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【環境コミュニケーションの現場】 大人が学ぶ自然との共生-小岩井農場「エコファーミングスクール」

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プレミアムツアー(バスツアー)の様子

企業・団体のCSRとその広報活動の姿を訪ねる【環境コミュニケーションの現場】。第6回は小岩井農場の「エコファーミングスクール」の取り組みを紹介します。
2010年3月から始まったエコファーミングスクールは、(1) 農場の歴史や事業から「本物の農場」を体感できる『バスツアー』、(2) 6つのテーマから座学とフィールド学習を通してより本格的に農場を知ることができる『大人の学舎』、(3) 月ごとにテーマを変えて農場らしさを満喫できる『エコファーミングツアー』、(4) 季節によってダイナミックに変化する農場の自然を感じることができる『スペシャルウォーク』の4本の柱で構成されています。農場の歴史や事業、そして自然を紹介しながら、体験型の学ぶ場をつくり、社会との新しい関係をつくり出そうという試みです。小岩井農場まきば園企画マネージャーの濱戸祥平さんに話をうかがいました。
* 小岩井農場は、東京丸の内に本社がある、小岩井農牧株式会社が運営している農場です。

日本最古の農場で自然との関係を学ぶ

―「エコファーミングスクール」を始めた目的を教えてください。感心が高まっている「エコツーリズム」の一つと考えればよろしいのでしょうか。
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小岩井農場まきば園企画マネージャーの濱戸祥平さん

濱戸:小岩井農場は、もともとは何もなかった不毛の原野に、農林畜産業という産業を興したことで、新たに生み、育んだ自然とともにあります。ここでは人間(小岩井農場の事業)と自然が共生をしています。エコファーミングスクールは、その名の通り「環境保全・持続型・循環型」の農林畜産業を営むことでつくられた自然であっても豊かな生態系を築くことができること、そして近年失われつつある生物の多様性を実感していただくことを目的としてスタートしました。

エコツーリズムはもとからある自然を慈しみ、保全することで、環境を意識しようとするものが一般的ですから、少し考えかたは異なると思います。

小岩井農場エコファーミングスクール

―「大人の学舎」と銘うたれているプログラムは、単なる農場見学ではなく、かなり専門的な内容のようですが。

濱戸: これまでの小岩井農場は、ほかの農場や牧場と同様、見学者に見ていただく施設は「小岩井農場まきば園」だけで、生産事業施設エリアと完全に分けていました。そのため「子どもや孫を連れて遊びに行く場所」あるいは「乳製品」というイメージでしかなく、大人にとっては魅力に乏しい場所でした。私たちは大人の方にもっと本物の小岩井農場を知っていただきたかった。そこで見学できるエリアを農場全域に拡大して、小岩井の「環境保全・持続型・循環型」の事業運営を見て、学んでいただくプログラムを2010年3月からスタートしたというわけです。
誰でも気軽にグリーンシーズン(4月下旬から11月初旬)中いつでも参加できる「バスツアー(プレミアムツアー&ヒストリアバスツアー)」から、内容の濃い「大人の学舎」まで、参加される方の興味・関心に合わせたプログラムを用意しています。はじめは自然やエコロジーに関心を持つ首都圏や仙台など近県の活動的なシニア層の方の参加が多かったのですが、今では近畿地方や中国地方からなど全国のさまざまな世代の方がこれらのプログラムにご参加くださっています。

新しいコミュニケーションが生まれる

―参加された方とは、どのようなコミュニケーションを図っているのですか
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「大人の学舎」のフィールドワーク

