企業による環境やCSRに関する取り組みの現場を取材する【環境コミュニケーションの現場】。8回目は、戸田建設が今年3月に竣工した、環境最先端テナントビル「TODA BUILDING 青山」を紹介します。一般的なオフィスビルに比べてエネルギー消費量とCO2排出量の40%削減に成功したこのビルを、環境事業推進室室長の樋口正一郎さんと、設計を担当した建築設計統轄部計画設計部グループ長の竹内淳二さんに案内してもらいました。
樋口: 東京都内では初めてだと思います。延べ床面積は3,700㎡ほどで、この程度の中規模オフィスビルは都内にたくさんありますが、投資効果などの観点から環境配慮技術の導入が進んでいないのが現状です。この敷地にはもともと当社設計部の入っていたビルがあり、当初は建て替えて一般的なテナントビルにする計画で設計もほとんど固まっていました。しかし、当社では環境戦略委員会を設置するなど環境への取り組みに力を入れていたこともあり、せっかく建て替えるなら環境性能を極限まで高め、当社における環境事業のパイロットプロジェクトにしようということになったのです。
竹内: こうした経緯があって当初の設計から大きく路線変更し、環境の最先端技術を盛り込んだテナントビルを実現しました。企画・設計・施工から建物の管理運営にいたるまで当社が自社事業として一貫して行い、2010年6月に着工して今年3月に竣工しました。
竹内: 一般的なオフィスビルに比べてマイナス40%のエネルギー消費量で運用することができ、CO2排出量も40%削減することが可能です。また、建築物を環境性能で評価して格付けする手法のCASBEE(建築環境総合性能評価システム)で、最高の評価であるSランクを2008年版と2010年版の両方で取得しました。さらに、省エネ法に基づく建築物の断熱性能に関する基準であるPALと、東京都建築物環境計画書制度に基づく建築設備の省エネ性能に関する基準であるERRで、最高ランクである段階3-3の評価を得ています。
樋口: 都内にある5,000㎡以下のテナントビルで、CASBEEのSランクを取得しているのはここだけです。このように収益性を確保しながら環境性能を高めた取り組みが評価されて、国土交通省の「住宅・建築物省CO2先導事業」の補助金を受けることができました。
樋口: 「TODA BUILDING 青山」は、高い省エネやCO2削減効果を実現するために50の環境配慮技術を取り入れています。外装部分の代表的な技術が、ビル正面のいわゆるファサードデザインに透過型太陽光発電パネルを採用したことです。これにより窓面への日射を発電に利用しつつ、3階から8階までの事務室側からの眺望を確保しています。
また、外観はガラスでできた普通のカーテンウォールに見えますが、2枚のガラスの間に空間を設けて省エネ効果を高めたダブルスキン構造になっています。これに電動ブラインドを組み合わせることで、夏場の断熱性を向上させる一方、冬場はダブルスキン内の暖まった空気を利用し空調の負荷を低減することができます。またダブルスキンによる遮音性能の向上はもうひとつの
大きなメリットと言えます。
竹内: このビルで使われている環境配慮技術の多くはメーカーなどが開発したものですが、そういった技術をいかに組合せコストバランスの取れた計画とするかが、環境配慮建築の設計ポイントと考えております。
竹内: 2階のオフィスでは輻射天井空調システムを採用しています。輻射とは、熱が物質を介さずに温度の高いものから低いものへと移動する性質のことです。輻射空調はこの原理を利用したもので、天井パネル裏面に配したアルミ製のパイプ内に冷温水を流し、天井面の温度を年間通じて23℃に設定することで人体からの放射熱を直接吸収し、体の表面温度を31℃前後に保つのです。また、この輻射空調の熱源には地中熱を利用しています。ビルを施工する際に、深さ30m以上の地中に埋めた杭のまわりにチューブ状の地中熱交換パイプを設置し、年間を通じて20℃を下回る安定した地中の温度を用いる仕組みです。
樋口: 空調では、温度と湿度とを個別に制御することができるデシカント方式を採用しています。これにより、少ないエネルギーで快適に過ごすことが可能になります。また、空調のゾーニングを細分化して、ゾーンごとに冷暖房を行う冷暖フリーマルチを導入することにより、窓際でも夏場に日射の影響で暑くなるのを防ぐことができます。このほかに、オフィス照明に関しては、人のいないエリアを自動的に感知して明るさを調節する人感センサーを取り入れています。
竹内: 照明については、自然光をそのまま光源とする光ダクトによる昼光利用を、6階のエレベーターホール部分で行っています。屋上にある採光部からとり込んだ太陽光をダクトにより垂直方向へ引き込み、6階の天井裏で水平方向に反射させてホールの天井面を照らす方式です。人の手が加わっていない自然の光はとても柔らく、時間とともに光の色が変わるなど一般の照明にはない性質をもっています。晴天であれば相当の明るさを得られるので、企業などが節電を求められる今の時代に向いているかもしれません。
樋口: 先ほどお話しした通り、エネルギー使用量を40%削減しているため、電気代など入居者のランニングコストを大きく抑えることが可能です。とくに、改正省エネ法により省エネ義務が課せられている入居者にとっては、企業全体のエネルギー使用量の削減に貢献するでしょう。また、テナントごとのエネルギー使用量は管理室で集中コントロールされており、太陽光による発電や地中熱の状況なども把握できます。
これらのデータを「見える化」するシステムとして、各階の専有部出入口に、照明・コンセントや空調機器などの利用状況を表示するモニターを設置してあります。このモニターには使用電力量や電気代、CO2排出量のほか、削減率をもとにしたビル内のエコランキングなども表示されるので、入居者による自主的な省CO2活動につながっていくものと期待しています。
竹内: エントランスには輻射空調のパネルを壁材の一部に使っているほか、あえて仕上げの不均一なリン酸処理鋼板を用いたり、備長炭や珪藻土をあしらったりするなど、オフィス階とは一味違う素材やアイデアを盛り込んであります。ちなみに、エントランスの床に埋め込まれている銘盤には、「20110331 TODA MINIMUM CARBON ARCHI-DESIGN」という言葉が刻まれています。これは、竣工日とともに、徹底した低炭素化を目指す当社の設計思想を表したものです。
樋口: 「TODA BUILDING 青山」におけるテナントとの契約締結はは、8月でほぼ終わります。建物供用後は、グループ会社の千代田土地建物による室内環境測定や入居者へのアンケート調査などを行い、省エネ技術の効果を定量的・定性的に検証します。こうして得られたデータは入居者へ伝えて排出量の予測や省CO2活動に生かしていただくとともに、当社の環境配慮技術の開発に役立てます。
また、当社は、環境省のエコ・ファースト制度に基づく「エコ・ファースト企業」としての認定を受けており、その約束として施工段階と保有施設からのCO2排出削減や、環境配慮サービスの実用化を掲げています。
そのほか、2009年に発表された経済産業省のビジョンを受け、当社は現在「2020年までにZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の実現」を目指しており、そういった取り組みの中でも「TODA BUILDING青山」は、その大きな一歩と位置づけられるものです。