
シリーズコラム 「Viva Málaga!」
エコッツェリア協会にアスリートインターンとして活動し、その後スペインのマラガを拠点にフットサル選手として活動しながら、フリーランスとして様々な国で事業開発に携わる吉林千景氏がアンダルシア・マラガを紹介していきます。第4回の今回は、スペイン南部に位置するアンダルシアの文化について。この地域は、美しい風景、多様な文化、そして奥深い歴史を持ち、訪れる人々を魅了します。温暖な地中海の気候も相まって、一年を通じて観光客が絶えないことでも知られています。本記事では、そんなアンダルシアの魅力を、日本との意外なつながりとともにご紹介します。
アルハンブラ宮殿とイスラム建築の美
スペインの中でも他のエリアとは一風変わったアンダルシアの文化は、ローマ時代、イスラム支配、そしてキリスト教再征服の歴史を通じて形作られてきました。その影響は建築や音楽、料理に色濃く反映されており、日本の伝統文化と同じように、その土地ならではの魅力を深く感じられることで知られています。
例えば、グラナダにあるアルハンブラ宮殿は、イスラム建築の粋を集めた壮麗な宮殿で、訪れる人々を魅了しています。宮殿内の美しい細工や庭園に流れる水の音は、日本庭園の静謐さにも通じるものがあり、ここで過ごす時間はどこか懐かしさを感じるほどでした。
私のおすすめは、アルハンブラ宮殿を夕暮れ時に眺められる「サン・ニコラス展望台」です。オレンジ色の光に照らされる宮殿は、写真で見る以上に感動的です。この景色を眺めながら、遠くの山並みに思いを馳せる時間は格別です。
洞窟に響く情熱のフラメンコ
また、アンダルシアはフラメンコの本場としても有名です。アンダルシア州の州都セビリアやそこから南に位置するヘレス・デ・ラ・フロンテーラでは、毎晩のように伝統的なフラメンコショーが開催されており、観光客も地元の人々とともにその情熱的なパフォーマンスを楽しむことができます。
その中でも、個人的におすすめなのが、グラナダの「サクロモンテ地区」です。ここでは洞窟を改造した会場でフラメンコを鑑賞することができます。狭い洞窟内に響き渡るギターやカンテ(歌)の音色、足音は圧巻で、日本ではなかなか体験できない独特な感覚を味わえます。まさに魂に響き渡るような音楽で、ぜひ日本の皆さんに足を運んでいただき、体験していただきたいスポットです。
マラガで開催される日本文化週間
マラガでは、5年連続で"La semana cultural Japón"というイベントが開催されています。1週間にわたり、書道、お茶、ピアノ、折り紙、陶芸、盆栽など、さまざまな日本文化を体験できるイベントです。
la Sala Fundación Unicaja María Cristinaで開催された2024年La semana cultural Japón開会式
主催者のオルガさんは日本を訪れる中で得たアイデアや体験をもとに、このイベントを丁寧に企画されています。オルガさんはそれまでインテリアデザイナーとして働いていましたが、15年前に事故にあったことをきっかけに、仕事を辞めて日本語の勉強を始めます。その後、マラガに「Okami」という日本料理屋をオープンし、そのお店をきっかけに日本大使と知り合い、このようなイベントを開催するまでになりました。特に、昨年私が参加した折り紙のワークショップでは、多くのスペイン人が真剣な表情で鶴を折る姿が印象的でした。2025年の開催も予定されており、今後もマラガエリアでの日本への関心がますます高まっていくことが期待されます。
スペイン屈指のワイナリーと日本料理との相性
アンダルシアはシェリー酒の生産地としても知られており、特に、ヘレス・デ・ラ・フロンテーラにある1835年創業の"González Byass"のワイナリーは、スペインでも屈指の歴史を誇る名門ワイナリーです。
創業者のマヌエル・マリア・ゴンサレスは、若くしてヘレス地方のシェリー酒に魅了され、独自のワイン作りに情熱を注ぎました。代表銘柄の"Tio Pepe"は、創業者の叔父であるホセ・アンヘル(愛称:ペペ)に由来しています。彼はワイン作りに優れた知識を持ち、ゴンサレスにとって重要なアドバイザーでもありました。彼の名を冠したTio Pepeは、現在では世界中で愛されるシェリー酒の代表ブランドです。その特徴的なボトルデザインと陽気なキャラクターは、アンダルシアの明るさと誇りを象徴しています。
ワイナリー自体はヘレス・デ・ラ・フロンテーラにありますが、Tio PepeはマドリードのSol広場に看板を出していることでも有名です。長年マドリードで最も有名な広場に看板を掲げ続けられていることが、このワイナリーがワイン大国であるスペインにおいていかに重要であるかを示しています。
ヘレス・デ・ラ・フロンテーラにあるワイナリーの見学ツアーでは、トロッコ電車に乗り広大な敷地を巡りながら、シェリー酒の製造過程や歴史について学べる
そんなGonzález ByassのTio Pepeは、和食との相性も抜群です。近年、González Byassは日本市場にも注力し、多くの日本人にシェリー酒の魅力を伝える活動を行っています。日本料理とのペアリングも注目されており、特に寿司や天ぷら、懐石料理といった繊細な味わいの料理とシェリー酒の相性は絶妙だといわれています。日本の茶道が精神性を重んじるように、シェリー酒の製造過程にも職人の技と情熱が込められており、両国の文化に共通するものがあるといえるのでしょう。
アンダルシアと日本は地理的には遠く離れていますが、文化や精神性において共通する点が多くあります。歴史的な建築や情熱的なフラメンコ、繊細な味わいのシェリー酒などを通じて、訪れる人々は日本との意外なつながりを感じることができる場所だと感じています。
私自身、アンダルシアを訪れるたびに新しい魅力に気づき、ますますこの土地に惹かれています。ぜひ、スペインに行かれる際は、マドリードから少し足を延ばして、アンダルシア地方の豊かな文化と歴史を体感してください。
次回は、「アンダルシアで活躍する日本人/日本企業」と題し、アンダルシアで活躍する日本人の方や企業を紹介したいと思います。ぜひお楽しみに!
東京都出身。スペイン・マラガ在住。2016年慶應義塾大学総合政策学部卒。2011年よりフットサル女子日本代表選手として活躍し、2023-2024シーズンは、スペイン女子フットサル1部リーグ「Nueces de Ronda Atlético Torcal」でプロ選手として活躍するなど、世界を舞台に戦う。帰国時にエコッツェリア協会でのアスリートインターンやWebライターとしての活動経験がある。引き続き世界の舞台で戦うために第一線で競技に励みながら、デュアルキャリアの実践として日本とヨーロッパの架け橋となる事業開発に取り組むなど、競技以外の活動にも力を入れている。