冷房の温度を28℃に設定し、蛍光灯の本数を減らし、電球はLEDに交換する...。2012年の夏も企業や家庭では節電への取り組みが盛んだ。一方で注目されているのが、太陽光などの再生可能エネルギーにより地域で使う電気を自分たちの手でつくる取り組み。FIT(固定価格買取制度)が追い風となってエネルギーの地産地消に本腰を入れる自治体や企業が急増している。再生可能エネルギーの弱点だった供給の不安定さを、蓄電池やEVなどと組み合わせて補う「スマートグリッド」も実用段階に入りつつある。東京には究極の省エネビルが誕生。国や自治体の支援メニューも豊富だ。企業や市民が自ら電気をつくり、節約しながら賢く使う時代が幕を開けた。
感謝状を贈られたのは、ザ コカ・コーラ カンパニーでエグゼクティブバイスプレジデント チーフアドミニストレイティブオフィサーを務めるアレキサンダー・B・カミングスさん。あいさつに立ったカミングスさんは、「太陽光発電により、将来の宮戸小学校の児童や地域の方々に、平常時や万一の時にも再生可能エネルギーがそこにあるという安心感を持っていただければ」と話した。
この事業は、公益財団法人コカ・コーラ教育・環境財団内に設立された「コカ・コーラ 復興支援基金」が、文部科学省の後援で行っている公立小中学校へのエコ支援事業の一つとして実現したものだ。ザ コカ・コーラ カンパニーは同基金に総額で25億円の支援金を拠出し、一般の賛同者からの募金も1,000万円を超える。
太陽光発電設備については2011年9月から2014年3月まで、岩手県・宮城県・福島県の3県で総計50校の助成を予定しており、宮戸小以外にも同県の白石市立白石第一小学校などで発電が始まっている。宮戸小の場合、学校で使用する電力のほぼすべてをまかなうことのできる太陽光パネルと、蓄電池の設置費用全額を同基金が負担した
2011年3月の東日本大震災でこの島も大きな被害を受け、島と本土とをつなぐ唯一の県道が通行できなくなり、約2週間にわたり孤立状態となった。宮戸地区に住む人の多くが宮戸小に避難したが、電気の供給が回復するまでに約1ヵ月半かかり、避難所としての機能強化が課題となった。そこで、太陽光パネルを設置して電力を確保するとともに、学校の防災機能強化を図った。 太陽光パネルによる蓄電は1日に最高で10kW可能で、これは一般家庭で使用する電力の約3日分にあたる。宮戸小では災害により電力供給がストップすると自動的に蓄電池からの供給に切り替わり、職員室と保健室で電気が使えるようになる。1日約6時間使用しても、最大で約3日は使い続けることができる。太陽光発電による電気を加えれば使用可能時間はさらにのびる。
白石小でも同様の取り組みを行っているほか、設置を機に企業の教育支援活動に応募して、地球環境と新エネルギーに関する出前授業を受ける予定もある。同基金は今後も被災地の学校で太陽光パネルや蓄電池を設置して、エネルギーの地産地消に取り組む地域の手助けを続けていく考えで、2012年9月からは第2期の助成対象校の募集を予定している。
自分たちが使う電気を自らの手でつくろうという動きは、再生可能エネルギーのFIT(固定価格買取制度)が追い風となって全国に広がっている。2012年7月にスタートしたこの制度は、太陽光や風力などの再生可能エネルギーにより発電された電気を、電気事業者が一定の期間と価格で買い取ることを義務付けたものだ。
神奈川県はこの仕組みを活用して公共施設への太陽光発電設備の導入を進めようと、全国に先駆けて県有施設の「屋根貸し」による太陽光発電事業の参加事業者を公募し、4事業者を決定した。屋根貸しの対象となる20施設のすべてに太陽光パネルが設置されると、発電容量は合計で約 2,214kW、年間発電見込量は232万7,588kWhにもなる。一般家庭約665世帯が年間に使用する電力に相当する数字だ。
FITの開始を受けて、企業によるソーラービジネスも活況を呈している。積水化学工業・住宅カンパニーは、10kW超の太陽光パネルを搭載した賃貸住宅「BIGソーラー」を、沖縄など一部地域を除く全国で提案している。家賃だけでなく屋根を使った賃貸経営をオーナーへ提案することで、長期にわたる安定経営と収入の拡大を図る。
また、大和ハウス工業は、メガソーラー事業の第一弾として同社が所有する福岡県北九州市の「ひびき国際物流センター」の屋根に、九州地方で最大規模の総出力2MWのメガソーラーを建設し、2012年10月から発電した電力を九州電力へ売ると発表した。同社では岡山県赤磐市の岡山第二工場にも発電容量816kWの太陽光パネルを設置しており、全量を売電する計画だ。
