大林組がメガソーラーの導入を決めた、京都府の久御山物流センター
大林組がメガソーラーの導入を決めた、京都府の久御山物流センター
東日本大震災の影響で、昨年は日本全体が節電ムードに覆われた。2012年も、冷暖房や生産活動に必要な電力供給量に不安を抱えた状況が続いている。こうしたなか、電力会社からの送電に頼るのではなく、自社の工場や倉庫、オフィスビルなどに太陽光やバイオマスによる発電設備を設置して、自社で発電を行う企業が増えている。自治体と協力して飲料工場に大規模な発電設備を建設し、売電まで行っている企業や、駅をまるごとエコ化する鉄道事業者の新たな試みが注目されている。また、地域全体で電気や熱を有効活用しようという取り組みも。エネルギーを自らつくり出し、自社や地域で活用する「エネルギーの地産地消」に挑戦する企業を取材した。
自社のオフィスや工場で使う電力を賄うために、太陽光パネルを屋上や外壁、敷地内などに設置する企業が増えている。その多くは数十~数百kWほどの規模だが、大林組は2011年、2012年6月に京都府で竣工する自社物流倉庫の屋根に、約1,000kWの大規模太陽光発電(メガソーラー)を設置すると発表して話題を呼んだ。大手建設会社としては初めての試みだ。約1万3,000㎡ある倉庫の屋根全面をフルに使い、約4,000枚の太陽光パネルを敷きつめた。年間に約100万kWhの電力を発電することが可能だ。
なぜ建設会社がメガソーラーの設置に踏み切ったのか。同社技術本部ビジネス・イノベーション室の入矢桂史郎室長は、その理由を次のように話す。「当社では2012年にスタートする中期経営計画の中で、基幹事業である国内建設・開発事業の収益力を維持・強化するとともに、新たな事業領域への進出による「収益基盤の多様化」を掲げています。新収益分野への進出を図る第一弾として、太陽光発電に取り組むことにしました」。
また、2012年7月にスタートする再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)も、同社が発電事業に注力する大きなきっかけとなったという。太陽光や風力などの再生可能エネルギーでつくった電力を、電力会社が一定期間、すべて固定価格で買い取るFITの制度化により、再生可能エネルギーの普及がこれまでのような補助頼みではなく、事業ベースで進むと判断したのだ。
大林組による再生可能エネルギー関連の取り組みは、太陽光だけではない。北海道の稚内市で、同社が加わるPFI事業で建設中のバイオマス施設が、今年中にも竣工する。「市内の家庭から集めた生ごみなどの有機性廃棄物をメタン発酵させ、そこで得たバイオガスをガスエンジン発電機によるコージェネレーションのほか、ごみ収集車やボイラーの燃料として利用します。年間に約7,300tの生ごみなどを処理し、約1,230MWhの電力をつくることができます」(鈴木光義・エンジニアリング本部環境施設エンジニアリング部担当課長)。余った電力は、最終処分場へ供給したり、売電したりするという。
さらに、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の補助を受け、秋田市沖での海上風力発電事業の実行可能性調査(FS)を実施中だ。陸上よりも風の状況がよく、騒音や景観への影響が小さい海上風力発電への期待が高まっているが、まだ国内での実績が少ないだけに、日本の自然条件に合った着床式の洋上ウィンドファームについて、事業性の評価などの調査を行っている。
大林組は、東京都清瀬市にある技術研究所で、太陽光などによる発電をはじめとする再生可能エネルギーや各種省エネ技術、コージェネレーション、リチウムイオン電池などを、施設内の回生電力設備や商用電力などと組み合わせて、スマートシティ関連技術の実証を行った。
「技術研究所にマイクログリッドシステムを構築して、導入後1年間における節電効果などを確認しました。その結果、再生可能エネルギーなどで発電された電力によって商用電力使用量を低減できたことがわかりました。また、終日の電力使用量を積算したところ、3割以上を再生可能エネルギーなどによる発電で賄っていたことも確認できました」(関根武男・大林組建築本部設備技術部副部長)。
