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再生可能エネルギーをわかりやすく、楽しく学び、まちと未来のことを考える丸の内プラチナ大学の再生可能エネルギー入門コース。Day7となる2月10日は、一般社団法人社会科学研究機構の佐々木邦治氏を迎え、「『熱と電気のまちづくり』 熱と電気が生み出す新しいまちづくりのすがた」をテーマに講演いただきました。
冒頭、同コース講師のエコッツェリア協会の三上は「エネルギーといえば電気やガスを想起しますが、生活のラストワンマイルで実際に使っているのはエアコンやクーラーなどの『熱エネルギー』。その本質を聞く貴重な機会です」と今回の講義のポイントを語りました。講義は、佐々木氏が感銘を受けたというデンマークのエネルギー供給の話から始まります。
デンマークの地域熱供給の歴史は100年以上の歴史を持ち、昨今のエネルギー危機での対応策として期待されています。暖房費が急騰するなか、デンマークの地域熱供給世帯の平均価格は安定を保ちました。佐々木氏は、その理由を「地域熱供給には、状況に応じてエネルギーソースを変えられる強みがある」と話しました。特にドロニングルンでの大規模なプールのような太陽熱収集設備で、夏に貯めた熱を冬の暖房に使って年間熱需要の40%を賄う「季節間蓄熱」のスケール感は印象的です。
当初は化石燃料主体でしたが、現在は風力主体の発電と熱電併給のCHP(Combined Heat and Power)(コージェネレーションをEUではCHPと呼ぶ)やバイオマス、廃熱を利用した脱炭素化が加速。デンマークの熱供給の再生可能エネルギー源の割合は、1998年の約20%から2022年には75%へと急増しました。電化されたヒートポンプの導入が進むほか、2030年までにほぼ化石燃料を使用しない状態になると予測され、変動制のある発電の需要が増えるなか、熱供給への期待は高まります。また、複数のエネルギー部門を連携させ、電力を無駄なく使うセクターカップリングも注目を集め、熱と電気を繋ぐ取り組みも進められています。佐々木氏は、基盤となる「地域熱導管」が長年維持・活用され続けている点もふくめて「日本のインフラ整備にも参考となる」と伝えました。
一方、日本のエネルギー自給率は低く、近年の化石燃料依存度は80%を超えます。2040年の再エネ比率目標達成ないは、不断の取り組みが必要です。
佐々木氏は、日本の再エネ開発の事例として、黒部ダムの建設を紹介しました。延べ1,000万人の労働力と7年の歳月を投じ、映画『黒部の太陽』でも描かれた困難な工事を経て完成、現在も年間約9億kWhの電力を供給し続けています。発電に必要な水を流す導水管は落差567m下の発電所に導水され、発電のための圧力差を生み出しました。「電気はスイッチを入れ、お金を払えば使えると言われるが、多くの人が汗をかいて作っているもの。理解と関心を持たなければなりません」と訴えました。
現在は第7次エネルギー基本計画に基づいて「徹底した省エネ」「電化・非化石転換」が促進され、業務部門や家庭部門での省エネ対策の実施も目標となっています。多くの施策から、さらなる省エネ・非化石転換・DRの推進に向けた施策が進められる中、支援については、先進設備の導入支援、デジタル技術やAIを活用での省エネ、DRの普及、スマートメータを活用したDR、需要家側の設備をデマンドレスポンス(DR)に対応させる「DR-ready」要件の策定など、供給と需要を連動させるための支援策も検討されています。
また、産業構造や建築物の基準にも波及しています。2029年以降新設のデータセンターのエネルギー使用効率(PUE)を1.3以下にする追加措置を講じるほか、2027年から新ZEHへ、2030年までには新築住宅の省エネ基準も現行のZEH水準に引き上げられる予定です。また、建物の建設から廃棄に至る全段階の二酸化炭素排出量を評価する「ライフサイクルカーボン」の削減に向けた制度構築に向けた取り組みも注目を集めています。家庭のエネルギーにおいては、省エネ基準の他に、家庭用のエネルギーの約30%を占める給湯に高効率給湯機(エコキュートなど)の導入が支援されています。
