企業や団体のCSRや環境に関する広報の現場を訪ねる【環境コミュニケーションの現場】。第4回は、環境ステートメント「eco changes(エコチェンジ)」に基づきさまざまな広報活動を展開している三菱電機の取り組みを紹介します。
エコチェンジは、三菱電機グループが2009年6月に策定した環境ステートメント(声明)です。エコチェンジが生まれた背景と策定に込められた思い、そして広報戦略について、三菱電機環境推進本部企画担当課の田中基寛さんと、同社宣伝部コーポレートコミュニケーショングループの片山泰治さんにお話を伺いました。
「事業すべてにエコチェンジのマインドが息づいています」と語るのは、環境推進本部の田中基寛さん
田中: 三菱電機グループにはもともと、「常により良いものをめざし、変革していく」という意味を込めたコーポレートステートメント「Changes for the Better」があります。これに新たに、同じ位置で加わる形で、「環境ステートメント」を2009年度に作りましたつくりました。これがエコチェンジです。エコチェンジとはこのコーポレートステートメントのもと「家庭・オフィス・工場や社会インフラ、そして宇宙にいたるまで幅広い事業を通じて地球温暖化防止と循環型社会に向けてチャレンジする」という環境経営姿勢と「お客さまと一緒になって世の中をエコに変えていく」という取り組み姿勢の両方を明確に示したものです。
実は、それに先立つ2007年10月に、環境経営の長期ビジョン「環境ビジョン2021」を策定し、低炭素で循環型の社会の実現に向けたチャレンジと生物多様性保全への対応を通じて、社会貢献と企業体質の強化を同時に図っていくことを目指す姿勢を明確にしました。
具体的には2021年に生産時CO2排出総量と、製品使用時のCO2(効率)、および資源投入量をそれぞれ1990年比で30%削減するなどの目標を掲げ、環境・エネルギー関連事業を成長戦略の柱と位置づけてさまざまな環境関連の製品やサービスの提供を目指すことにしました。こうした企業姿勢や環境への取り組みを集約して、われわれとお客さまと一体となって進めて行きたいという決意を社会へ発信していくものとして「エコチェンジ」は生まれました。エコチェンジの開始に伴い「ユニ&エコ」も「ユニ&エコチェンジ」へと生まれ変わりました。
片山: エコチェンジのロゴデザインである瑞々しいグリーンの球体は家庭から宇宙まで地球全体をより良く変えていくことをイメージし、右下に描かれている軌跡は、社員自身が変わり、お客さまとともに社会を変えていく行動力を表現したものです。
また、複数形の「changes」には、社員一人ひとりが自ら変革するとともに、製品の開発・生産・輸送から使用、そしてリサイクルにいたる社会のあらゆる場面で変革を実現していくという強い願いが込められています。
このようにエコチェンジは、三菱電機グループの環境経営への決意を改めて示した環境ステートメントなのです。
片山: エコチェンジという言葉には、当社が長年培ってきた技術力を生かして社会の役に立ちたい、皆さんといっしょに世の中をエコに変えていきたいという意気込みがあります。この姿勢を世の中へ伝えていく上で大切なことの一つが、地に足のついたエコをアピールすることです。例えば、生産時のCO2を削減するためには工場の省エネや製品性能の向上など、小さな工夫を積み重ねていく必要があります。こうした事実の裏付けあってのエコチェンジであると知ってもらうことが、ステークホルダーの信頼を得ることにつながります。
また、あらゆる人を対象とした細やかな宣伝活動も欠かせません。環境やエネルギーの分野はビジネス向けの技術的な内容が多くなりがちですが、できるだけたくさんの人にエコチェンジについて知ってもらうために、媒体を新聞や雑誌など理解型のメディアに絞り、説得型の広告を打つとともに、ターゲット毎に媒体を細かく選んで出稿しています。
片山: 一般向け広告では、意外性のある記号をビジュアルの中心に据えて注目を引き、環境に関心のあるさまざまな方への知的でスマートな印象獲得を狙いました。一方、ビジネス向けでは質感の高い写真を使って高品質を訴求して、子ども向けには楽しそうな理科実験風な印象を残すように工夫をしました。
ほかにも、エコチェンジのコンセプトブックや子ども向け読本、製品やサービスについてイラストと一言文で紹介したトランプなどを作成し、展示会等で活用しています。
田中: 先ほど「家庭から宇宙まで」とお話ししたとおり、当社はルームエアコン「霧ヶ峰」に代表される家電製品から、工場やビルの生産ライン、エレベーター、太陽光発電システム、そして人工衛星まで幅広い事業を手がけており、その製品やサービスのすべてにエコチェンジのマインドが息づいています。
技術会社が本来持つ真面目さや、環境を良くしたいという強い思いを「エコチェンジ」という一つの言葉で伝えられるようになったことで、社会への訴求力が大きく向上したと思います。
田中: 国内には現在、約27の工場があり、このうち太陽光発電システムや全熱交換機の製造拠点である岐阜県の中津川製作所では、それらを自ら積極的に導入したり、簡易包装設計を行ったりしてエコチェンジの実践に努めています。また、2010年に、この中津川製作所をはじめ、愛知県の稲沢製作所や名古屋製作所、中部支社が共同して「工場の中の生きもの観察」を実施し、生物多様性の実態と大切さを肌で感じたようです。
片山: エコチェンジを社会へ広めていく上でもう一つ重要なのが、外向けでもあると同時に内部も充実させていく「アウター&インナー」の視点です。まずはグループ内できちんと浸透させてから社会へと発信することで、エコチェンジが説得力のある地に足のついた活動になるのです。
海外のグループ企業では、昨年9月からロゴマークを使った環境コミュニケーションを本格的に展開しています。エコチェンジのコンセプトは基本的に万国共通ですが、具体的な展開内容は現地に任せています。例えば、台湾では環境啓発活動の一環として実施した社内イベント「エコチェンジファミリーデー」を開催したり、語学コンテストのテーマにエコチェンジを取り入れたりして、社内コミュニケーションに力を入れています。
また、インドで設立した販売会社では開所時からエコチェンジを大きく掲げていましたし、アメリカではエコチェンジをテーマにしたCMを制作しました。欧州やほかのアジア諸国でも多種多様な取り組みがあります。
片山: エコチェンジは企業価値を向上させていく上で欠かせない環境ステートメントであり、何よりも継続していくことが大事です。今後もあらゆる資源を投入して、年末のエコプロダクツ展に向けて新聞や雑誌、ウェブサイトなどを効果的に活用していきます。
また、エコチェンジをより親しみやすいものにするコミュニケーション手法についても試行錯誤を重ねていて、最近ではエコチェンジの「決めポーズ」を考案し、展示会では会場の皆さまと一緒にポーズを決め大いに盛り上がりました。このように柔軟な発想に立った豊かな表現方法を模索していくことが、これからの環境コミュニケーションには必要なのかなと思っています。