シリーズ知恵ブクロウ&生きものハンドブック

まぶしさに負けず

太陽系外惑星の姿を直接撮影することは、とってもたいへんです。特に眩しい恒星の光の影響をどう減らすのかは、工夫が必要です。

ライトに消える人影

皆さんは車の運転、されますか?自分で運転される方、助手席が指定席な方、そもそも車にほとんど乗らないという方、いろいろいらっしゃると思いますが、車の運転でなにが怖いかと言ったら、それはなんといっても雨の日の夜道です。

雨で見づらい視界。向こう側から近づいてくる眩しいライト。濡れた道路に反射して運転手を惑わす光。そんな緊張を強いられる運転の中でも最も怖いのが、道路を横切る人です。対向車のライトの中に隠れてしまうと、自ら光を放たない人間の姿は、さっぱり見えません。危ない!と思った経験がある方も多いのではないでしょうか。

眩しい光のせいで見えないものを見るにはどうしたら良いでしょう。答えは簡単、眩しいライトが直接眼に入らないように隠せば良いのです。対向車のライトだけ手で遮ってあげれば、周囲は見やすくなるはずです。まあ、実際問題、運転しながら対向車のライトだけを隠すのは簡単ではないですが・・・。

天文学の世界でも、同じような悩みがあります。太陽以外の恒星の周囲を回っている惑星、太陽系外惑星を直接撮影しようと思うと、恒星が明るすぎて、暗い惑星をうまく撮影することができないのです。

明るい恒星の光を隠す、コロナグラフ

惑星と恒星はどれくらい明るさが違うのでしょうか。例えば恒星である太陽と、惑星である木星を比較してみましょう。見る光の種類(波長)によっても違うのですが、両者の差が比較的小さい赤外線領域ですら、典型的には100万倍(等級で言えば15等級)程度明るさが違います。もしも宇宙人が遠くから太陽系を観測したら、ふつうに写真を撮っても、太陽が眩しすぎて木星なんかはさっぱり写らないことでしょう。

こういった明るい恒星の影響を減らし、暗い惑星の姿を直接捉えるための方法はいくつかあるのですが、原理的にわかりやすいのが、明るい恒星を隠してしまって、暗い惑星を撮るというやり方です。まさに車のライトを隠すのと同じ方法で、こういった装置を一般的にコロナグラフと呼びます。実際、すばる望遠鏡などでも、この方法を使って明るい恒星からの光を遮り、周囲を回る惑星や円盤構造を写し出すことにも成功しはじめています。

しかし、もっと徹底的に恒星からの光の影響を取り除くには、恒星の姿だけを隠すだけではいけません。光は電磁波と呼ばれる波の一種ですが、それが故に、望遠鏡の開口部分の形(一般的には丸い形)に応じた明暗の縞模様(エアリーパターン)ができます。この縞模様が曲者で、明るい恒星の作るエアリーパターンが暗い惑星の姿をすっかり隠してしまうことがあるのです。

将来の太陽系外惑星の探査では、この縞模様の影響も減らせるようなコロナグラフが必要となります。例えば、次世代赤外線天文衛星SPICAへの搭載を目指して開発が進められているバイナリー瞳形式のコロナグラフもそのひとつ。このような装置が実現することで、さらに多くの惑星の姿を直接とらえることができるようになるでしょう。今後の研究の成果に期待しましょう。

※本コラムは、「本郷宇宙塾」10月の講演を参考に執筆しました。

高梨 直紘
高梨 直紘(たかなし なおひろ)

1979年広島県広島市生まれ。
東京大学理学部天文学科卒業、東京大学理学系研究科博士課程修了 (理学博士)、国立天文台広報普及員、ハワイ観測所研究員を経て現在に至る。
東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラムを担当。専門分野はIa型超新星を用いた距離測定と天文学コミュニケーション論。

天文学普及プロジェクト「天プラ」代表
東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム

おすすめ情報