ゲスト講師の一般社団法人社会科学研究機構の佐々木邦治氏
地域における分散型エネルギー源については、エネルギーの確保だけではなく、社会コストの最適化が重視されています。佐々木氏は、「再エネ比率が高まると変動電源が増加するため、地域間融通の整備や蓄電池導入が不可欠」と指摘。特に、需給バランスを調整する「フレキシビリティ(調整力等)」の確保は重要だと言います。IEAのシナリオ分析では先進国における、蓄電池及びDRリソースの需要は、2035年には2024年の3倍になると予測されており、需要家が保有するリソースの活用、IoT化が急務となっています。
需要側のリソースは電力システムを支える「バッファー機能」として期待されています。利便性を維持しつつ余剰電力を吸収・調整することで、系統負担を抑えつつ再生エネ導入ができますが、現状ではDRの進捗把握に課題があります。
また、電気代が高騰するなかで消費者の協力を得るには「経済的インセンティブ」の設計も欠かせません。社会全体のメリットをステークホルダーへ適切に還元する環境構築について、佐々木氏は「市場メカニズムやIoTを駆使し、従来の縦割りを打破した相互連携が不可欠である」と強調しました。
一方、住宅の脱炭素化については、ZEHなど取り組みが進んでいるが、集合住宅など、スペースの制約より給湯の全電化には高いハードルがあります。そのため、ガス給湯の高効率化も進められている。また、都市ガスの脱炭素化として既存の都市ガスのインフラを活用できる「合成メタン(e-methane)」やバイオガスへの置き換えも実証が進められています。
講義の後半では、改めて、熱の製造・搬送について解説されました。「暖房」の仕組みはシンプルな事例として、都市ガスなどを燃料とするボイラーによる温熱製造と熱搬送について紹介。「冷房」では、熱源で作られた冷水を冷水配管で空調機に送り、熱交換によって冷やされた空気をダクトで運び各部屋が冷房される仕組みを紹介した。冷熱源は液体が蒸発する際の「気化熱」を利用して冷やすため、必ず排熱が発生する仕組ことも紹介された。
佐々木氏は「空調熱源の仕組みを知るには、熱源に特化した地域冷暖房がわかりやすい」と言及し、エリア全体で熱エネルギーを融通し合うことで、24時間体制で都市の快適性を維持する仕組みを紹介しました。事例として大丸有地区で熱供給を行う「丸の内熱供給」の、プラントと地下に張り巡らされた熱導管により、大丸有地区のエネルギー供給の概要が説明された。発電時の排熱を活用するコジェネレーションシステムや、電化の推進、AI制御の導入など最先端の取り組みがなされ高いエネルギー効率を実現しています。
再生可能エネルギーの知識も増えた受講生は真剣に耳を傾ける
カーボンニュートラル化への道のりは、省エネ、電化、電力の脱炭素化、非電力の脱炭素化、CCU(二酸化炭素の回収・利用)というシナリオに基づいています。課題の一つは、太陽光発電の導入により、日中の電力需要が減少、夕方に急増するダックカーブ現象です。佐々木氏は、こうした現象はすでに始まっており、データで捉える重要性を説き、JEPX(日本卸電力取引所)や、世界中のCO2排出量と再エネ比率をリアルタイムで可視化するElectricity Mapsなどのサイトを挙げ、カーボンフットプリントを比較できる今、脱炭素を「全員の課題」として共有すべきだと話しました。
住宅分野では、断熱・省エネ・再エネを組み合わせた新ZEB,「東京ゼロエミ住宅」、が注目を集め、太陽光発電と蓄電池、EVなどを核とした住宅は、社会全体のエネルギーバランスを支えるDRの重要な基盤のひとつなります。佐々木氏自身の自宅に設置された太陽光発電・蓄電池・エコキュート運用の実体験から、系統と各機器の連携の難しさを課題として挙げる一方で、太陽光発電の余剰電力が生じる昼に効率よく湯を沸かすタイプの{おひさまエコキュート}、V2H、など、家庭の省エネを支える新技術に期待を寄せました。