異業種参入や、新たなビジネスモデルも登場している。インターネット通販大手の楽天は、家庭向け太陽光発電システムのシミュレーションや申し込みなどをインターネット経由で行うことのできる「楽天ソーラー」を開始した。
一方、三井住友海上火災保険は、メガソーラーを運営する事業者を対象に、日照不足や火災、賠償責任などのリスクをパッケージとして補償する「メガソーラー総合補償プラン」を販売している。
2012年6月には工場立地法関連の省令や準則が改正され、売電用の太陽光パネルが環境施設に位置付けられるなどさらなる追い風もあり、官民による太陽光発電ブームはまだまだ続きそうだ。
太陽光だけではない。風力発電に関しては、日立製作所が2012年7月に世界初となる5MW級のダウンウィンド洋上風力発電システムの開発に着手したと発表した。丘陵地帯など吹上風が吹く地帯で発電量が多くなる特長を持つシステムであり、2015年度の販売開始を目指す。洋上風力発電については国土交通省と環境省がマニュアルを作成しており、実証事業が進められている。
また、夏の節電に備えた取り組みとして、トヨタ自動車は同月、最新の高効率コジェネレーションガスエンジン発電機を8基新設するとともに、新開発のエネルギーマネジメントシステムを全工場で導入すると公表して話題を呼んだ。
さらに、未利用エネルギーとして注目される地熱発電について、福島県福島市の土湯温泉で国立公園内での発電に向けた動きが始まった。
スマートグリッドの実用化に向けた取り組みは国内外ですでに始まっている。三菱商事、三菱自動車、三菱電機の3社は、スマートグリッド実証実験装置「M-tech Labo」を、2012年4月に愛知県岡崎市にある三菱自動車名古屋製作所内で稼動開始した。
M-tech Laboは、屋根に設置された20kWの太陽光パネルと、放電可能な5台の電気自動車(EV)「i-MiEV」、そしてEVから回収された80kWhのリユース蓄電池で構成されている。出力が不安定な再生可能エネルギーや夜間電力をこの蓄電池に充電して、工場やオフィスの電力需要がピークとなる時間帯に供給することで、電力需要を平準化する。EVと蓄電池を組み合わせて、運行や充放電に関する情報を管理して電力供給に生かすEIS(Electric Vehicle Integration System)という考え方に基づく実験だ。将来的に、EVや蓄電池の走行用以外への利活用や、リユース蓄電池の活用に役立つ。
グループ3社が技術やノウハウを結集して取り組んでいる点も注目される。三菱電機はEISと、EV蓄電池やリユース蓄電池を利用したエネルギーマネジメントシステムの検討を行う。また、三菱自動車がi-MiEVからの放電機能開発と走行目的以外でのEV充放電が車両に与える影響を検討し、三菱商事はプロジェクト全体のコーディネートや蓄電池を活用した電力関連事業の検討を行う。
EISを中心とする先進的なスマートグリッドが実現すれば、駐車中のEVの蓄電池やリユース蓄電池を活用した「電気のやりくり」(電力需要の平準化(ピークシフト))が可能になるかもしれない。3社では約1年かけて、M-tech Laboから供給される電力による生産本館の電力変動低減などの効果を検証し、将来のビジネス展開につなげていく。
再生可能エネルギーの大量導入が進むとともにEVの普及が進み、リユース蓄電池の流通が社会に浸透すれば、スマートグリッドをフル活用したスマートシティやスマートコミュニティが各地で整備されていくことが期待される。とはいえ、スマートグリッドを構築するには、充放電に関する技術開発や放電機能の規格化、電力融通に伴う系統全体への影響など、技術や運用面で解決すべき課題は多い。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)やスマートコミュニティ・アライアンス(JSCA)などが2012年5月に開催した「スマートコミュニティサミット2012」では、EVや蓄電池の活用に加えて、電力の地産地消を可能とする小規模な電力供給網の「マイクログリッド」や、地域内の各家庭に取り付ける通信機能付きの電力量計の「スマートメーター」の重要性が確認された。
家庭での電力使用量を「見える化」する機能を持つスマートメーターは、すでにアメリカやスウェーデン、イタリア、スペイン、イギリス、フランスなど欧米各国で導入が開始されており、義務化している国もある。中国や韓国、オーストラリア、インドなどでも導入に向けた取り組みが進められている。
