企業による環境やCSRに関する取り組みの現場を取材する【環境コミュニケーションの現場】。9回目は、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)の省エネ・節電への取り組みを紹介します。公共交通機関としての社会的使命を損なうことなく、電力の大口需用者として全社をあげて節電へ取り組むようすを総合企画本部経営企画部環境経営推進室課長・環境マネジメントグループリーダーの井上宏和さんにうかがいました。
* 政府は8月30日、大口需要者への電力使用制限令の解除を当初の9月22日から東北電力管内は2日、東京電力管内は9日に繰り上げて終了することを決定しましたが、この記事は8月21日の取材をもとに作成したものです。最新の運行計画・ダイヤについては、JR東日本のウェブサイト等でご確認ください。
JR東日本では「電力使用制限令」に基づき、6月24日から9月22日までの平日は、一部の線区で12時から15時の電車の運転本数を削減する「夏の特別ダイヤ」を実施していいます。朝夕のラッシュを避け、電力使用のピークとなる時間帯です。被災地の路線をはじめ東北・長野・上越新幹線、および運行頻度の少ない路線(1時間あたり上下別で3本以下)は除外されているものの、東海道本線や横須賀線、常磐線(快速)、横浜線などで利用状況を考慮しつつ線区ごとに運転本数を減らしています。
社会全体が節電に努めている状況ですので、お客さまにはご理解をいただいているものの、横浜線などの本数削減が目立つ線区のお客さまからは、『どうして、この線区はこんなに減らされるのか?』といった疑問はいくつか寄せられています。しかしながら、「夏の特別ダイヤ」では、お客さまへの影響を考え、できるだけ混雑率が高くならないようにしておりますが、お客さまにご迷惑をおかけしていることは、社員みなが感じていますので全社をあげて節電に努力しています。
山手線、京浜東北線、中央線、埼京線など首都圏の多くの線区については、当社が保有する自営発電所(信濃川発電所:水力、川崎発電所:火力)からの電力で運行していますので、電力使用制限令の対象外ですが、首都圏の電力確保に協力するため運転本数の削減により東京電力へ融通しています。
地震発生以前にも自営電力を東京電力へ融通していましたが、地震後は節電に取り組むことにより、東京電力への融通を増やしています。たとえば3月17日の18~19時の1時間の実績を紹介しますと、約21万kWhの余剰電力を東京電力へ供給しましたが、これは一般家庭約50万4000世帯の1時間あたりの消費電力量に相当するとされています。
川崎火力発電所については、現在4号機の更新作業を行っています。燃料を重油から天然ガスに転換することでCO2排出量を削減しながら、発電効率の高い複合サイクル発電方式を採用して、出力12.5万kWhから20万kWhへパワーアップをはかります。川崎火力発電所は、首都圏にあるため送電ロスが少ないというメリットがありますし、複合サイクル発電方式により、電力需要に応じて起動・停止を行うなど、容易に出力変更ができる環境にやさしい発電所です。
駅や車内でもさまざまな節電策を実施しています。運転本数の削減と同様に、お客さまのご理解を得ることが大切だと考えています。とくにご高齢の方や障害を持つお客さまには不安を感じている方もいらっしゃると思いますので、安全には十分に配慮してホームや階段では照度に留意しています。
エスカレーターについては、朝夕はお客さまの流れが悪くなりますので、原則として稼働させていますし、日中時間帯についてもお客さまのご要望を踏まえつつ、高低差や混雑などの状況に応じてできるだけ動かしています。エスカレーターは足の不自由なお客さまには一種のバリアフリー設備です。交通弱者のサポート機能もありますので、電力需要を見ながら可能な限り動かしたいと考えています。エレベーターや音声誘導チャイム、多目的トイレは常時稼働させています。
お客さまにご迷惑をおかけする心配がないオフィス部門は、最大限の取り組みを行っています。クールビズは5月1日より実施しましたし、蛍光灯の取り外し、LED照明の導入、エレベーターの一部停止、冷房温度の引き上げなど、すぐにできることは実施しています。