ビルなどの建築物においても、今後は、年間のエネルギー消費を抑える「ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」の指標だけでなく、系統状況に応じてエネルギーを出し入れし、広域全体でのエネルギーバランスに貢献する評価が重要視されると考えられます。再エネ主力時代には、需要家側が緩和に協力する「協働の価値」がより高まります。例として、夕方のピークを緩和するための「西側の遮熱」、冬の早朝の消費を抑える「断熱性能」、さらにはEV充電時間のシフトやAIによる外気取り入れ量の最適化など、建物側が持つべき柔軟性は多岐にわたります。佐々木氏は、「デンマークのように、電力供給の状況に応じて建物側が柔軟性を持つべきだ」と提言しました。
これまでは「スイッチを入れれば安価に使える」のが当たり前の時代でしたが、これからは電力も「時間あたりの価値」を変える時代です。佐々木氏は、「供給が逼迫する時間帯には消費を抑え、再エネが過剰な時間帯には貯める。この仕組みに無関心でいることは、カーボンニュートラルを遠ざける要因となり、エネルギーの暴騰を助長するのではないか」と語り、インフラと建築、需要家が互いに協働し、コラボレーションする未来の姿を示しました。
佐々木氏は最後に、エネルギーを自身の畑作業になぞらえ、「畑作は土づくり、たい肥、種まきなどの地味な労働が続き、収穫します。私たちが使うエネルギーは実った野菜を最後に積み取る状態のようなもので、そこまでの過程は時間がかかり、見えづらいですが、みんなで協力してエネルギーに取り組んでいきたい」と述べました。
再生可能エネルギー入門コース講師のエコッツェリア協会の三上(左)と佐々木氏
ここまでの話をふまえて、グループワークが行われました。テーマは「『2050年カーボンニュートラルの時代になったら、エネルギーそのものがゼロカーボン化されるはずなので、建物のエネルギーをいくら使ってもよい』という意見についてどのように考えますか?」受講者は3つのグループに分かれて活発な意見交換を行いました。
1チーム目は「エネルギーを生み出す資材などにコストがかかるため、これまでと同様に抑える意識が大切では」と提起、全員一致で「過剰な利用は弊害を招く」と結論づけました。他のチームからは、「生活を便利にするため技術を進化させる方法に向かうのでは」という前向きな意見や、「エネルギー価格が高くなれば、物理的に使えない可能性がある」「抑えて使う、効率的に使うことが求められるのでは」、「ニュートラルはどこから見た視点なのか」という問題提起もなされました。
グループワークの様子
多様な意見を受け、再生可能エネルギー入門コース講師の三上は「エネルギーを使う派」としての視点から、「地球環境に負荷がないのであれば、積極的に活用し、社会の発展を目指したい」と回答。佐々木氏は、エネルギーに対して色々な捉え方があるとしながらも「潤沢に電気が使える未来が来るかは不透明。調整コストを電力会社のみに委ねれば、最終的に電力料金として帰ってくる」と指摘。水力や風力などの再エネ供給の限界に触れつつ、多様な電源、需要家も含めた「総力戦」の必要性を強調しました。
本日の講義の締めくくりとして、佐々木氏は「エネルギーを他人ごとにせず、社会の循環の一部として捉え直すことが、2050年の明るい未来への唯一の道である」と話しました。受講生は、エネルギーを社会の循環の一部として再認識するとともに、主体的な関わりこそが、これからのまちづくりを形作る原動力となることを実感できた時間となりました。

丸の内プラチナ大学では、ビジネスパーソンを対象としたキャリア講座を提供しています。講座を通じて創造性を高め、人とつながることで、組織での再活躍のほか、起業や地域・社会貢献など、受講生の様々な可能性を広げます。