技術研究所の2011年7、8月における電力使用量の削減率は37.7%に達し、同社の常設事業所全体における削減率アップに貢献した。余剰電力は本館建物外にある他の施設へ融通しているという。また、マイクログリッドシステムの構築は、ビルエネルギーマネジメントシステム(BEMS)による電力制御と省エネ運用状況の「見える化」や、停電時対策、リチウムイオン電池の制御などにも効果的だ。
同社では今後、環境・エネルギー関連技術の実証を続けるとともに、建設事業を通じて培ってきた技術を生かして、太陽光を軸とした発電事業に、売電も含めて取り組んでいく考えだ。
太陽光発電システムの導入は、ほかのゼネコンも行っている。鹿島建設は、現場に設置するプレハブ仮設事務所の屋根や敷地内に太陽光パネルを設置して、事務所などで使う電力の一部にあててCO2の削減を図る「鹿島"現場deソーラー"プロジェクト」を進行中だ。2012年2月時点で22の現場に太陽光発電を導入しており、太陽電池の総定格容量は92.4kWに上る。現場ごとに予算計上するのではなく、本社がまとめて太陽光パネルをリースする方式を採用した結果、設置コストの低減につながった。
製造や流通関連の企業も、工場や倉庫に太陽光や風力、バイオマスなどによる発電システムを導入している。キリンビールは、2005年から取手・横浜・名古屋・神戸・岡山・福岡の全国6工場に太陽光パネルを設置して発電を行っている。新エネルギー産業技術総合開発機構と新エネルギー財団による太陽光発電新技術等フィールドテスト事業に協力しているもので、年間発電量は約11万2,000kwhに及び、年間で約47tのCO2を削減している。
また、ビールの製造工程で発生する排水を電力使用量や汚泥の発生量が少ない嫌気処理で処理しており、その副生成物であるバイオガスを回収してエネルギーとして利用している。 「ビール粕などの有機物から得られるバイオガスは、メタンを主成分とする再生可能エネルギーで、カーボンニュートラルですので、コージェネレーションシステムの燃料に使うことでCO2の排出抑制につながります。2009年には滋賀工場リニューアルに合わせて設備導入を行い、全国9工場への導入が完了しました」(キリングループオフィス品質・環境推進部)。
さらに、横浜市が行っている「横浜市風力発電事業」の趣旨に賛同して、2007年4月から10年間、「Y(ヨコハマ)-グリーンパートナー企業」として協賛している。同市及び日本自然エネルギーとの間で三者間契約を結び、グリーン電力証書の発行を受ける。2010年度は73万6,000kWh(キリンビール協賛相当発電分)の電力が供給された。
こうした努力を積み重ねた結果、都市ガスとバイオガスを合わせたコージェネレーションによる発電量は、2010年で1億1,300万kWhに上る。キリンビールは、バリューチェーンのすべての段階におけるCO2排出量の削減に向けた取り組みを計画しており、今後もエネルギーの地産地消に力を入れていく方針だ。
オフィスビルの屋上などに設置される太陽光パネルも増えている。東京・千代田区の「丸の内パークビル」は、地上34階・高さ約157mの超高層ビルだけに地上からではわからないが、屋上のスペースを最大限利用して太陽光パネルを設置している。太陽電池の容量は63kWだ。2012年1月に竣工した「丸の内永楽ビル」では100kW。ここで、丸の内パークビルに太陽光パネルを提供した三菱電機のシステムを例に取って、太陽光発電の主な種類を見てみよう。
太陽光発電システムには、大きく分けて、系統連系形と独立蓄電形の2種類がある。系統連系形のうち逆潮流があるタイプは、電力会社の送電線に太陽光発電システムをつなげて、発電した電力を設置場所で利用するとともに、余った電力を電力会社の系統に逆潮流させる仕組みだ。発電電力量が足りない場合は、電力会社からの系統から供給を受けることもできる。現在最も一般的なシステムで、住宅や店舗、事務所、学校、公共施設などで広く利用されている。同じく系統連系型でも逆潮流がないタイプは、余剰電力を電力会社の系統へ逆潮流させないように保護継電器を設置したもので、発電した電力のすべてを自ら利用する場合に用いられる。
