夏場のピークがすぎたとはいえ、電力需給は予断を許さない状況が続いています。大震災を機に、企業のみならず一般家庭においても、ふだんからの節電への関心が高まるなか、NTT東日本の「フレッツ・ミルエネ」が注目を集めています。【環境コミュニケーションの現場】第21回は、ICTの利活用で環境負荷低減を目指すNTT東日本の取り組みをご紹介。消費電力の「見える化」で家庭の節電対策として期待がふくらむ、「フレッツ・ミルエネ」について、ブロードバンドサービス部アライアンス担当の幡生(はたぶ)祐介さんにお話をうかがいました。
情報通信サービス、機器の開発、提供を通じて、社会全体の環境負荷の低減に取り組む一環として、パソコンと家電製品や家屋設備を通信でつなぎ、便利で快適な暮らしの実現に向けた「ホームICT」として、電気に限らず、水道、ガスの「見える化」、さらには「コントロール化」までを含めたサービスを開発していました。ところが東日本大震災の影響で、電力不足が社会的な喫緊な課題となり、ご家庭内においても、より効果的な節電体制が求められるなか、電力の「見える化」を切り出し、2011年7月よりトライアル・サービスを経て、2012年1月25 日から「フレッツ・ミルエネ」として、本サービスを開始しました。
FLET'S ミルエネ
このサービスは、あくまでも電力の使用状況を可視化するもので、直接節電するものではありません。電気の利用状況を「見える化」し、効率よく節電するアクションにつなげるためのものです。トライアルでは、ひと目で電力の利用量を知ることで、それまで気がつかなかったムダが見えてきたというお声を多くいただきました。具体的には、電気の使用量のピークを確認することで、その時間の生活行動を振り返ることができます。その時間、別々の部屋で、クーラーをつけながら同じテレビ番組をみたのなら、これからは一つの部屋で行えば、より有効な節電につながります。そのような「次のアクションにつなげやすい」というご評価をいただいています。
また、炊飯器は朝に夜の分までまとめ炊きし、夜は電子レンジで解凍した方が電気の負荷が少ないことに気づかれ実践されているお客さまもいます。節電・節約という堅苦しい観点からだけではなく、夜中に洗濯機をまわしたり、サーバーの長時間の使用を控えたりと、生活の習慣やリズムを少しずつ見直しながら「楽しく」「無理なく」お使いいただいているようです。
これまでは待機電源を落とし、ムダな電気を消すのが主なご家庭の節電方法でした。しかもその効果は月一回の電気料金の支払時に、ようやく実感できるものでした。このサービスでは、電気利用量をリアルタイムにアウトプットすることで、ストレスなく節電できたり、生活習慣を見直せるのが特長です。過剰に電気を消したり、無理してエアコンを切ったりする肩に力の入った節電はなかなか長続きしません。「フレッツ・ミルエネ」では、お客さまが「これくらいなら大丈夫」という範囲で効率的に節電をされているようです。
お客さまのなかには、15〜20%減の節電効果が出ている方もいますし、中には30%の節電に成功したという方もいます。総務省の統計では、2人以上世帯の1ヵ月電気料金は9,000円から1万円ほどで、50アンペア(東京電力の場合1,365円)の契約固定料金を除いた変動分はおよそ7,500円です。その15〜20%ですと、1,200〜1,500円の節約になります。
継続的にお使いいただくために、同じ地域にお住まいの家族構成が似たお宅と消費電力を競い合う「ランキング表示機能」や目標消費電力量を設定し、進捗度合いを確認できる「目標設定機能」、「エコ・アドバイス」を発信する機能などもついています。サービス料金を支払いながら行う「節電・節約」に違和感をお持ちの方も少なくないと思いますが、その対価として「楽しい」「よくわかる」「行動にうつせる」などの付加価値も得られることがポイントだと考えていす。
さらには、このサービスをご活用されているお客さまのなかには、節電効果とともに、「エアコンをムダ使いしないように家族が同じ空間にいることで会話が生まれた」、「節電について話しあうことでコミュニケーションが深まった」という声もあります。ご質問フォームでお問い合わせをいただく方は、家計のお財布を握る主婦の方よりも圧倒的に男性の方が多いことからも、消費電力に関心の薄かった層にも、関心をもってもらえるきっかけになっていることがうかがえます。さらには、ご夫婦やご家族の会話のなかで「節電・節約」が、ご家族の団らんを盛り上げるツールになっている場合もあるようです。
その一方、個々の家電製品の消費電力を計測する電源タップは、広いリビングのエアコン用の200ボルトコンセントには対応できておらず、そのリクエストも強くいただいています。また、「エコ・アドバイス」についても一般的な節電の知恵を授けるだけにとどまらず、ユーザーのご利用状況に応じたアドバイスがほしい、などのご意見も頂戴しました。
「フレッツ・ミルエネ」は月額利用料のほかに、無線親機と分電盤計測器のレンタル料がかかります。そのほかに「フレッツ光」やプロバイダーサービスの月額利用料を加えた金額も必要ですが、HEMS(家庭向けエネルギー管理システム)の主流である、ガスや水道の利用量や太陽光発電の発電量などのフルパッケージと比較すると、レンタルというスキームを活用したこと、送電される電力の利用状況の「見える化」だけに特化したことで、安価に導入することが可能になりました。また、節電エコ補助金を活用することで、導入費が最小限にできます。
また手軽に使えることも特長で、利用条件はフレッツ光ユーザーであることのみ。機器の取り付けについては、30分程度の作業でご自身で設置できます。20〜70代までの幅広い世代にトライアルにご参加いただきましたが、約9割のお客さまご自身が設置作業を行っています。ちなみに、ホームページでは取り付けガイド映像を公開中です。
経済産業省のHEMS補助金(節電エコ補助金)対象に6月に認定されたこともあり、電力の「見える化」だけにとどまらず、スマートハウス向け通信規格「ECHONET Lite」に基づく、家電製品の「制御化」の開発も進めてまいります。
* HEMS補助金は、利用者ご自身で、環境共創イニシアチブに申請していただく必要があります。
一般社団法人環境共創イニシアチブ(SII)
また、これまでの計測器では60アンペア用でしたが、オール電化の家は対応できないケースもあり、120アンペアまで拡張しました。その結果、家庭だけでなく、SOHOや中小企業、マンション兼事務所までカバーすることが可能になりました。ギリギリまで節電し、「これ以上はムリ」というところまで節電している大企業や大規模ビルとは異なり、節電・節約に取り組める余地のある、家庭や中小企業、SOHOの省エネ化が、今後は重要なキーワードになってくることでしょう。お客さまのニーズが潜在的にあると考えており、このサービスを使っていただけるような仕組みを考えています。
さらには、弊社のサービスが、お客さまのアクションを導き出すことによって低炭素社会が実現できる可能性が広がったということは、非常に重要なことだと思います。お客さまの「無意識」だった部分を、「意識化」していただくことで、それが結果として環境負荷の低減につながる。そうしてお客さまとの協働によって、生み出される節電・省エネの事業は、今後、不可欠なものになると考えています。私たちとしても、ICT技術を活用した多彩な機能をご用意して、だれもが楽しめながら、結果的に環境活動つながるサービスを展開していくつもりです。
NTT東日本の環境活動