2012/06/05
形を見れば、本質が分かる。宇宙で一番大きなカタチ…それは、宇宙の大規模構造と呼ばれる構造。
その形から、いったいどんな事がわかるのでしょうか。
そろそろ梅雨入りも迫る6月。湿度の高い日が増えてきますが、梅雨の中休み、からっと晴れた日の夕方には、ぜひ新丸ビルあるいは丸ビルに上ってみましょう。高層階から西の方角を眺めてみれば、夕闇迫る東京の街を眼下に、富士山の美しい姿を見つけることができるかも知れません。足下でせわしなく行き交う人々の向こうに悠然と構える富士山。絵になります。
富士山は、なぜかくも美しい形をしているのでしょうか。いろいろな答えがあるでしょうが、富士山を形作る溶岩の粘度がちょうど良かった事が物理学的な原因のひとつです。もっとさらさらした溶岩なら噴火する端から流れていってしまったでしょうし、逆にねばねばした溶岩であればごつごつした形になってしまったはずです。その溶岩の質は、日本列島の形成史と深く関係しています。富士山の形は、そういった富士山の物理的性質や歴史を知る手がかりも与えてくれているのです。形から、その背景にある物語を読み解くこと。これは地上でも、宇宙でも同じです。
宇宙でもっとも目立つ、大きなカタチは宇宙の大規模構造と呼ばれるものです。宇宙には無数の銀河がありますが、それらの銀河は単独で浮いているわけではありません。たいていは群れを作って集まっています。その集まりのサイズに応じて銀河群、銀河団、超銀河団などと呼んでいます。それらの銀河の集まりがさらに集まって、何億光年というスケールの巨大な泡構造を形作っており、それを宇宙の大規模構造と呼んでいます。
いったいどのような物理が、その形の背景に隠れているのでしょうか。
結論から言ってしまえば、宇宙の大規模構造の形は、ダークマター(暗黒物質)、そしてダークエネルギー(暗黒エネルギー)と呼ばれる未知の物質とエネルギーの存在と深く関わっています。
137億年前に誕生したばかりの宇宙には、まだ星も銀河もありませんでした。宇宙誕生から数億年後に最初の星が生まれ、銀河が生まれ、そして137億年の時が経過して、今の姿になったと考えられています。宇宙の大規模構造も、その137億年の間に形作られてきました。
しかし、スーパーコンピュータを用いて宇宙の歴史を再現してみると、星や銀河を形作っているふつうの物質(元素)だけでは、宇宙の大規模構造を作ることはできないということがわかってきました。ダークマターとダークエネルギーの存在を仮定して計算をしないと、現実に観測されている宇宙の大規模構造の形を再現できないのです。
観測されている宇宙の姿から、その背景に潜む物理を見抜く。これはなにも難しいことではありません。日常でなにげなく目にするものの背景にも、面白い物理が潜んでいるはずです。その思考を宇宙の極限にまで拡大した時に、ダークマターやダークエネルギーが見えてくるのです。日々の通勤の行き帰りで目にする光景も、ちょっと視点を変えて眺めてみると、新しい発見があるかもしれませんね。
※本コラムは、「まるのうち宇宙塾」5月の講演を参考に執筆しました。1979年広島県広島市生まれ。
東京大学理学部天文学科卒業、東京大学理学系研究科博士課程修了 (理学博士)、国立天文台広報普及員、ハワイ観測所研究員を経て現在に至る。
東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラムを担当。専門分野はIa型超新星を用いた距離測定と天文学コミュニケーション論。