一方、独立蓄電形は、システム電力会社の送電線につなげることなく、発電した電気を利用するものだ。蓄電池と組み合わせることで安定した電力供給が行える。三菱電機では、電力会社の系統が停電した時などに系統側と切り離し、発電した電力を供給することができる連系/自立切替方式のシステムを提供している。防災用など非常時向けの施設に設置されることが多い。
「三菱電機の太陽光発電システムは、公共・産業用で標準的になっている10kWのシステムに最適な出力ラインアップを揃えている点が特長です。また、受光面のガラス表面を凹凸構造にして反射光を抑える『防眩仕様』なので、オフィス街で壁面に太陽電池モジュールを設置する場合などに適しています。耐候性に優れているため、塩害がある地域や雪の多い地域にも設置できます」(同社 中津川製作所 公共・産業用太陽光発電システム営業課)。
同社では、これまでに全国各地の工場やデータセンター、ショッピングセンター、銀行、大学、病院、公共施設などさまざまな施設向けに太陽光発電システムを提供している。また、太陽光発電によって安定した電力を得るには、導入後の保守やメンテナンスが欠かせない。こうしたサポート体制の高さも同社の売りだ。
エネルギーを自社で賄う取り組みは、オフィスビルや工場に限ったものではない。JR東日本は、東京駅と高崎駅の新幹線ホームや、東京駅の東海道線ホームなどで太陽光発電システムを導入している。その同社が現在、力を入れているのが、駅に省エネや再生可能エネルギーなどさまざまな環境保全技術(エコメニュー)を導入する「エコステ」だ。
その第1号として、現在、東京・新宿区にある四ツ谷駅の屋根に太陽光パネルなどを設置して、化石燃料に頼らずにエネルギーをつくり出すための工事を行い、3月14日に本格稼動を開始した。
JR東日本のエコステは、「省エネ」「創エネ」「エコ実感」「環境調和」の4項目を柱として進められている。同社では「グループ経営ビジョン2020-挑む-」の中で、地球環境問題に積極的かつ長期的に取り組むことを宣言し、鉄道事業におけるCO2総排出量の削減目標を設定した。その目標を達成するため、既存省エネに取り組むこととし、モデル駅を12ある支社に1ヵ所ずつ設置することにした。
四ツ谷駅の場合、駅全体のCO2 排出量を年間で約189t減らし、284tに抑えることを目指し、ホームやコンコースへのLED照明の導入や、駅舎屋上への太陽光パネルの設置などの改良を行った。今後、各支社の地域特性にあったメニューを採用してエコステ化を進めていく予定で、現在は千葉県の京葉線海浜幕張駅で検討中だ。
一方、サービス施設では、丸の内にある「東京国際フォーラム」が、屋上の太陽光パネルで発電した直流電力をパワーコンディショナーにより交流電力に変換して、館内の電源の一部として使用している。同フォーラムでは、真空ガラス管型太陽集熱器で得た熱を、各階の洗面所やシャワー、厨房の給湯用などに提供している。
マンションや戸建住宅など一般の住まいでは、従来よりも進化した太陽光発電システムが普及しつつある。大手町に本社のあるサンケイビルは、2011年7月に発売した次世代型マンション「ルフォン井の頭公園」の全33戸に、JX日鉱日石エネルギーが提供する「ENEOSマンション向け戸別太陽光発電システム」と、太陽光発電システムによる発電量などを見える化した東京ガスのガス給湯器リモコン「エネルックリモコン」を組み合わせたシステムを、日本で初めて採用した。
「ENEOSマンション向け戸別太陽光発電システム」は、マンション各住戸の屋上に1戸あたり6枚・1.29kw相当の太陽光パネルを設置し、発電した電力をそれぞれの住まいへ供給する。各住戸は、太陽光発電システムで発電した電力のうち、自家消費分を差し引いた余剰電力を電力会社へ直接売電することができる。「ルフォン井の頭公園」のシステムは、グリーン購入ネットワークの主催による「第13 回グリーン購入大賞」で、審査員特別賞を受賞するなど、高く評価されている。
