ワーキンググループ環境経営サロン・インタビュー

【環境経営サロン】環境共生型まちづくりと、地球に貢献できる人材育成を一体で進める  慶應義塾SFC未来創造塾の壮大な実験

地球の未来を築く人材を育てる

2013年10月1日に開催された第3回「環境経営サロン」。慶應義塾大学大学院・政策メディア研究科の池田靖史教授が「慶應義塾SFC未来創造塾の環境融和プロジェクト」と題してプレゼンテーションを行った。

「地球の未来を築く人材を育てる、というスローガンのもと、既存のキャンパスを拡張して新たな滞在型教育研究施設を作る構想を進めている。短期長期の滞在が可能となり、優秀な人材を世界中から呼び込み、慶応大学の交流・研究におけるグローバルゲートウェイとなることを目指している」

第3回のゲストとしてスピーチする池田靖史教授エコッツェリアで開催されている「環境経営サロン」。第3回のゲストとしてスピーチする池田靖史教授

25年前、既存のジャンルを超えた学際的研究の場として生まれた慶応大学湘南藤沢キャンパス・通称SFC。
画一的・単線的教育システムからの脱却を目指し、「問題発見解決型」「創造性開発型」教育を展開してきたSFCには、境情報学部、総合政策学部、看護・医療学部という三つの学部と大学院がある。

藤沢市の緑豊かな郊外に位置するこのキャンパスに、2015年秋、新たな教育施設が誕生する。「SFC未来創造塾」だ。
建設委員長を務める池田教授の研究室を訪ね、現在の研究と「SFC未来創造塾」構想の可能性について話を聞いた。


環境共生型研究空間「森アトリエ」へ

小田急線・相鉄線湘南台駅から車で約15分、SFCの入口が見えてきた。日本を代表する建築家・槇文彦が設計したキャンパスが現れる。中央のコンクリート建物の前面に大きな階段が。ゆるやかな傾斜が緑の丘や池と溶け合う。

建築家・槇文彦が設計したSFCのキャンパス建築家・槇文彦が設計したSFCのキャンパス。周囲の緑、円形の建物と池が美しく調和している。

林の中を数分歩くと、テニスコートが見えてきた。その隣に、大きなガラスから光が降り注ぐ部屋がある。森の別荘かコテージのような雰囲気だ。ウッドデッキから一歩中に入ると、ソファに本棚、まるでリビングのような空間。ここが「森アトリエ」、池田靖史教授の研究室だ。

ソファと本棚、リビングのような雰囲気の空間。ソファと本棚、リビングのような雰囲気の空間。

「10年ほど前に環境共生型研究空間のプロトタイプとして設計した建物です。そのころにはデザインスタジオ棟と呼び、15~20名程度の人が研究に集中できる建物が、全部で5棟あります。コンクリートの巨大な建造物とは対極的に、小規模単位の建物がいくつか分散し、互いにネットワークするというイメージです」

環境と融和し、エネルギー利用を抑え、人が心地よい空間とはどうあるべきかを考えて設計された研究室だという。
「季節によって換気をモードチェンジし、快適な空気の流れを創り出します。大きなガラス窓は借景のように周囲の緑を取り込む役割を果たし、階高を押さえ吹き抜けを取り囲むように部屋を配置したことで、つながりと独立性の両方を確保しました」

組木や継ぎ手など在来技術も駆使した梁構造組木や継ぎ手など在来技術も駆使した梁構造

組木や継ぎ手など在来技術も駆使した独自の梁構造はジョイントが少なく、伸びやかでシンプルな空間を生み出している。
研究のための部屋だけでなく、キッチン、シャワー、アトリエ等も備えている。
「泊まり込みも可能です。住宅的な機能と研究空間、集中とリラックス、両方の機能をあわせ持つことも特徴となっています」

集成材などの木材を多用している。池田教授は、「木材はCO2削減といった環境的な価値だけではなく、質感としても優れた素材です」と指摘する。
「例えばコンクリートの校舎にいると、冬は非常に冷えますよね。あれは冷輻射が原因です。それに対して木材は一定の温度を保ち、人の体感・触覚に心地よいぬくもりがある。その他にも、実は木材には大きなメリットがあります。コンピュータ制御で複雑な形状にカットする際の素材としても適しているのです」

池田研究室では、レーザーカッターやロボットアームといったデジタル制御技術を、木という自然素材と組み合わせ、さまざまな構造物を作る技法を研究してきた。小さな部品の集積による木造建築物は、更新も容易でサステナブルだという。木材とは、エコでありかつ先端的な情報技術と親和性のある素材だ。

