2013/02/05
冬は星空が一番綺麗な季節。ただその美しさを愛でるも良しですが、一歩踏み込んで違った角度から星空を眺めてみませんか?
最近、星空を見上げていますか?日が落ちて空が暗くなった頃に、南東の空高くに爛々と光を放つ星があるのにお気づきの方も多いかもしれません。あの星は、木星です。マイナス3等級の明るさで強烈な光をはなつ木星は、夜空の主役となっています。今晩晴れていたら、ぜひ確認してみて下さい。
この主役の脇を固めるのも、名優揃い。オリオン座のベテルギウスや、おおいぬ座のシリウスなどは知名度も抜群。この二つの星に、こいぬ座のプロキオンも加わって、有名な冬の大三角形となっています。
オリオン座に属する有名"星"は、ベテルギウスだけではありません。右下にいる1等星のリゲルはもちろん、粒の揃った三つ星や、その下に控える小三つ星も、ぴりりと光ります。さらにはおうし座のアルデバラン、ぎょしゃ座のカペラ、ふたご座のカストルとポルックスなど、バラエティに富んだ星たちが、星空を彩っています。
この冬の星空ですが、ほんの少し見方を変えるだけで、異なる星空の見え方をしてきます。例えば、夜空には明るい星と暗い星がありますが、なぜ明るい星と暗い星があるのでしょうか?どうして?そんな事を少し意識するだけで、ぐっと見方が変わってくるのです。
見かけの明るさの違いは、単純には、天体までの距離の違いに関係しています。私たちの住む地球に近い星ほど明るく、遠い星ほど暗くなります。私たちが日常的に経験しているように、同じ明るさの街灯があれば、遠くのものほど暗く見えるのと全く同じ理屈です。
惑星である木星を除いて、冬の星の中でもっとも明るく見えるのはおおいぬ座のシリウスです。明るさはマイナス1等級。このシリウスまでの距離は、8.6光年です。丸の内の夜空に見える星の中では、もっとも太陽系に近い星です。近いから明るい、確かに。
こいぬ座のプロキオンは11光年。やはり近い星のひとつです。ふたご座の兄カストルは50光年、弟ポルックスは34光年、ぎょしゃ座のカペラは43光年、おうし座のアルデバランは67光年と、冬の1等星の多くは太陽系に近い星たちなのです。これらの星々は、近いから明るく見えるのです。
それを知った上で再度星空を眺めてみると、星空には奥行きがある事に気が付くでしょう。手前側に星が散らばっているところがあるかと思えば、そうでないところもある。そのように感じられれば、星空の新しい見方を獲得したと言っても良いでしょう。
もちろん、自然界はそんなに単純ではありません。近いからといって必ずしも明るく見える訳ではありませんし、逆に、遠いからといって必ずしも暗く見える訳でもありません。例えばベテルギウスは500光年、リゲルは860光年と、先に紹介した星々よりも遙かに遠くにあります。それでも明るく見えるのは、元々が非常に明るい星であるから。もしもシリウスやプロキオンといった近くの星々と同じくらいの距離にあれば、マイナス10等級くらいに見えるはずです。科学の眼は、私たちにそのような星空を見せてくれるのです。
星空の楽しみはさまざまです。科学的な知見やものの考え方を星空に適用するのも、楽しみ方のひとつです。この星空の向こう、137億光年先の宇宙の果てまでつながる広大な時空を想像するのは、天文学が多くの事を明らかにした現代に生きる私たちだからこそできる、新しい楽しみ方です。新聞やテレビ、雑誌などで見聞きする天文宇宙のニュースは、この星空のどこの話なのか。そんな事を少し意識してもらえると、星空が一層楽しくなるかもしれません。ぜひ、お試しを。
※本コラムは、「まるのうち宇宙塾」1月の講演を参考に執筆しました。
1979年広島県広島市生まれ。
東京大学理学部天文学科卒業、東京大学理学系研究科博士課程修了 (理学博士)、国立天文台広報普及員、ハワイ観測所研究員を経て現在に至る。
東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラムを担当。専門分野はIa型超新星を用いた距離測定と天文学コミュニケーション論。