ」
ヒートアイランド対策の成果等を「見える化」するため、大丸有エリアの各所に「デジタル百葉箱」を設置して、温度、湿度、風速、降水量をリアルタイムに測定し蓄積。その情報を、エコッツェリア「クロックマップ」で見ることができる

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4. 新しい社会の構築に不可欠な全体を俯瞰する視点 ――各地で始まるスマートグリッド実証実験

4. 新しい社会の構築に不可欠な全体を俯瞰する視点
――各地で始まるスマートグリッド実証実験

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山家: 現状スマートグリッドは、さまざまに課題を抱えている状況だということがおわかりいただけたと思いますが、やはり一番のネックはあらためて、前提となる「環境への覚醒」ではないか、という気がしています。というのも、先日、環境省のある研究会でデンマークの事例をお話したところ、意外にも否定的なご意見が多かったのです。風力発電でつくりすぎた電力を[[電気自動車]]の充電池に貯めておくことで、双方のインフラを増やすという政策について紹介したのですが、バッテリーから見ると、そういう使い方は寿命を縮めるからよくないとか、日本にはスマートグリッドは必要ないといった意見もありました。

野城: 意外ですね。これからの時代、電気自動車の普及は不可欠ですし、そのこととスマートグリッドは大いに関係しているはずですが......。もちろん電池の寿命は大きな課題ですし、従来のように化学的な方法ではなく、物理的な手法に変えてみるとか、まだまだ技術開発の余地があると思います。あるいは、都内だったらせいぜい15kmも走れればいいわけで、それほど大きな電池を積む必要はないとか、発想を変える手もある。電気自動車の技術開発と街づくり、スマートグリッドのあり方など、俯瞰的に考えてみて初めていい答えが生まれてくるのだと思います。

山家: まったく同感です。目標としている社会を実現していくためには、社会全体を俯瞰する視点をもつ必要がある。そうすれば、低炭素社会を目指す個々の電気自動車なり、エアコンなり、家庭なりといったものが、一つにインテグレート(統合)されているイメージがつかめると思います。

野城: 一方で日本の場合は知らない間にインテグレードできるだけのインフラが整っているともいえるんですね。いまやあらゆるものにCPUが搭載されていて、それらがセンサーとなり発信機になり得るわけで、見えざるネットワークですでにつながれている。坂村健先生がおっしゃっているような、ユビキタス社会の実現も夢ではありません。ましてや電気自動車は、移動するエネルギー需要体でもあり供給体でもあり、センサーでもあり情報発信機でもあるのです。やはりスマートグリッドを構成する大きな一要素であることは間違いないでしょう。

国内でも、今年4月から、長崎県五島列島で電気自動車のカーシェアリングの実証実験が始まるなど、新たな動きが出てきていますね。

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山家: そのほかにも、今秋からは、沖縄県宮古島でもスマートグリッドの実証実験が始まります。ここでは、太陽光発電などの再生可能エネルギーと火力などの既存の電力を効率よく組み合わせ、CO2 の年間排出量を4000t削減する予定です。また、今年は青森県六ヶ所村でも、トヨタ自動車、日立製作所、パナソニック電工、日本風力発電などが参画するスマートグリッドの実証実験が始まります。これらの実験に大いに期待したいところですね。

野城: 日本のスマートグリッドはまさに始まったばかりですからね。本日は長時間にわたり、大変有意義なお話をありがとうございました。

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対談後記 野城智也氏

スマートグリッドという言葉はいま一人歩きしていて、その意味も百人百様であるといっても過言ではないが、大いなるイノベーションの可能性を秘めていることは間違いない。但、そのイノベーションの様態は、従来のような供給者だけが主導するものでもなく、また単一企業が主役になるものでもなく、いわば日本における前例が乏しいという意味において、バラ色の未来を夢想していても、絵に描いた餅になってしまうおそれもある。それゆえに、「スマートグリッドの前提となるのは、私たち市民が環境に覚醒していること」という山家先生のお話はとても印象的であった。
スマートグリッドの核心は、ある住宅、建築単体あるいは街区単位などある空間単位におけるエネルギー需要を予測し、それに基づいてfeed-forward制御による需給調整を行うという点にある。日本では、このfeed-forward制御による需給調整をいわゆるスマート・メーターなどによるハイテク機器導入で、いいかえれば供給者主導で実現しようとする指向が強いが、このようなともすればクローズド型に陥り遡及力が限定的で、イノベーションに結びつかないことが多い。例えば住宅におけるエネルギー使用実態は個別性が強く、居住者構成、ライフスタイル、住宅の物理的特性などの諸要因によって幅広く分布する。ハード機器だけでなく、千差万別の需要内容も説明できるような複雑な数理モデルの構築が成功しなければ、feed-forward制御による需給調整は高度で複雑な技術的課題になってしまう。
しかし、居住者が覚醒し、制御に積極的関与(コミットメント)するようになれば、その分布域は狭まり、制御内容も簡約化され、ハイテク機器やそれほど複雑な数理モデルを導入せずとも、単位空間内での需給バランス調整はローテク在来技術で制御できる可能性が開かれる。いわばユーザーの積極的関与(コミットメント)や、ユーザーサイドでの技術統合がなされないと、スマートグリッドは成功し得ない。ここに、山家先生がおっしゃる、プロシューマーによるイノベーションの本質がある。制度設計とその導入に成功すれば、再生可能エネルギーの導入は、プロシューマーが主役のユーザー・居住者目線によるオープン型イノベーションを引き起こし単に単にCO2ガスの大気への排出量抑制だけでなく、地方における雇用創出や、都市と地方との真のパートナーシップ構築のよすがにもなりうること、そしてそのためには評論家的態度ではなく、積極的関与(コミットメント)が不可欠なこと、こういった貴重な示唆と刺激を下さった山家先生に心から感謝したい。

MADOKA's EYE 今回の取材を終えて、編集記者からのヒトコト

山家先生のお話で印象的だったのは、スマートグリッドの前提となるのは、私たち市民が環境に覚醒していること、という一節でした。新しい世の中をつくれるかどうかは、私たち一人ひとりの意識にかかっているというわけですね。環境マインドを大切にして行動することが、実はとてつもなく大きな意味をもつということを、改めて知りました。 もう一つお二方のお話で印象的だったのは、生産地とのコミットメントについて。私たちの生活の基盤を支えるインフラが、どうやってつくられ、もたらされているか、そこにちゃんとかかわることで、意識も変わってくるという。難しい仕組みや技術の話をお聞きしたようでいて、実はその根底にあるのは心の問題だということを強く実感した数時間でした。

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