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【丸善松丸本舗BookNavi】1月号「東京で味わう正月の味」

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松岡正剛氏が大胆にプロデュースし、書店のあり方の可能性を広げたとして、各種メディアから注目を集める丸善本店 松丸本舗と、サステナビリティを考えるまちメディア丸の内地球環境新聞がコラボレーション。その季節にピッタリの本をナビします。

BoolNAVI1月号のテーマは「東京で味わう正月の味」
日本最大の行事といえば、正月。古代から現代に至るまで、正月に関しては話題に事欠きませんが、今回はあらゆる地方から人が集まっている東京ならではの多様な"食"にフォーカスをあてた本をご紹介します。

今回お話を伺ったのは、この方々。
・松丸本舗ブックショップ・エディター山口 桃志 さん(以下 山口
・松丸本舗マーチャンダイザー栢下 雅澄さん(以下 栢下

このシリーズは、丸の内地球環境新聞デスクの「アクビ」こと永野(以下 アクビ)がお届けします!

○ 1月のオススメ本

  • 『おもちのきもち』 かがくいひろし(著)/講談社の創作絵本
  • 『もち(糯・餅)』 渡部忠世、深澤小百合(著)/法政大学出版局
  • 『池波正太郎に届ける「おせち」』 近藤文夫(著)/筑摩書房
  • 『白洲家としきたり』 白洲信哉(著)/小学館
  • 『正月の来た道―日本と中国の新春行事』 大林太良(著)/小学館
  • 『「まつり」の食文化』 神崎宣武(著)/角川選書

餅 A to Z

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アクビ: 正月休みとセットなのが"正月太り"。故郷に帰ると、つい食べては寝、食べては寝という循環に陥ってしまって・・・。今回は、そういったお正月の味や故郷の味を、東京にいながら本で味わってみようと思います

栢下: 正月の味といえば、お雑煮。お雑煮といえば、お餅。鏡餅も飾りますし、お餅は無視できない存在です。そこで、まずはお餅に関わる本を探してみました

山口: これは、第27回講談社絵本新人賞を受賞した作品なんですけど、『おもちのきもち』という、お餅の気持ちが描かれた絵本です

食べられる側の気持ちって考えないじゃないですか。この絵本では、食べられたくないからお餅が逃げまわったり (笑)。無駄に食べちゃいけないだとか、そういったメッセージが素敵な柔らかい絵で描かれているんですが、最後には自分で自分を食べちゃったりして。ちょっとシュールですよね(笑)

栢下: かがくいひろしさんは、だるまさんシリーズで人気のある方ですね。だるまさん以外の作品も面白いんですよ

アクビ: あたたかい絵が素敵ですね

山口: タイトルもアナグラムっぽくて面白いですよね。どんな形にでもなれるというお餅の特性もよくわかります

栢下: お餅の特性という話が出たところで、お餅の文化的背景がわかる本も探してみました。『もち(糯・餅)』。法政大学出版のこのシリーズは、『臼』とか『瓦』とか、ひとつのテーマを一冊で掘り下げていてとても面白いんですよ

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山口: 日本だけじゃなくてアジアも含めた各地の餅文化について書かれています。餅米ができるのは、照葉樹林があって湿度が高い東アジアの特定の地域だけらしいんです。そこに餅が発生して、ねばっこいものを好む食の嗜好が出てきた

気候風土って食だけじゃなく、宗教にも関わってくるじゃないですか。砂漠では、すぐに判断しなければ死に繋がるわけですよ。道を示してくれる絶対的なリーダーが必要だから、唯一神が生まれたんですよね。森だとすぐに判断しなくても食べられるものがあって、生きられるんですよね。だから釈迦じゃないですけど「瞑想して考えるか」みたいな文化になる。信仰とも、食べ物とも、気候風土は関係するんですよね

アクビ: 鏡餅は神様への供え物ですから、食と気候風土・信仰の接点でもありますね。「もちもち」食感の食べ物が一時期とても流行りましたが、それも日本をはじめとした餅米が育つ地域独特の嗜好なんでしょうね

山口: 日本人は粘り気があるお米が美味しいって言いますけど、欧米のお米ってどちらかというと野菜感覚なんですよね。パラパラとした食感のものを付け合せにしたり。粘り気は東アジア独特の好みなのかなと思いますね

アクビ: 日本国内でも、お餅でいえばお雑煮は丸餅なのか角餅なのか、焼くのか焼かないのかといった地域性がありますよね。だしや具材は地方の特産物であることが多いですし

BookNavi10月号*1 に登場した松丸本舗マーチャンダイザー宮野 源太郎さんが突然登場
*1 BookNavi10月号 「秋の夜長に読みたい本」

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宮野: お雑煮にあんこの餅が入ってることがあるって、知ってますか?

山口・アクビ: 知ってますよ!

