東北地方太平洋沖地震、津波、そして原発事故。東日本は今、歴史上まれにみる艱難辛苦にさらされています。まずは被災者が安心して暮らせるようになり、原発が安定的に停止することが先決ですが、東京に暮らす私たち自身も自分の身を守らなければなりません。
いま何といっても不安なのは放射能です。大気、野菜、水道水、海から基準値の数倍から数千倍という放射性物質が見つかり、本当に安全なのか、子どもたちは大丈夫なのか、西日本へ逃げるべきではないのか、という不安を皆さんが抱えていると思います。
わたしは専門家ではありませんが、これだけ知っておけば、ある程度のことは自分で判断できる、という程度に放射能について調べてみました。これをもとにご自分で調べて安心できればいいですし、どうしても不安なら対策を考えるべきでしょう。突き放すようではありますが、これはあくまでも「自分の身を守るため」の情報です。私が「あなたの身を守る」ことはできないのです。
* この内容は、編集部からの情報提供として記事化しました。今回の記事内容以外にも、さまざまな方法がありますので、お勧め情報などあれば、ぜひ編集部までお寄せください
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ニュースを見ていると、「放射能」とか、「放射線」とか「放射性物質」という言葉が出てきます。これらは一体何かというと、「放射性物質」が出すものが「放射線」で、その能力を「放射能」といいます。問題となるのは、放射線で、放射線が人間の細胞を傷つけ、癌などを発生させる恐れがあるわけです。
ニュースでよく聞かれるベクレルは放射能の単位、シーベルトは放射線の影響度の単位です。人間への影響を直接的に表すのはシーベルトのほうで、ベクレルの場合は、放射性物質の種類や被爆の形態(手で触れた、飲み込んだ、吸い込んだなど)の違いによってシーベルトの値が変わってくるのです。
アルファ線やベータ線という言葉もよく出てきます。これは放射線の種類で、物質によって放出される放射線の種類が異なり、ヨウ素131はベータ線を、セシウム137はガンマ線を、プルトニウムやウランはアルファ線を出します。
その違いは透過力、つまり放射線が影響を与える範囲にあります。アルファ線は透過力が弱く、紙でもさえぎることができ、その影響は近い場所だけにとどまります。ベータ線は薄い金属で止まる程度の透過力を持ち、ガンマ線は鉛や熱い鉄の板でないと止めることができない高い透過力を持ちます。
最初に、東京ではまずあり得ないことですが一度に大量の放射線を浴びた場合について説明しておきましょう。放射線を大量に浴びると骨髄の細胞が破壊され免疫不全や出血により死亡します。50%の人が死亡する放射線量は医療が期待できない場合には約2.5Gy*(グレイ)、十分な医療が可能な場合には5Gy以上と言われています。
放射線影響研究所
また、新しい単位が出てきましたが、Gy(グレイ)は放射線の吸収されるエネルギーの総量(吸収線量という)を表します。これに対してSv(シーベルト)は放射線の影響度を表します。GyとSvの関係は、放射線の種類によって異なり、アルファ線は1GY=20Sv、ベータ線とガンマ線は1Gy=1Svです。
続いて現実的な健康被害について考えましょう。 主に原爆による被曝者の調査を行う放射線影響研究所によると、被ばく線量と発がんリスクの関係は以下のようになっています。
被ばく線量 | 白血病以外のがんリスクの増加率 | 白血病リスクの増加率 |
---|---|---|
5~100mSv | 1.8% | 6% |
100~200mSv | 7.6% | 36% |
200~500mSv | 15.7% | 37% |
0.5~1Sv | 29.5% | 63% |
1~2Sv | 44.2% | 72% |
2Sv以上 | 61.0% | 100% |
線量とリスクの関係はほぼ線形で、明らかなしきい値(それ以下の線量では影響が見られない線量のこと)は観察されていない。つまり、5mSv以下でも影響がないとはいえないけれど、少なければ少ないほどリスクは小さいということになります。このデータは一度にそれだけの放射線を浴びた場合で、少しずつ浴びた場合は影響が少なくなるという議論もあり具体的にどこに基準を置くかは難しいところですが、国際放射線防護委員会では、職業被ばく限度を5年間で100mSv、1年間で50mSvと定めています。
これに対して国が定める基準値は年間1mSvです。その根拠はよく分かりませんが、1mSvを50年浴び続ければ50mSvとなるので、これ以下なら確実に安全だという基準なのかもしれません。