日本では2014年度から東京電力管内で導入が始まる予定で、東電と原子力損害賠償支援機構がその仕様についての考え方を公表している。スマートメーターが普及すれば、一般家庭などの需要者と電気事業者、そして節電サービス事業者などの間で、電力需要や太陽光パネルによる発電や売電、家電機器の使用状況などに関する情報を、インターネットや携帯電話を通じてやり取りできるようになる。企業や市民がつくった電気を賢く使うためのツールとして期待がかかる。
電気を自らの手でつくり出すことに加えて重要なのが、エネルギーのムダをなくす省エネだ。よく知られている通り、日本は省エネにかけて世界でトップクラスの実績と実力を持っている。2011年の震災後に課された厳しい節電目標をクリアできたのも、2度の石油ショックを乗り越えるだけでなくその経験を糧として最先端の省エネ技術を磨くとともに、省エネに対する意識を市民や企業、行政などさまざまな立場の人が醸成してきたからにほかならない。その成果ともいえる建築物が、またひとつ東京に誕生した。
清水建設は2012年8月1日、東京都中央区京橋に完成させた超環境型オフィス「清水建設新本社」の営業を開始した。延床面積約5万1,800㎡、高さ約110mにもなるこの超高層ビルは、同社が持つ環境と省エネ技術を結集することでCO2削減量50%を実現するカーボンハーフビルとして計画された。建物の環境性能を評価するCASBEEの審査ではSランクを取得し、過去最高得点となる9.7ポイントを記録した。
新本社には、あらゆるところに最先端の環境・省エネ技術が息づいている。ビルの顔ともいえる外装には、外周部にある柱や梁を細分化して構築したフレーム内に、ガラスと耐震パネル、そして太陽光発電パネルを組み込んだ「ハイブリッド外装システム」を採用している。
オフィスはワークエリア、コラボレーションエリア、サポートエリアの3つのエリアから構成されており、照明と空調の両方で、個々の作業空間(タスク)と室内全体(アンビエント)をバランスよく調和させる「タスク&アンビエント方式」を導入した。
照明では机上のLED照明スタンドがタスク、天井面のLED照明がアンビエントの役割を果たす。一方、空調では各人の机下に設ける給気口がタスク、輻射空調システムがアンビエントを受け持つ。この結果、就業時間中の照明による消費エネルギー量を約9割、空調にかかるエネルギーを約3割削減できる。
また、中央監視システムにより個々のパソコンの使用状態を管理して、消費電力量を最大で約3割削減する。
さらに、ビル全体で使うエネルギーを効率よく制御するため、商用電力に加えて太陽光発電と蓄電池を併用した同社独自のマイクログリッドシステムを構築している。平常時における電力使用量のピークカットに貢献するだけでなく、停電時には電力供給を途切らすことなく自家発電に切り替わるというから驚きだ。
太陽光パネルは多結晶型と薄膜型の2種類を合計で962枚設置しており、年間発電量は約8万4,000kWhを見込む。順調にいけば、このビルで昼間使用するLED照明の年間エネルギー量をまかなうことができる。太陽光発電により削減できるCO2排出量は年間で30tに上る。
清水建設は、新本社ビルを平常時の環境対策と非常時の事業継続機能を融合した、「ecoBCP」のショールームとして顧客などを対象に公開していく。2015年までにCO2削減率を70%に高め、その後は排出権取引の仕組みなどを生かしてカーボン・ゼロを実現する考えだ。
ビルや住宅で消費するエネルギーを限りなくゼロに近づける取り組みは社会に浸透しつつあり、それを後押しする動きもある。国土交通省は2012年7月、CO2の削減効果が高いビルや住宅などの整備費を補助する「住宅・建築物省CO2先導事業」について、採択結果を発表した。独立行政法人建築研究所に置かれた有識者からなる委員会による評価結果を受けて決定した。
これまでも、戸田建設のTODA BUILDING青山や渋谷ヒカリエなどが採択されている。今年度は、愛知県や沖縄県における環境共生型の開発プロジェクトや、被災地で省CO2型戸建て住宅を整備するプロジェクトなどが採択された。
一方、一般社団法人環境共創イニシアチブなどが運用するゼロ・エネルギー化推進室は、2030年における住宅のネット・ゼロ・エネルギー化を目指して、省エネに取り組む建築主などを支援する「ゼロ・エネルギー支援事業」を行っている。年間の一次エネルギー消費量が正味(ネット)でゼロであることや、一定の断熱性能を持つことなどが補助の条件だ。
実は大丸有にも、環境や省エネへの配慮を盛り込んだ最先端オフィスを提案するスペースがある。新丸ビル10階の「エコッツェリア」は、このエリア内で行われている環境活動や、ビルやインフラの高効率化などの環境技術を実証し、効果を提示する次世代低炭素実証オフィスだ。一般社団法人大丸有環境共生型まちづくり推進協会(エコッツェリア協会)が運営しており、会議室の利用や見学の予約も受け付けている。