産業用と住宅用双方での需要拡大を受けて、太陽光パネルの性能アップも図られている。パナソニック株式会社エコソリューションズ社は、住宅用太陽光発電システムのHITシリーズに、従来のモジュールと同じ面積でより高い出力を得られるタイプを追加し、2012年3月から受注を開始した。これに先立ち、停電時にも継続的に電力を供給することができる「公共・産業用リチウムイオン蓄電システム」の販売も始めている。系統電源と太陽電池の双方から充電可能で、災害が発生した時の非常用電源としての役割が期待される。
エネルギーの地産地消を進めていくには、地域全体で再生可能エネルギーの導入や省エネなどに力を入れることが必要だ。丸の内熱供給は、大丸有における熱供給事業などの構築と管理・運営を通じて、環境保全やエネルギーの有効利用に貢献してきた。「1976年に熱供給事業を開始して以来、地域冷暖房を通してより良い都市環境を創造することを目指して、営業地域を順次拡大してきました。現在は、大手町、丸の内一丁目、丸の内二丁目、有楽町地区の大丸有エリアのほか、内幸町、青山など計6地区で熱供給事業を展開しています。全部で84棟の建物へ冷水・蒸気などを供給し、供給延床面積は562万平方mになります」(丸の内熱供給経営企画部)。
同社は、エネルギーの地産地消についても、太陽光発電などの先進的なプロジェクトに挑戦している。2002年、「丸の内二丁目センター」にコージェネレーション発電機を設置し、排熱を地区全体で活用する取り組みを始めた。2008年には隣接する丸の内一丁目地区との間に地域配管ネットワークを設け、蒸気の連携を実現した。これにより排熱のさらなる活用を図ることが可能となり、環境負荷の低減につながった。
2003年からは丸の内一丁目地区にある三菱UFJ信託銀行本店ビルの屋上に20kWの太陽光パネルを設置し、プラントの動力として利用している。こうした取り組みが認められ、丸の内一丁目・二丁目センターは、東京都環境確保条例に基づく優良特定地球温暖化対策事業所の「準トップレベル事業所」に認定されている。
太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーを導入する事業者が増えているのは、環境面はもちろん、電力需要量の削減など経済的な効果が目に見えるためだ。大林組の話にもあったように、FITが始まれば売電によるメリットは一層増加し、再生可能エネルギー関連市場の拡大が期待される。
自社で発電した電力の余った分を、地域や他の事業者に供給する企業もある。前出のキリンビールは、横浜工場でつくった電力の一部を電力会社へ供給している。同工場には5750kW規模の自家発電設備が3基あり、2011年の夏は、自家発電した電力のうち自社で使う分を除く1万kWを東京電力へ供給した。2012年についても夏場の電力不足が予想されることから、同社は工場外部への電力供給を積極的に行っていく考えだ。
電力の生産地と消費地とをつなぐ仕組みとして忘れてならないのが「グリーン電力証書」だ。再生可能エネルギーでつくったグリーンな電気がもつ環境価値を「証書」にして取引する。環境省によると、グリーン電力証書を発行している事業者は約50ある。このうちNTTグループは、太陽光発電など再生可能エネルギーの利用を促す「グリーンNTT」プロジェクトの推進組織として、2008年にグリーンLLP(有限責任事業組合)を設立。グリーン電力証書の発行や、太陽光パネルの設置などを行っている。
グリーン電力証書による電力購入が「みなし」であるのに対して、グリーン電力そのものを発電所から利用者へ直接送る仕組みが「生グリーン電力」。新丸ビルは2010 年4 月から、ビル内で使うすべての電力を、青森や北海道の風力・水力などの再生可能エネルギーで発電した「生グリーン電力」にしている。その結果、ビル全体のCO2 排出量を約3 分の1 にすることができた。
電力などのエネルギーを環境にやさしい方法で自らつくり、供給まで行う企業が増えれば、地域におけるエネルギーの地産地消は根づいていくだろう。
企業などによるエネルギーの地産地消を後押ししているのが、FITなど再生可能エネルギーの導入拡大を図る政策。取材を通じて、環境やエネルギー関連の事業が社会貢献の延長ではなくビジネスとして成立するためにも、一時の振興策や補助とは一線を画した恒久的な制度が不可欠であると感じた。