2014/05/20
銀河と、銀河の中心にあるブラックホールの間には、どうも関係があるらしい。それはいったいどんな関係なのか、その不思議を読み解きます。
みなさん、海外旅行はお好きですか?私はけっこう好きなんですが、海外に行ったときにはたいてい、まずその国の首都を探検します。観光地も悪くはないですが、地元の人の日常がわかるようなところに、例えば市場やスーパーみたいなところに紛れ込むのがなんといっても楽しいものです。限られた時間の中で、できるだけその国のエッセンスに触れるためには、首都はとても良い訪問先。首都はその国全体の縮図とも言えるからです。
それと同じような構図にあるのが、巨大ブラックホールと銀河の関係です(細かいことは気にせず読みましょう)。この宇宙には無数の銀河がありますが、まっとうな銀河には必ず巨大なブラックホールがその中心に鎮座しているらしいことが、最近明らかになってきました。ここで巨大と呼んでいるのは、太陽の重さの数百万〜数十億倍もあるような、非常に重いブラックホールのことを指します。そして、不思議なことにその銀河の中心にある巨大ブラックホールの重さと、銀河全体の重さには綺麗な相関関係があることがわかってきたのです。おお、すごい不思議。
ふーん、それでいったいそのどこが不思議なの?と思った方も多いんじゃないでしょうか。そこで、私たちの住む銀河系を例に考えてみましょう。もし銀河系の大きさが地球程度だったとした時に、銀河系の中心にある巨大ブラックホールの大きさ(シュヴァルツシルト半径)は、だいたい0.1ミリメートル程度になります。銀河系中心の巨大ブラックホールは太陽の400万倍の質量があるのですが、ブラックホールとしての大きさはそんなものなのです。地球スケールのものに対して、0.1ミリのものが影響を与えるなんてことは、ふつうは考えられません。しかし、そのありえないことが宇宙では、実際に起きているのです。
上の図は、さまざまな銀河の質量と、その銀河の中心にある巨大ブラックホールの質量の関係をグラフにしたものです。重い銀河ほど重いブラックホールを持っているという、シンプルな関係にあるのがわかります。このグラフの傾きが意味するのは、ブラックホールの質量は常に銀河の質量の1000分の1になる、ということです。まったく関係のない別々の銀河を集めてきても常にそういう関係が成り立つためには、そこになんらかの共通する仕掛けがないといけません。いったいどういう仕掛けがあるのでしょうか?
いま考えられているシナリオはこうです。星はガスから作られますが、ガスがたくさんある銀河では、星がたくさん生まれると同時に中心のブラックホールもどんどんガスを吸い込んで成長します。しかし、ブラックホールがガスを吸い込む時に発生する巨大なエネルギーの一部が、なんらかのメカニズムによって銀河の中にあるガスを散逸させるように働きます。
ガスが銀河から少なくなるとブラックホールの活動も休止し、星の誕生も止まります。なんらかの理由でふたたびガスが増えると、ブラックホールの活動も星の誕生も再開し、再び銀河とブラックホールの成長が始まる、と考えるのです。
このような負のフィードバック機構が本当に存在するのかどうか、そこにはどんな物理プロセスが存在するのか等については、まだ確定的なことはわかっておらず、最先端の研究課題のひとつになっています。今後の研究の進展に期待しましょう!
※本コラムは、「本郷宇宙塾」4月の講演を参考に執筆しました。
1979年広島県広島市生まれ。
東京大学理学部天文学科卒業、東京大学理学系研究科博士課程修了 (理学博士)、国立天文台広報普及員、ハワイ観測所研究員を経て現在に至る。
東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラムを担当。専門分野はIa型超新星を用いた距離測定と天文学コミュニケーション論。