特にオフィス空間を演出する大事な要素である照明と空調に関しては、知的照明システムと輻射空調システムを導入。スタッフがこれらのシステムを日常的に利用することで、省エネ性能を最大限に発揮するための最適化制御の方法を明らかにするため、実証数値の計測や性能評価を行っている。 また、内装材に3R(リユース、リデュース、リサイクル)の考え方を採り入れたり、丸の内朝大学など環境イベントの開催拠点となったりすることで、丸の内発の新たな環境文化の創造をめざす。
電気の地産地消やその賢い使い方、省エネなどについて紹介してきた。とはいえ、オフィスワーカーや市民が節電や省エネに取り組もうと思っても、何から手をつけてよいのかわからないというのが本音だろう。でも大丈夫。東京都は2012年5月、オフィスや家庭における省エネ対策の基本となる「賢い節電」のメニューをまとめた「東京都省エネ・エネルギーマネジメント推進方針」を公表した。身近なところから始められる省エネ・節電マニュアルだ。賢い節電の基本原則として次の3つをあげている。
1. 無駄を排除し、無理なく「長続きできる省エネ対策」を推進
2. ピークを見定め、必要なときにしっかり節電(ピークカット)
3. 経済活動や都市のにぎわい・快適性を損なう取り組みは原則的に実施しない
その上で、オフィスと家庭向けにそれぞれ7か条の対策を示している。都がめざしているのは、省エネや賢い節電の徹底と定着を進めていくことだけではない。地道な取り組みを積み重ねた先にある、低炭素で快適、かつ防災機能の高い「スマートエネルギー都市」への転換を図ることだ。そのために民間のデベロッパーや建設会社などと協力して、ゼロエネルギービル(ZEB)化やエネルギーマネジメントシステムの導入に取り組む。
省エネアイテムとして忘れてならないのが、LEDをはじめとする次世代照明だ。環境省と経済産業省は2012年6月、照明の省エネについての理解と行動を促す一大キャンペーン「あかり未来計画」を開始した。同時に、電球や照明機器メーカーと消費者団体などから成る「省エネあかりフォーラム」に対して、電球型蛍光ランプやLED照明などの高効率な照明製品の普及促進に力を入れるよう要請した。今後、キャンペーンなどを展開していく。
資源エネルギー庁の省エネ対策課は、「LED電球などの普及に加えて、省エネに力を入れる企業を支援する『エネルギー使用合理化事業者支援補助金』などのメニューも用意しているので、活用してほしいですね」と話している。
夏を無理なく、気持ちよく過ごす知恵はほかにもある。環境省やエコッツェリア協会は2012年7月27日の夕刻、丸の内行幸通りで「大手町・丸の内・有楽町 打ち水プロジェクト2012」を共同で開催した。同省が行っている「クールサマー2012」の一環として、大丸有地区の企業などとともに打ち水を実施した。また、8月31日まで大丸有エリアの有志店舗による毎年恒例の「打ち水Weeks」も行われている。
また、同省は9月末まで、軽装やエアコンの設定温度を28℃にすることなどを呼びかける「スーパークールビズ」を、チャレンジ25キャンペーンの一環として実施している。チャレンジ25などを担当する地球環境局地球温暖化対策課の国民生活対策室は、今年の傾向について次のように話す。「2011年は震災の影響もあって、節電が一部強制力を伴って呼びかけられました。今年はそこまでの要請はないのですが、多くの事業者が前年の経験や反省を生かしながら、間引き照明やエアコンとファンの併用などさらなる節電にチャレンジしています」。省エネや節電が一過性のブームに終わることなく、取り組みを継続ながら育てていく段階に入ったということだろう。
企業や市民が自ら電気をつくり、賢く使い、節約していく土壌は整った。社会に根付くかどうかは、各主体によるこれからの努力にかかっている。
再生可能エネルギーの大量導入や節電の習慣化などいいことずくめのようだが、うまい話ばかりではいかない。内閣府は2012年度版の経済財政白書で、新たな固定価格買取制度について「公正妥当な価格改定をしていくべき」と、買取価格の引き下げを暗に示した。東電管内でのスマートグリッドの本格導入時期は当初予定から1年先にずれ込み、省エネ関連でも消費者庁が一部のメーカーに対してLED電球の明るさ不足で措置命令を行うなど、課題は少なくない。新しい分野だからこそ、担い手には時代の風に乗る大胆さだけではなく、石橋を叩いて渡る慎重さが必要なのかもしれない。