栢下: 私は知らなかったです。味が想像できないですよね

山口: 意外とおいしいですよ

栢下: うちのお雑煮は普通です

アクビ: その"普通"が家庭によって違うんですよ!(笑)

山口: 関東なら角餅で、鶏肉とか三つ葉とか大根、柚子が入ったおすましですかね。お餅のこげ色が、澄んだおつゆの中から見えるという。私は下町の出身なのですが、鰹と昆布だしですね。たまに伊達巻を入れることもあります

アクビ: 伊達巻をお雑煮に、ですか!?

山口: 煮込まないでお椀に入れておいて、その上からだしをかけるんです。おかめ蕎麦に入っている伊達巻のような感じですかね。甘じょっぱいというか

アクビ: 我が家は両親が九州出身で、ブリが入るんです

山口: 北海道のイクラや鮭などが入ったお雑煮を見たこともあります。西にはあごだし(とびうお)の地域もありますね

アクビ: 丸の内地球環境新聞では、ツイッターで各家庭のお雑煮を募集して特集した*2 のですが、いろいろな各地からいろんなお雑煮が集まってとても面白かったです。お餅の気持ちから背景、家庭での調理法まで、お餅にもいろんな切り口があって話が広がりますね!

*2 「突撃!隣のお正月 ツイッターで全国の雑煮を募集してみた」

お隣さんの正月が、気になる

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栢下: 隣の家ではどうなんだろうっていうのは、気になりますよね。「うちのお雑煮はこうだ」とか「おせちの中ではこれは好きだけど、これはちょっと・・・」だとか、毎年飽きずにそういう話になります(笑)

山口: 『池波正太郎に届ける「おせち」』からは、池波正太郎さんの家のお正月が垣間見えますよ。著者は銀座で「近藤」というてんぷら屋をやっている有名な方なんですが、山の上ホテルで料理長を務めていたときにお世話になった池波正太郎さんに恩返しの意味で、最高の材料を使っておせちをつくってお届けしているそうです。綺麗な写真に写った真摯な姿がいいですね

アクビ: 簡単な調理法なども書いてあるんですね。20日かけてつくられているとあります。贅沢!

山口: このおせち、売り物じゃないんですって。初心を忘れないためや、学ばせていただいたお礼の意味で年始にお届けするんだそうです

こちらの『白洲家としきたり』からは、行事としてのお正月や白洲家のお正月の過ごし方などがわかります。白洲次郎さんの長男の信也さんの著書で、節目のしきたりについて書かれた本です。白洲次郎さんは人気がありますね

アクビ: こちらも写真が美しいですね。両方の本に共通している、来し方を振り返りそのお礼をしてから次につなげていくという丁寧な節目の過ごし方は素敵ですね。でも、最近はおせちをつくる人より買う人のほうが多いんでしょうか

栢下: 今回、料理関係の本も見てみたんですが結構少なくて。おせちのつくり方に関する本はだんだん少なくなってきているみたいですね。買ってきたおせちですませる人も、こういった本でおせちづくりの過程を楽しめるといいですね

山口: おせちは、もともとはお正月に火を使わないための料理らしいんです。松の内は、かまどを休ませて禊(みそぎ)をする。7日に食べる七草粥で初めて火を入れて一年を再スタートさせる、お正月はリセット期間でもあるわけです

正月のきた道

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山口: 『正月のきた道』というこの本は、そういった日本の正月の文化を中国の文化と比較しながらわかりやすく書いた本です。若水の意味とか・・・

アクビ: "若水"ってなんですか?

山口: あ、知らないのね!お正月一番に汲む水です。この水を使ってたてるお茶は"大福茶"と呼ばれたりするんですよ。奈良の二月堂のお水取りはたいまつを焚いて盛大に行われることで有名です。一方で中国では、「元旦地を掃かず、水を汲まず、火を乞はず(『歳時通考』)」とあるなど、水も汲まない。国によって、日本国内でも地方によって違いますよね

『「まつり」の食文化』は、年中行事と食の視点から、日本の文化を読み解く本です。お正月以外の年中行事についても書かれていますが、第一章はテーマを「正月と盆」とされていて、これさえ読めばお正月の食についてかなり詳しくなれると思います。西と東の言葉の違いや、年中行事のやり方の違いについて書かれているのも面白いですね

アクビ: おせちひとつとっても一品一品に縁起かつぎや由来がありますが、おせちをつくる家庭が減って、そういった"いわれ"について話す機会が少なくなっているのかもしれませんね。私は、おせちをつくっている時に母からそういった"いわれ"について教えてもらった覚えがあります。でも、"若水"を知りませんでしたし

山口: "おせち"でひとつの食べ物と分類されている部分がありますが、こういった本を読むとそうじゃないってことがよくわかりますよね。若い家庭だと、お母さんがあまり知らないのかもしれません。こういう本でお正月のルーツを知って、そこから身近な食に立ち戻ってみるのもいいですね

栢下: 「おせちもいいけどカレーもね」なんて広告もありましたが、やっぱりおせちに代わるものってなかなかないですよね。家でおせちをつくらなくても、帰郷できなくても、こういった本を読みながら自分のルーツにある正月の味を楽しめるといいですね

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