2014/03/04
私たちの住む銀河系の中心で起こると思われている一大イベントがなかなか起きません。なぜだ?
3月は大学受験も最終盤。街中で受験生の集団を見かけると、その緊張感に懐かしさを覚えます。私も多くの同級生らと一緒に大学を受験しましたが、現役生の時は残念ながら失敗。ああ、やっぱり落ちるんだと妙に納得したのを覚えています。
友人連中を見渡すと、ふだんから出来る人でも、順当に合格した人がいるかと思えば、なぜか落ちてしまった人もいて、一発勝負の受験の難しさを感じたものです。入学試験では、その人の良いところを全て評価できるわけではないので、当然と言えば当然です。ですから、逆に落ちると思っていた友人でも、一発勝負にしっかり勝ってしまう人も出てくるのです。落ちると思っていたのに、落ちない。なぜだ?
実はいま、私たちの住んでいる銀河系でも、この「落ちそうなのに、落ちない」というのが話題を呼んでいます(おお、無理矢理)。どこに落ちそうなのか。それは、銀河系の中心に隠れている巨大なブラックホールにです。銀河系の中心には、太陽の重さのおよそ400万倍の質量を持ったブラックホールがあることが、さまざまな観測的な証拠からわかっています。もちろん、ブラックホール自身は見ることは出来ないのですが、そのまわりには、ブラックホールの重力によって捉えられてしまった、周囲を運動する星々が観測されています。これらの天体のひとつに、ブラックホールに落ちそうなくらい近くを通過するものがあることがわかったのです。
この発表がされたのは、2011年のこと。近赤外線という特殊な電磁波を使ってこの領域を観測していた研究者らが、ブラックホールの近くにあるガスの塊のひとつが、このまま行くとブラックホールのごく近くを通過する可能性があることに気がついたのです。"G2"と名付けられてたこのガスの塊は、2013年の夏頃にブラックホールに最接近すると予想されました。
ガスがブラックホールに近づくとなにが起こるのか。例えば、ガスの塊がブラックホールに近づく際の潮汐作用によって薄く引き延ばされ、その結果として明るく輝く可能性が指摘されています。ブラックホールから吹き出していると思われるジェットに、G2がぶつかって輝く可能性もあります。ブラックホールまわりには、小さな恒星質量サイズのブラックホールがたくさんある可能性も指摘されており、そういった小さなブラックホールとG2の衝突があるかもしれません。一番面白そうなのは、G2の一部がブラックホールに落ちる可能性です。ブラックホールに落ちる際にはガスが明るく輝くと考えられていますので、その瞬間を観測できるかもしれません。
このようにいろいろな予測があって、みんなわくわくしていたのですが、思い通りに進まないのが自然相手の研究の面白さ。最接近が予想された2013年の夏以降、いまだにぱっとした変化が見られないのです。いったいなぜなのか。確かにG2はブラックホールの近くを通過している兆候が見られるのですが…。もっとも、この後もG2に続いていくつかのガスの塊が接近すると考えられていますので、数年以内にはなにかが起こるのだと思うのですが、どうもすっきりしない。うーむ。この落ちそうで落ちない問題から、どのような新しい事がわかるのか、引き続き注目しましょう。
1979年広島県広島市生まれ。
東京大学理学部天文学科卒業、東京大学理学系研究科博士課程修了 (理学博士)、国立天文台広報普及員、ハワイ観測所研究員を経て現在に至る。
東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラムを担当。専門分野はIa型超新星を用いた距離測定と天文学コミュニケーション論。