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【レポート】空海から読み解くこれからの人類のあり方 ~新たな記述言語で誰もが幸福に~

【丸の内プラチナ大学】物語思考デザインコース Day8 2025年3月11日(火)開催

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社会人や学生を対象とした丸の内プラチナ大学に、2024年度から「物語思考デザインコース」が新設されました。9月のオリエンテーションにて、同コース講師の梅本龍夫氏は「小宮山学長が提唱するプラチナ社会を実現する手がかりは『物語』にあると思う」と語り、このコースでは、伝統芸能、自然科学、人文科学、社会科学などの智慧を結集し、物語思考を身につけ、その長い物語に秘められた未来へのメッセージを読み解いていきます。同コース最終日となる3月11日、3×3Lab Futureには続々と受講生らが集まってきました。

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自己と社会の再生を考える物語思考の実践

自己と社会の再生を考える物語思考の実践

梅本氏は、まずこれまでの学びを振り返りました。「私たち人類は長い悠久の旅をしており、それは死と再生の繰り返しともいえる。その繰り返しは、物語が長大になっていくプロセスでもある。この講座の通底するテーマは、自己の再生、ビジネスの再生、日本の再生を共同編集することだ」(梅本氏)

image_event_20250311.002.jpeg2024年度から新設された物語思考デザインコース講師の梅本龍夫氏

そのようなテーマのもと、Day3には能の物語思考、Day4には自然農法に取り組む農家から日本の再生物語を学び、Day5、Day6には「私」のライフレコード制作や智慧の車座を通して自己の再生物語を体験。Day7には、陸前高田市の老舗醤油屋の方を迎え、日本の再生物語を伺いました。

「6000年に一度の人類大変革期」空海から私たちは何を学ぶべきか

image_event_20250311.003.jpeg空海について語る特別講師の安田登氏

このような振り返りを経た後、Day8の特別講師として、下掛宝生流能楽師の安田登氏が登壇しました。安田氏は「今日は、日本の歴史上最も偉大な一人である空海についてお伝えしたい」と話し始め、「何が偉大かと言うと、1つ目に仏教を大きく変え、今までの仏教とは全く違う仏教を作ったこと。2つ目に、字や文筆の上手さで中国からも尊敬される人物であること。3つ目に、日本で初めて誰でも無料で入れる自由な学校を作ったこと。他にも灌漑事業や土木工事もやってのけた。本当の天才だ」と語ります。

空海を取り上げる理由については、「僕たちは今、6000年に一度の大きな変化の時期に差し掛かっている。AI(人工知能)の登場により、人間の脳は変化しないとAIに負けてしまうかもしれない。その際に言語は重要で、今後の変化へのヒントが空海にある」と安田氏は言います。そして、今の人間の脳は成長停止してしまっていると警鐘を鳴らします。

「面白いビジネス理論は1970年代、80年代以降出ていない。コンビニエンスストアに代わる新たな業態は作れないとも言われている。それは、人間の脳が2次元でしかものを考えられず、もうピークに達してしまったからだ。僕らの思考は、文字や図という記述言語も2次元に縛られている。新しいものを作るためには、人間はそろそろ2次元の思考を変えなければならない。今から1250年前に、次の世代へとバトンを渡そうとした空海から学ぶことが必要だ」

image_event_20250311.004.jpeg参考資料として空海に関する書籍や安田氏の著書が並ぶ

空海が天才たり得た理由について、安田氏は「ゲシュタルト的理解」だと言います。

「僕たちはどうしてもリニア(直線的)に学習する癖がついている。例えば言語を勉強するとき、一つ一つ覚えようとする。これでは忘れてしまう。言語を勉強するときには、簡単な辞書を初めから最後まで1週間ぐらいで一気に通読して全部頭に入れる。それがゲシュタルト的理解だ。ゲシュタルト的理解ができるようになると、あらゆるものの理解が早くなる。空海もゲシュタルト的理解を手に入れたが、その次の問題点は、伝える言語がないため相手にどう伝えていいかわからなかったという点だ」

しかし、空海は「言葉」と「図画」で伝える方法を編み出しました。「空海の使った言葉は漢文。漢字の特長として、一つの文字の中に名詞も形容詞も動詞も副詞も含んでいること。空海は漢字を使い言葉一つに深い意味を持たせた。一方、図画は曼荼羅のこと。曼荼羅とは2次元の世界のように思えるが、実は何もない空間にさまざまな仏様が現れる、空間と時間が加味された4次元の世界を表している」(安田氏)

空海が伝えようとした「苦」の本質と即身成仏

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では空海は何を伝えようとしたのでしょうか。安田氏は空海の三大論文「即身成仏義(そくしんじょうぶつぎ)」「声字実相義(しょうじじっそうぎ)」「吽字義(うんじぎ)」を引用し、空海が伝えたかったことを語ります。

「空海以前の仏教では、成仏するには非常に長い時間が必要とされていた。しかし、空海は即身成仏できると伝えた。即身成仏とは、すぐに今の身体のまま成仏すること、すなわち『苦』の本質に気づくことだという。ここで言う『苦』とは、何か行動をするときの障害となるものを意味し、世の中に無数にある苦の正体に気づいて、実はそんなものが無かったのだと悟ることが成仏だ」

そしてその「即身成仏義」の頌(しょう)の前半に書かれている以下の文を紹介します。
①    六大無碍(むげ)にして常に瑜伽(ゆが)なり
②    四種(ししゅ)曼荼(まんだ)各々(おのおの)離れず
③    三密加持(さんみつかじ)すれば速疾(そくしつ)に顕(あら)わる
④    重々(じゅうじゅう)帝網(たいもう)なるを即身と名づく