また、本社では16時退社を推奨しています。夕方のラッシュ時の電力需要が大きくなりますので、輸送に直接従事していない部門は夕方のラッシュ時までに退社することで、少しでも電力を電車の運行等に回せることができるのではないかと考えております。フレックスタイム制が導入されているため、通常の勤務時間を充足するには朝7時20分から勤務すればよいので、早朝から出社する社員も少なくありません。また空調を17時30分に止めることで、早めに帰宅する環境をつくり出しています。これにより早い時間に仕事を終え、それぞれ買い物やスポーツなどを楽しんでいるようです。強制的な側面はありますが、社員のライフスタイルという面でも新しい発見につながったのではないかと思います。
このほか、埼玉県・栃木県の路線と、茨城県内の東北本線を管轄とする大宮支社では、「土日勤務・木金休日」を実施しています。勤務スタイルは支社ごとに設定できるため、それぞれの支社で現場と一体となって節電効果を高めるための工夫を行っています。
駅の太陽光発電システムについては、すでに東京駅新幹線ホームと高崎駅新幹線ホームに導入していますが、2011年2月25日から使用開始した東京駅東海道線ホームに導入したものは当社最大規模となる453kWの出力で、年間の発電量は約340MWh、CO2削減効果は約101tを見込んでいます。CO2削減については、杉の木約7214本を植林する量に相当します。
また、この太陽光パネルの発電状況は、東京駅構内4ヵ所に設置された発電量表示モニターでリアルタイムに確認することができますので、東京駅を利用するお客さまへの省エネ・環境意識の周知や啓発という効果も期待できます。発電した電気は東京駅の照明や空調などの電力として活用しています。
駅のホームの屋根は太陽光パネル設置に適していると言われますが、全線展開するには課題も少なくありません。電車が動いている時間には工事ができないので、深夜などの短時間で一気に作業を完了させるには不適切な場所であり、工事費も高くなるということで、今後どこでできるのかについては社内で議論しているところです。
東京駅太陽光発電システム発電量表示モニター
東京駅の丸の内駅舎は12年6月には復原工事が終了します。八重洲口でも13年にはグラントウキョウの2棟を結ぶグランルーフが竣工する予定で、ある程度の形にはなってくると思います。これによって東京湾から皇居につながる「風の道」がとおり、ヒートアイランド現象の改善が期待されています。東京駅のグラントウキョウ ノースタワーには窓ガラスに貼るタイプの透過性の太陽光パネルも導入していますが、今後も新しいビルが建ちあがる中でLED照明や輻射空調など、その時点でできる限りの環境技術をとり入れるとともに、地域全体の環境への貢献という視点も大切にしていきたいと考えています。
このほか、屋上緑化はすでに多くの駅ビル等で展開しており、今後も着実に増やしていきます。それから、風力発電(国分寺駅ビル屋上)やホーム照明のLED化試行など、さまざまな取り組みを行っています。当社には約1700の駅がありますが、そこに展開していけるようなシステムや技術など、JRの環境貢献の可能性を見出すためにチャレンジを続けていきたいと考えています。
そのとおりです。日本全体でCO2を減らしていくためにも鉄道シフトが不可欠です。しかし現状では、クルマや飛行機と比較しての電車の環境優位性については、まだまだアピールが不足していますので、いかに電車に乗っていただくかを考えていかなければならないですし、そこは課題だと思っています。
お客さまとのコミュニケーションについては、広報活動に加え、駅のポスターや車内のトレインチャンネルなどデジタルサイネージを活用した情報提供のほか、小学校への出前授業や東京ガスと共催する「ガス&レールウェイ」展の開催などを通じて、次代を担う子どもたちへの環境教育にも取り組んでいます。
今回の節電対応では、安定輸送と節電という両立が難しい課題を解決していかなければならないわけですから、これまで以上にお客さまとのコミュニケーションは重要です。お客さまに私たちの節電への取り組みに参加していただくという側面があるわけで、お客さまのご理解・ご協力がなければ達成できないものですから。
電力使用制限令が解除された後の対応については、これから社内で慎重に検討してまいります。冬になりますと、東北地方では列車の安定輸送のため、電気で雪を溶かしています。何とか通常のダイヤを確保したいと思いますが、雪がどれくらい降るのか予測がつきません。また、復興を支援するためにも電車は止められません。安定輸送という使命を果たすために、お客さまにご理解とご協力をいただけるよう、さらなる工夫や努力を重ねていきたいと思います。