2014/08/27
なにが効いているのか、わかりそうでわからない星形成率。その謎を探る研究が進められています。
なぜ日本の少子化は止まらないのか。これは、日本社会の持続性を前提とするならば、由々しき問題です。ひとりの女性が一生の間に産む子どもの平均数を示す合計特殊出生率は、日本においては2013年時点で1.43。世界的に見ても低い水準で推移しています。このままでは日本の人口がどんどん減り、そのうちマイナスになってしまうのではないか…というくらいの過激な論調を見かけますが、それもそれでなんだかなぁ。
さて、少子化の原因を探ることは簡単ではありません。大雑把には、「子育てのトータルコストの上昇や、価値観の変容が関係しているんだろうなぁ」くらいでしたら誰にでも想像がつきますが、これでは対策も大雑把になりがちです。現状を精緻に分析し、どこにどんな要因があるかを洗い出し、インパクトの大きなものから対策を打っていくというのが、一般的な方法論でしょう。でも、人間社会はそんな簡単に分析できるようなものではないのもまた事実。だからこそ、知恵を出し合って課題に立ち向かわねばなりません。 そんな人間社会に比べれば、宇宙なんて単純なもののように感じがち。要素も少ないし、基本的にみんなルール通りに動いてくれるし、簡単に分析できそうな感じがしてしまうのですが、やっぱりそんなに甘くはありません。わかりそうで、さっぱりわからないことだらけです。その最たるもののひとつが、星形成率の謎でしょう。
星形成率とは、単純に言えば、年間何個の星が生まれるかを表したもの。例えば銀河の星形成率と言えば、ひとつの銀河あたりで年間何個の星が生まれるかを意味しています。人間で例えるならば、合計特殊出生率のようなもの。おお、話がつながった。
星はいったいどういう条件の下でたくさん生まれてくるのでしょうか。単純には、星を作る材料である水素のガスがたくさんあれば、星はたくさん生まれてきそうです。これについては、1959年にシュミット博士が「ガスの密度が関係してるんじゃない?」と主張され、1998年にはケニカット博士が「観測したら、星形成率はガス密度の1.4乗に比例してました!」と報告され、この考えは正しいことが示されています(シュミット-ケニカット則と呼ばれています)。
しかし、これが成り立つのは銀河全体という大きなスケールでの話。銀河の中をより小さなスケールに分けて同じように星形成率とガス密度の関係を調べていくと、実は両者の間にはほとんど相関関係がないことがわかってきました。日本全体では成り立つことも、各市町村スケールで見れば成り立っていなかったということです。では、いったいなにが星形成率に効いているのでしょうか?それを知るためには、市町村スケールでじっくり調べてあげる必要があります。
幸いな事に、近年のさまざまな観測装置、特に電波天文学の発展により、銀河のじっくりした観測が可能になってきました。日本の研究グループが年齢、星間塵の量、星間輻射、高密度ガスの割合の4つに目星をつけてM33と呼ばれる銀河を調査したところ、それらの中でも、星形成率と星間輻射、星間塵の間に一定の関係があることがわかってきました。これは、世界で初めての発見です。ここに見つけ出したルールが、はたして他の銀河でも成り立つのかどうかは、まだわかりません。しかし、星形成率の謎に一歩迫れたことは間違いないでしょう。今後の研究に期待しましょう。
※本コラムは、「本郷宇宙塾」7月の講演を参考に執筆しました。
1979年広島県広島市生まれ。
東京大学理学部天文学科卒業、東京大学理学系研究科博士課程修了 (理学博士)、国立天文台広報普及員、ハワイ観測所研究員を経て現在に至る。
東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラムを担当。専門分野はIa型超新星を用いた距離測定と天文学コミュニケーション論。