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シリーズコラム 「Viva Málaga!」
シリーズコラム 「Viva Málaga!」エコッツェリア協会にアスリートインターンとして活動し、その後スペインのマラガを拠点にフットサル選手として活動しながら、フリーランスとして様々な国で事業開発に携わる吉林千景氏がアンダルシア・マラガを紹介していきます。
第3回の今回は、マラガのビジネスのハブとしての側面を取り上げます。マラガは特に海外企業の進出が顕著であり、欧州の新たなテクノロジー拠点として進化を遂げています。そんなマラガのここ数年の海外企業の進出状況、テクノロジー拠点の中心的存在である アンダルシア・テクノロジーパーク(PTA)そして日本企業との関わりについて詳しく紹介します。
マラガは、地中海に面した美しい海岸線と温暖な気候に加え、近年は「テクノロジー都市」としての地位を確立しています。その理由の一つに、ビジネス環境の整備とスタートアップ支援の充実があります。実際、スペイン政府や地方自治体が提供する優遇税制措置や補助金が、海外企業の誘致を後押ししており、続々と海外の企業がオフィスを構え始めています。その特徴がアメリカのシリコンバレーに似ていることから、現地では「Malaga Valley(マラガバレー)」と呼ばれています。
テクノロジー分野の成長
特に注目されるのは、ITやデジタルサービスを中心とした企業のマラガへの進出です。近年では、Googleがマラガにサイバーセキュリティセンターを設立し、欧州全体のデジタル安全性を強化する重要拠点とし、現地に住んでいる人たちの間で大きな話題となりました。少し前から「ついにGoogleがマラガにやってくるらしい!」という噂はありましたが、本当にやってきたので、みんなでびっくりしたのが良い思い出です(笑)。
マラガ港のすぐ横に新しくできたGoogleオフィスの入り口
私はマラガで「Málagainternational」という様々な国籍のメンバーが属するコミュニティに参加し、これまで様々なアクティビティに参加してきたのですが、スペイン国籍以外のメンバーには、IT系企業の社員やプログラマーとしてフリーランスで働く人が多く、そのことからもテクノロジー系の海外企業が多く進出していることが伺えました。ちなみに、このコミュニティには様々なグループがあり、スポーツグループ、フリーランスグループ、山登りグループなど、趣味からビジネスまで様々な話題で交流をしています。
海外企業から見たマラガの魅力
まだまだ日本国内での知名度は低いですが、マラガ国際空港はスペインでも4番目の規模と言われており、欧州各地や中東へのアクセスも 容易です。この地理的優位性は、国際的なビジネスを展開する企業にとって大きな魅力となっています。また、マラガの生活コストが他の欧州主要都市に比べて 低いことも、優れた人材を確保するのにはとても良い条件です。さらに、マラガは一年を通じて比較的温暖な気候で過ごしやすく、寒い国から優秀なエンジニアなどがよく来ているようです。
マラガに進出する海外企業へのメリットは前述の通りですが、スタートアップから大企業まで、多様な企業がマラガに拠点を置くことで、新たな雇用機会が創出され、地元経済が活性化していることも忘れてはいけません。
マラガ市内にあるアンダルシア・テクノロジーパーク(ParqueTecnológicodeAndalucía、以下PTA)は、地域の経済成長を支える中心的な存在です。1992年に設立されたPTAには、現在では600社以上の企業が集まり、1万6千人以上の雇用を創出しています。PTAには、IT、通信、バイオテクノロジーなど、幅広い分野の企業が集まっています。その中には、アクセンチュアなどのグローバル企業に加え、多くの地元スタートアップも 含まれており 、企業間や地元の教育機関とのネットワーキングやオープンイノベーションが促進される場となっています。
実際、マラガにオフィスを構える海外企業は、マラガ出身の人材を雇用し、地元民へ多くの雇用機会を生み出しています。また、マラガの都市としての成長は、PTAの成長とともにあると言っても過言ではなく、この25年間、マラガのテクノロジー産業の盛り上がりと共に、マラガの国際都市としての地位も高まりました。
日本企業の進出の可能性
PTAは、日本企業にとっても理想的な進出先として注目されています。昨今では、PTAから少し離れたマラガの中心地に株式会社NTTデータが大きなオフィスを構えたことが現地で話題となりましたが、高度な人材と優れたインフラが整ったPTAの環境は、日本企業が欧州市場にアクセスするための足掛かりとして期待できるエリアだと考えられているようです。
PTA内では国際的なビジネスイベントが定期的に開催され、日本企業が現地の企業とつながる機会も豊富です。実際に現地に住んでいても、日本から駐在でマラガにくる日本人の姿を見かけることもあり、少しずつ日本企業がマラガに進出していることを実感しています。
また、日本企業とマラガのスタートアップや中小企業との協業も注目されています。AIやIoTなどの先端分野において、両国の技術を融合させた革新的なプロジェクトが進行中で、こうした協業は単なる技術移転に留まらず、新しいビジネスモデルの創出につながっています。現地のテクノロジーイベントや商談会に参加する中で、これらのプロジェクトが具体的な成果を生み出している様子を直接目にする機会も増えました。こうした日西協力は、文化交流や人材育成の面でもポジティブな影響をもたらしています。
スマートコミュニティ実証プロジェクトの成功例
2012年から2015年にかけて実施された「スマートコミュニティ実証プロジェクト」は、日本企業とマラガのコラボレーションの成功例として知られています。このプロジェクトは、日本の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)がスペインの産業技術開発センター(CDTI)と共同で進めたもので、電気自動車(EV)の普及を目的 にした交通分野の実証実験が行われました。
この取り組みは、日西両国の民間企業6社によるコンソーシアム「ZEM2ALL」によって実施され、マラガ と日本の間で技術やノウハウの交換が活発に行われました。このような大規模プロジェクトは、地域の発展に貢献するとともに、日本企業の信頼性を高め、将来的な協業の土台を築きました。
今回は、「スマート都市」として国際的な注目を集めているマラガの産業について紹介しました。特に、テクノロジー分野での成長は目覚ましく、日本企業にとっても新たなビジネス展開の可能性を秘めていると感じています。PTA等を活用した現地企業との協業や、文化交流を通じた信頼関係の構築が、今後の日本企業のヨーロッパ全域における成功のポイントになるのではないでしょうか。日本とマラガが手を携えることで、日本とスペイン、並びにヨーロッパの企業にとっての新たな成長の機会となり、交流が深まっていくことを楽しみにしています。
次回は、『アンダルシアと日本』と題し、マラガから少しエリアを広げてアンダルシア地方の文化を紹介します。ぜひ、お楽しみに!
東京都出身。スペイン・マラガ在住。2016年慶應義塾大学総合政策学部卒。2011年よりフットサル女子日本代表選手として活躍し、2023-2024シーズンは、スペイン女子フットサル1部リーグ「NuecesdeRondaAtléticoTorcal」でプロ選手として活躍するなど、世界を舞台に戦う。帰国時にエコッツェリア協会でのアスリートインターンやWebライターとしての活動経験がある。引き続き世界の舞台で戦うために第一線で競技に励みながら、デュアルキャリアの実践として日本とヨーロッパの架け橋となる事業開発に取り組むなど、競技以外の活動にも力を入れている。