濱戸: プログラムは参加しやすいものから内容の濃いものまで幅を設けていますので、何度もお見えになる方が多くいらっしゃいます。そんなリピーターの方のために、ポイント制度を新設しました。参加の都度、ポイントがたまり、当社の商品券と交換できる制度です。小さな工夫を重ね、コミュニケーションを広げていきたいと考えています。
また「大人の学舎」は毎月1回開催の6回コースですが、昨年すべてに参加された方が、閉講式でうっすらと目に涙をため、「もっと魅力を知りたくなりました。来年から何かボランティアでガイドの仕事をさせていただけないでしょうか」と話されたのです。私も胸がいっぱいになりました。もちろんその方にガイドをお願いしました。そして今、7名の方がボランティアガイドとして登録していただいています。年齢、性別、職業はさまざまで、定年後の人生の楽しみとして参加されている方もいれば、現役の林業家もいます。

―小岩井農場のPRにも大きな役割を占めているようですね。

濱戸: 「新しい小岩井の企画」として関心を集めています。とくに、近隣の宿泊地(温泉地)や、観光協会や、経済研究所などからは新しい顧客の獲得につながると期待が集まっています。宿泊地との連動を視野に入れ、多くのプログラムを半日コースで設定しているため、近郊施設とのタイアップも生まれようとしています。これからは、より広域的な事業として展望が開けるかもしれません。また、社内でも、まきば園だけでなく、これまで陰にかくれていた部門にも光をあてられるようになったと好評です。本物の農場の姿を紹介することができるようになりました。

自然学習を通じて、都市と農業がつながる

―小岩井農場のCSR活動とはどのように関連づけられていますか。

濱戸: 乳製品をはじめ、農場産品を知っていただく機会につながっています。当社の食材づくりの理念「安全・安心・素性明らかプラス質の高さ」を実感していただく良い機会になっています。
2011年の春先に東日本大震災が起こりました。ちょうど「ザゼンソウ」や「ミズバショウ」がこれから咲き誇ろうという、早春のウォーキングにはもってこいの時期だったのですが、参加者の数は前年を大きく下回りました。心にゆとりがなかったということなのでしょう。しかし私たちはこのような時世だからこそ、環境やエネルギーを自分の目で見て考えていただく良い素材だと考えています。そして参加することで「心の安らぎ」を得ていただきたい。エコファーミングスクールを通して、人に元気と安らぎを与えることはCSRの一つだと考えています。

―今後のどのように育てていきたいとお考えですか。

濱戸: これまでのプログラムは主として大人向けのものでした。しかし、アレンジを施した子ども向け、教育プログラムの評判が良いことに加えて、「自然と人間との関係」や「本物を見抜く力」は子どもたちにぜひ関心を持ってほしいテーマです。そのために、今年は「キッズ版エコファーミングスクール」にも取り組んでいます。同時に年齢層に応じたプログラムの開発にも力を入れ、すべての年齢層に楽しんでいただける企画にしたいです。

―大手町、丸の内、有楽町という大丸有地区の人が多く訪れれば、岩手と東京の連携の一例になりますね。

濱戸: 都会で暮らす東京の皆さんに、小岩井農場が120年かけて創造してきた自然の素晴らしさを知っていただき、「人間と自然の関係」や「本物とは何か」を考えるきっかけを提供したいと考えています。大丸有、東京、そして全国の皆さん、ぜひ小岩井農場にいらしてください。そしてエコファーミングスクールに参加して、さまざまな交流を多くの皆さんと深めていただきたいと思います。

小岩井農場
小岩井農場へのアクセス

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左)小岩井農場の一本桜、右)明治時代から続く上丸牛舎と岩手山

小岩井農場について

小岩井農場は1891年につくられた農場です。岩手県の岩手山の山麓に約3,000haの日本最大規模の農場を経営し、そこで酪農、山林、種鶏、緑化、観光、研究などの事業を展開しています。関連会社の小岩井乳業によって販売される「小岩井」ブランドの食料品は全国で親しまれています。
東京・千代田区の丸の内ビルディングには、小岩井農場の直営レストランである小岩井フレミナールがあります。また東京駅内には小岩井農場エキュート東京店が産地直送の製品を売っています。大丸有とも、商品を通じてつながっています。

小岩井乳業
小岩井フレミナール

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