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三菱一号館美術館 恵良隆二氏、建築「三菱一号館美術館」を語る

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2010年4月6日(火)、三菱一号館美術館がいよいよ開館!

開館記念展は、オルセー美術館他、国内外の美術館所蔵の油彩、素描、版画80点余が出品される「マネとモダン・パリ」。展示の内容も気になるところですが、今回は、その会場となる三菱一号館美術館の建築に迫ってみましょう。

1894年に英国人建築家ジョサイア・コンドルによって設計された、わが国最初の近代的オフィスビル「三菱一号館」。その三菱一号館を、構造や工法、部材にいたるまで忠実に復元した三菱一号館の、建築的魅力や見どころについて、三菱一号館美術館 恵良隆二氏(三菱地所株式会社 美術館室長)にお話を伺いました。

―ズバリ復元された三菱一号館の、建築的見どころはどこでしょう?

「歴史」「意匠(デザイン)」「技術」の3つですね。

news100405_02.jpg まず、1つ目の「歴史」についてですが、旧三菱一号館の設計者ジョサイア・コンドル* は、「日本の近代建築の父」と呼ばれる人物です。明治10年に日本政府に招かれ、工部大学校(現・東京大学)造家学科の教授としてイギリスから来日したコンドルは、辰野金吾(たつの・きんご)、曾禰達蔵(そね・たつぞう)といった、後の時代を率いる日本人建築家を育てました。旧三菱一号館は、そのジョサイア・コンドルの代表作であり、日本の本格的な近代建築の先駆けとなった建物なんです。
* 設計は新旧三菱一号館ともにジョサイア・コンドルによる

mitsubishi.com 三菱人物伝 ジョサイア・コンドル

旧三菱一号館は、現在オフィス街として知られる丸の内の、始まりとなった建物でもあります。

元々は野原だったこの地に、最初に建てられた旧三菱一号館。煉瓦造でモダンなこの建物を基準に、軒高が15mに揃った煉瓦造のオフィスビルの街並みが整備されていったんです。そのモダンな様子に、当時の丸の内は「一丁倫敦(いっちょうろんどん)」と呼ばれていたんですよ。

当時の街並みや時代背景なども考えながら建物見てみると、さらに味わい深く感じられると思います。

2つ目の「意匠(デザイン)」について。
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三菱一号館は煉瓦造りですが、開口部の窓や玄関などの意匠の部分は石造りになっています。馬場先通り沿いのファサードは美しいシンメトリーになっていますが、よく見ると、各階で窓や石の意匠が違っている。そういった部分がデザイン的に効いていますね。

銅板のドーマー窓やスレート屋根、手が込んだ細工の棟飾り、それらと赤煉瓦のバランスも美しい。歴史的な価値がよく話題になりますが、こういった単純な「見た目の良さ」にも注目してほしいですね。

2つ目の「意匠(デザイン)」について。

また、パークビル側の中庭付近は、当時はバックヤードとして使われており、そこに面するファサードはいわゆる「裏側」。馬場先通り沿いの「表側」と比べてとてもシンプルです。そういった、意匠の差を見比べてみるのも興味深いのではないでしょうか。

丸の内の歴史&建築丸わかり! 三菱一号館「一丁倫敦と丸の内スタイル展」に行ってみた。(1)

3つ目は「技術」。

news100405_04.jpg旧三菱一号館の一部の煉瓦の間には「帯鉄」と呼ばれる薄い鉄板が入っており、耐震煉瓦造という耐震設計になっていました。1891年に起こった濃尾地震を踏まえて、ジョサイア・コンドルが設計に耐震性を取り入れたんですね。表からは見えませんが、関東大震災にも耐えたこの耐震設計も、もちろん復元されています。その他にも、金具や建具のデザインまでを、可能な限り旧三菱一号館に忠実に復元しています。

3階の南東側にある展示室の天井は、わざとガラス張りにしてあります。この展示室では、宮大工の手によって仕上げられた木組みの天井裏を見ることができます。(* 写真右) また、この部屋の壁は漆喰を塗らず、あえて煉瓦をむき出しにしているので、当時のクオリティを再現するためにひとつひとつ中国の工場で仕上げた煉瓦も、ぜひ味わっていただきたいですね。

梅佳代、ホンマタカシ、神谷俊美が撮った! 三菱一号館「一丁倫敦と丸の内スタイル展」に行ってみた。(2)~

―大丸有(大手町・丸の内・有楽町)のCSRレポートはテーマを「1000年つづくまちへ」としていますが、旧きよきものを大切にし、未来に繋げていく三菱一号館は、まちのシンボル的な存在のように感じられます

「社会」「経済」「環境」のサステナブルな関係の真ん中にいるのは、人間です。文化はそれらを繋ぐことができます。また、サステナビリティは人間と自然(環境)のバランスによって成り立つものです。私たちは、この丸の内という環境で、ひとつの都市のバランスのあり方を示していきたいと考えています。

時代の価値観は常に変化します。私たちは、この三菱一号館美術館という変わらない場所で、変わっていく時代性を柔軟に表現したい。このまちならではのコミュニケーションの可能性を、追求していきたいと思います。

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―最後に、これから三菱一号館美術館にいらっしゃるみなさんに一言お願いします。

三菱一号館美術館開館記念展<Ⅰ>の展示テーマは、「マネとモダン・パリ」です。今回の展示は、美術の祖といわれるマネの回顧展で、作品数の少ないマネの作品がかつてない規模で集結しています。まずは、この展示自体を楽しんでください。

また、旧三菱一号館ができた頃の日本の近代化の時代と、マネが活躍したパリの近代化の時代を重ね合わせるようにして、都市と美術という視点を交えながら、歴史的空間の中での美術体験を楽しんでしてほしいですね。

(* 写真右:旧三菱一号館当時から残る暖炉と恵良美術館室長)

―以前、「一丁倫敦と丸の内スタイル展」を取材した際に、旧三菱一号館で働いていた方々が来てらっしゃって、「この資料に写っているのは○○さんじゃないかい?この建物は懐かしいなぁ」などと、嬉しそうにしてらしたのが印象的でした。

こうして三菱一号館がよみがえったことが、過去に丸の内に関わった人たちが戻ってきてくださるきっかけとなったことに、胸が熱くなりました。また、このような魅力的な展示が行われることで、新たに関心を持ち、まちに人が訪れる。時間と人とを文化で繋ぐ場所、三菱一号館美術館の今後にも期待しています。今日はどうもありがとうございました。

三菱一号館美術館開館記念展<Ⅰ>マネとモダン・パリの開催は、4月6日(火)から。
建築の魅力も楽しみながら鑑賞すれば、楽しみも倍増しちゃいます。展示期間の3ヵ月半は、あっという間に過ぎてしまいます。この機会を見逃さないよう、早めのチェックが吉ですよ!

三菱一号館美術館開館記念展<Ⅰ>マネとモダン・パリ

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  • 会期 : 平成22年4月6日(火)~7月25日(日)
  • 会場 : 三菱一号館美術館(東京都千代田区丸の内2-6-2)
  • 開館時間 : 水・木・金 10:00~20:00、火・土・日・祝 10:00~18:00
    * 入館は閉館の30分前まで
  • 休館日 : 毎週月曜日
    * ただし5月3日(月・祝)、7月19日(月・祝)は開館
  • 主催 : 三菱一号館美術館、読売新聞社、NHK、NHKプロモーション
  • 共同企画 : オルセー美術館
  • 後援 : 外務省、フランス大使館
  • 特別協力 : フランス国立図書館
  • 協力 : 日本航空、大日本印刷

三菱一号館美術館