震災後、気仙沼小学校で行ったワークショップ震災後、気仙沼小学校で行ったワークショップの一コマ。木材をデジタル技術で魚の形にレーザーカットし応援メッセージを書いて掲げた。日頃の研究の成果と社会課題とを結びつける試みでもある。

「慶應型共進化住宅・エコハウス」はF1に参加するような意気込みで

今、池田研究室では経済産業省の「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス標準化に係わる調査・実証事業」に参加している。学内で横断的な研究チームを立ち上げ、「慶應型共進化住宅・エコハウス」のプロトタイプを作っているところだ。 デザインスタジオ棟を建設する中で得たアイディアを、さらに発展させ、環境負荷を最大限低減しつつ健康を維持できる、新しいエコハウスを提案する。

六本木ミッドタウンで開催されたSFCオープンリサーチフォーラム会場六本木ミッドタウンで開催されたSFCオープンリサーチフォーラム会場。「慶應型共進化住宅・エコハウス」模型が展示された

完成形は2014年1月、エネックス2014というイベントで披露される。
「東京大学、早稲田大学、芝浦工大、千葉大の提案する各エコハウスと競いあうことになりますが、我々としてはエネルギーや環境技術の側面のみならず、生活する人の体温や脈拍といったデータを自動測定し、そのデータを空調や照明等の制御に反映させていく、新しいシステムを提案したい。健康を維持し、環境、エネルギーの課題も解決できる、複数の価値を持つエコハウスを実現させたいと思っています」

28の企業と産官学コンソーシアムを組んで提案する「慶応型共進化住宅・エコハウス」。「エコハウスのF1だと思ってください」と池田教授は語った。

「最先端技術をとことん詰め込み、そこから使える技術をアウトプットしていく、という意味あいです。ハード的にはすでに完成している技術もたくさんある。それをいかに組み合わせて、人にとって意味のあるシステムにできるのか。ソフトの部分も重要です」

慶應型共進化住宅・エコハウス「慶應型共進化住宅・エコハウス」はエネルギーも自律型だ。アジアのインフラ未整備地域にも対応させたいという。

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日本最大の「滞在型教育研究施設」で世界へのゲートウェイを

日本最大の「滞在型教育研究施設」で世界へのゲートウェイを

「SFC未来創造塾」の青写真「SFC未来創造塾」の青写真。180名の滞在が可能な教育研究施設が誕生する(第一期)こうして、最先端の研究現場から編み出されていく環境技術。いかに効果的にアピールし、全世界へ流通させていくか。日本全体の課題だろう。
国を超えて人が集まり、地球の課題を解決していく新たな拠点が2015年秋、ここSFCに姿を現す。「SFC未来創造塾」構想だ。

「未来創造塾」の第1のポイントは、日本最大の「滞在型教育研究施設」を作ることにある。
「志ある若者が滞在しながら学ぶことによって本物の知力を身につけ、また多数の留学生や海外の研究者が交流する創造的な場となる。地球規模の問題の解決を推進できるような、知的環境創りを目指します」

現在のキャンパスに隣接する更地現在のキャンパスに隣接する更地に、新しい滞在型施設が誕生する予定。

第2のポイントは、環境共生型のまちづくり。周辺地域の発展にとっても大切な足がかりとなるチャンスだと池田教授は言う。

「医療施設の充実を考える藤沢市とも連携して、健康や環境共生を実現する新しいスマートシティの実験場としてこの機会を活用したい。私たちが研究している慶應型共進化住宅・エコハウスは、新しいまちにとって有効なモデルとなるはずです」

都心から時間のかかるアクセスも、この機会に大きく変わる可能性を秘めているという。相鉄線を2駅延長させ、SFCの近くに新駅を作るプランが議論されている。それが実現すれば、相鉄線、東横線、JR、東京メトロ(目黒線)が相互乗り入れとなり、慶應大学の三田キャンパス、日吉キャンパスなど6つのキャンパスがすべて、一本の線で繋がれる。

優秀な人材を世界中から呼び込み、慶応大学の交流・研究におけるグローバルゲートウェイとなり、地球に貢献できる人材育成の場となる。それのみならず、環境共生型まちづくりと一体で進められる「SFC未来創造塾」。

日本の環境技術の粋が、「まち」という形になって現れる絶好のチャンスだ。

「技術というものは、人間が本当の意味でエコで健康的に暮らすことに使われるべきです。その壮大な実験場がSFCに生まれるのです」という池田教授の言葉が印象的だった。

環境経営サロン

環境経営の本質を企業経営者が学びあう

エコッツェリアに集う企業の経営者層が集い、環境まちづくりを支える「環境経営」について、工夫や苦労を本音で語り合い、環境・CSRを経営戦略に組み込むヒントを共有する研究会です。議論後のワイガヤも大事にしています。

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