どれくらいまで安全と考えるかは、個々の年齢や状況によって変わってきます。しかも、今の事態がどれくらい続くかも分かりません。すぐ収束するなら今年1年で50mSvくらいの放射線を浴びても大丈夫そうですが、3年、5年と続くとしたら、1年で10mSvくらいには抑えたいとわたしなら考えます。もちろん基準値の1mSvを越えたらやばいんじゃないかと考える人もいると思います。まずリスクを知った上で、それぞれの判断で基準を設定してみるといいかもしれません。
このような分析をもとに公表されているデータから現在問題になっている大気や水や食料の放射線について検証していきましょう。
新宿で計測されている線量によれば、4/12はだいたい0.082µSv/hでした。値は毎日変動しますが、高いときで0.12µSv/h、低いときで0.04µSv/hですので、平均0.08µSv/hと考えると、1日で約2µSvとなります。1ヶ月だと、60µSvですね。1年だと730µSvつまり0.73mSvです。
水道水に含まれるヨウ素131が暫定基準値の300Bq/Lを越えたとしてニュースになりましたが、これはどのくらいの値なのでしょうか。BqとSvの換算ツールを使って計算すると、ヨウ素131が300Bq/Lの場合、被ばく線量は6.6µSv/Lとなります。この水を毎日2Lずつ飲むと仮定すると、1年間では約4.8mSvとなります。4月11日の東京都の上水道では、0.71Bq/Lですので、0.0156µSv/Lとなります。この水を毎日2Lずつ飲むと1年間では約10µSvとなります。
ホウレンソウから15000Bq/kgのヨウ素131が検出されたことがニュースになり、日々その値は更新されていますが、そのような野菜は市場には出回らないはずなので、考える必要はありません。わたしたちが口にする可能性があるのは暫定基準値以下の野菜です。ほうれん草の場合、ヨウ素131の暫定基準値は2000Bq/kgです。これをシーベルトに換算すると、44µSv/kgとなります。
日本人の野菜の1年あたりの消費量は約95kgということです。仮にこの95kgすべてが暫定基準値ぎりぎりの野菜だとすると、年間約4.2mSvの被ばく量となります。
先日、イカナゴから放射性セシウムが検出されました。セシウムの基準値は500Bq/kgとされています。これをシーベルトに換算すると、6.5µSv/kgです。
日本人の魚介類の消費量は約34.4kgということです。このすべてが暫定基準値ぎりぎりだとすると(ありえませんが)、年間223µSvとなります。
牛乳の基準値はヨウ素が300Bq/kg、セシウムが200Bq/kgです。これも同様に計算すると、年間510µSvとなります。
実際に流通しているものは、この暫定基準値を大きく下回っているものがほとんどです。設定された基準値から考えるとこれくらいの値になるということを参考に、何が大丈夫で何を避けるべきか、冷静に判断してください。
水道水や食べ物にヨウ素131が含まれているというニュースで乳幼児への影響が大きく取り上げられました。子どもを持つ方は不安も大きいと思います。
そもそもヨウ素は人間が必要とする栄養素の一つで、甲状腺ホルモンを合成するのに必要な物質です。放射性ヨウ素は普通のヨウ素(安定ヨウ素)の代わりに甲状腺に取り込まれると、ベータ線を発し、細胞を破壊してがんを発症すると考えられています。子どもは大人に比べてこの甲状腺の活動が活発なため、甲状腺がんのリスクが高いと考えられています(チェルノブイリ事故後の調査が根拠となっているものが多い)。
そのことからヨウ素131を含む水や食べ物を子どもに与えるのは控えるべきだということなのです。これについてはどれくらい摂取するとどれくらいの影響が出るのかというデータはないので、なるべく取らせないと考えるほかありません。
ただし、ヨウ素131は半減期が8日と短い物質でもあります。放射性物質というのは放射線を出しながら物質自体が崩壊していきます。半減期が8日ということは、崩壊の結果8日で半分になるということです。16日後には4分の1、24日後には8分の1となり、100日後にはほぼ完全に消滅すると考えられます。
つまり、原発からの放射性物質の漏洩が止まれば、ヨウ素131は急速に減っていくということです。
放射性物質も放射線も見えないし臭いもないので、どうしても不安が募ります。そういう時は、手に入れられるデータと情報をしっかりと分析し、実際にどのような影響があり、何に気をつければいいのかを冷静に判断することが何よりも重要です。そして、自分で下した判断ならば人から聞いた情報よりも、信頼ができます。信頼できる判断をもとに行動することから安心が生まれます。
不安を安心に変えるために、わたしが知ろうとなりに分析し、判断したことが役に立てばうれしいです。