「六大とは、『地』『水』『火』『風』『空』の五大に『識』を加えたもの。仏教では、あらゆる存在はこの五大でできていて、人間も地は肉、水は血、火は熱、風は息、空は口の中の五大で構成されている。識は知覚から来る分析と理解のこと。これら人間を構成する要素は実は仏様も同じで、つまり人間と仏様の構成要素は同じだということを①の文は言っている。
一方、②の文では、曼荼羅には仏様そのものを描いた絵の曼荼羅と、梵字のものと、仏や菩薩の持物を描いたものと、行為や動きを表したものの4種類があることを示している。これも実は人間の行いと同じで、この文でも仏様と人間は同じだと空海は説いている。
では、人はどうすれば仏様と同じように悩みや苦しみを無くすことができるのか。
その答えが③にある。三密とは『身体』、『口』、『意識』の三つを意味し、この三つを仏様と同じにすれば、あなたも仏様になれる。つまり、仏様と同じ姿勢で、同じ言葉を唱え、同じ思考方法になれば、苦から解放されると説いている」(安田氏)

image_event_20250311.006.jpeg梵字の般若心経の読経も行われた

文字の力の衰退と、新たな記述言語の可能性

さらに安田氏は次のように語ります。

「お釈迦様や空海の時代は、記述言語が生まれてからまだ1500年ぐらいしか経っておらず、文字には大きな力があった。しかし、今は文字が生まれて3000年近くが経ち、文字の力も絵の力も弱くなってしまった。だからこそ、私たちがあらゆる苦しみから抜け出すためには記述言語から考え直さなければならない。僕が新しい記述言語や2次元からの脱却が必要だと言うのは、世の中の苦しみをなくすため。せっかく生まれてきたのに苦しむのは変だと思う。赤ん坊は苦しんでないが、では、なぜそのまま生きていけないのか。もしこれから新しい記述言語が生まれれば、世の中の人々は苦しみから抜け出すことができるのではないか。人は新たな言語を生み出し、脳を変え、2次元の呪縛から自由になるべき時が来ていると思う」

文字を得た人類は幸福になったのか

空海の教えを学んだ後、安田氏と梅本氏の対談が行われました。今回は、その一部をお届けします。

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梅本 出だしの大変化の時代が来ているという話は、ものすごく共感しました。

安田 実は古代の甲骨文字には「心」という字はなく、「心」はその後300年後ぐらいに生まれた概念なんです。それと同じように、変化は突然起こるのですね。

梅本 心が言語として登場したことで、私たちは心という概念を体得したということですね。

安田 皆さん、ヘレン・ケラーの自伝を読んだことはありますか。 視覚と聴覚を失った彼女が最初に"water"を理解した時、2つの感情があったと書かれています。一つは後悔、もう一つは悲しみです。後悔も悲しみも時間の概念がなければ感じません。つまり、彼女は「水」という言葉を手に入れることで初めて時間の概念を手に入れたのです。このように、時間という概念を得た代償に、人は悲しみや後悔、そして不安、恐怖も感じるようになったのです。これらをまとめて古代の人は「心」と名付けた。心は時間と関連するのです。

梅本 心という漢字ができたあと、「忄(りっしんべん)」の漢字もたくさん出てきましたね。

安田 「心」ができたのは紀元前1000年ごろですが、そこから先に「悩」や「悲」などの漢字が爆発的に増えるのはあと1000年必要でした。その間に、心の概念が徐々に醸成されていったのでしょう。

image_event_20250311.008.jpeg安田氏の語り口に受講生は笑顔を見せる場面も

梅本 このコースでも扱った古代シュメールの神話「イナンナの冥界下り」のテキストに、興味深い記述があります。仏教でもキリスト教でも「心」の宗教あるいは文字の宗教は、すべてが女性を軽視し、性愛を害悪として遠ざけています。ところが、「心」ができる前の時代には女性が崇められ、性愛は高らかに賛美されていたと書かれています。

安田 文字や「心」が生まれる以前の時代、活躍していたのはみんな女性でした。たとえば、古代中国でも最大の将軍は女性。彼女は祭礼にも携わるし、あらゆることをやる女性でした。しかし、その一代限りで、以降は男性の世界に変わってしまいました。そこには何があったのか。私は男たちによって女性が粛清されてしまったのではないかと推測しています。一方で、これからの大変革の時代を考えると、男女の性別がなくなるのではないかと思っています。子どもを産むのに男性が必要なくなる時代がくるだろうし、子宮移植が成功したというニュースもありました。男が必要なくなる時代が来た場合、男の役割は何なのだろうかと考えますね。

image_event_20250311.009.jpeg安田氏と琵琶奏者かすみ氏が「かぐや姫」の朗読を披露する一幕も

講座終了後、梅本氏はコース全体を振り返り「物語の持つ普遍的な価値や力というものが、受講生たちと共有できたという手ごたえがあった。社会や地球を進化させ、変えていくパワーの源になり得ると感じた。今後これをどのように繋げていくかを考えていきたい」と語りました。

image_event_20250311.010.jpeg 左:今年度の講座を総括する梅本氏
右:ファシリテーショングラフィックアーティスト吉田顕氏によるグラフィックレコーディングが展示された。講座内容から得たインスピレーションを絵で表現している。

私たちは個人としても、集団としても色々なところで色々な物語を紡いでいる存在です。自分の物語を改めて見つめなおし、他者と共有することで、新しい発見や進歩につなげる。物語デザインコースはそんな未来への一歩を手助けしてくれる内容だと感じました。

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