紺野 登(KIRO(株)代表)
世界は大きな転換期を迎えており、 20世紀的な社会・経済システムと 21世紀的な新しい仕組み、価値観の台頭を明確に見極める時期にあります。そうした時に都市空間はとても大きな役割を担うものです。オキュパイ運動の発端となったニューヨークのウォールストリートやジャスミン革命の舞台となったカイロのタハリール広場などがその好例です。
そうした中、戦後日本の経済成長を支えた丸の内が 21世紀にどのような役割を果たすべきなのか。わたくしは、ビジネスや社会の進化に向けた"創発を生む都市"となれるかどうかがカギを握っていると思います。 20世紀型企業の目的は利益追求でした。しかし今では企業の使命が明らかに、社会・共同体の幸福・共通善の追求、最大化へと変わってきています。利益追求を第一義とする時代であれば自社内で完結できたことが、社会的な共通善を目的とした場合には一企業では限界に直面してしまう。このため、最近は企業間のコラボレーションやオープン・イノベーションが関心を集めています。
共通善を目的とする創発的な社会システムに転換するために、大丸有を進化させる 4つのポイントがあります。 1つ目は物理的かかわりの機会を常に用意すること。コラボレーションは現実的なかかわりが基盤です。 2つ目は、まちの住民(企業、店舗、就業者、NPO等)が継続的にコミットできる機能をもつこと。単発のイベントは、狭い関係に役割が限定されてしまいます。 3つ目はバウンダリー・オブジェクト、つまり共通目的のために既存の境界を壊せる人材や機能を有すること。異種・多彩な人びとが集うフューチャーセンター機能の導入は、検討に値します。 4つ目は目的のマネジメント。企業・社会・まちが「共進化」するために、日本全体の社会・経済システムを転換させる大目的を常に意識すべきです。そして大丸有でしかできないようなさまざまな実験を行い、常に議論できる場を持ち、モニタリング結果をフィードバックすることが大切です。
これらを推進するためには、周囲に見えやすい形で「大丸有が目指す都市像」を示すべきでしょう。香港、上海、シンガポール等はそれが非常に明確です。大丸有は、たとえば「クリエイティブ・シティ」。信頼できる関係性をつないで、企業、人材、運営、インフラ等あらゆる要素のイノベーションが展開されるまち。そして、集合したインテレクチュアル・キャピタル(知的資本)をより高める仕組み・ミドルウェアを、まちの中に埋め込む必要があります。たとえば、エリア内外の多くのステークホルダーが主体的に参加・交流し、活発な活動を行う場をつくり、継続的にかかわる人がフォローしていくこと。エリアの価値を高めるには、ハードウェア・キャピタルとインテレクチュアル・キャピタルが連携する密度こそ重要なのです。
「共通善を実現するイノベーション」といった強力なコンセプトで、日本の経済・社会システムの進化・変革に関わりながら、大丸有にしかないものをつくり出して、大丸有が日本を、時代を引っ張っていくことを大いに期待しています。
メッセージ完全版はシリーズでご覧ください「大丸有は「共通善」実現のクリエイティブ・シティへ」
KIRO(株)代表。多摩大学大学院教授(知識経営論)。博士(経営情報学)。『幸せな小国オランダの智慧 ─災害にも負けないイノベーション社会』、『ビジネスのためのデザイン思考』、『知識デザイン企業』『知識経営のすすめ』など、多くの著書がある。