世界有数のビジネスセンターにして、歴史と浪漫とアートに彩られたまち・丸の内。一人で歩くだけでも、いろいろな発見があって楽しめますが、「今まで知らなかった、丸の内の意外な魅力に触れてみたい」、そんな方には3つのコースの「丸の内ウォークガイド」がお勧めです。
「丸の内ウォークガイド」は、火曜日、木曜日、金曜日にそれぞれ、浪漫・歴史・アートといったテーマで定期開催されていますが、今回は、木曜日に開催される「歴史色づく街の探訪~江戸東京・今昔物語~」コースから、道中で出くわすトリビアネタをいくつかご紹介します。
スタート 三菱ビル
↓ 東京中央郵便局(葉書の木)
↓ 丸の内oazo
↓ 一石橋
↓ 日本橋
↓ 三井本館
↓ 日本銀行本店本館
↓ 常盤橋
↓ 大手町ビル (休憩)
↓ 将門塚
↓ 和田倉噴水公園
ゴール 丸ビル
丸の内oazoに店舗を構える「丸善丸の内本店」は、松岡正剛氏とコラボレーションした「松丸本舗」でいま注目を集めています* 。もう一つ、ここには知る人ぞ知る目玉スポットがあります。
それが、ハヤシライスの原点です。
丸善の創業者、早矢仕有的(はやし・ゆうてき)は、福沢諭吉の門人で、幕末の早い時期から西洋文化に親しんでいました。もともと医者だった早矢仕氏は、ライスと一緒に食べる栄養豊富な肉と野菜の西洋風ごった煮を考案し、友人たちにも振る舞いました。友人たちは、これを「早矢仕さんのライス」ということで「ハヤシライス」と呼び、日常的に食するようになったということです。
これはハヤシライスの起源に関する一つの説。諸説あって真相は定かではありませんが、「丸善丸の内本店」では、「松丸本舗」と同じ4階のエムシーカフェで、「早矢仕ライス」を提供しています。ぜひ一度ご賞味あれ。
丸の内oazoの北側、永代通りと外堀通りが交わる呉服橋の交差点。勘のいい人はお気付きかもしれませんが、「外堀通り」はかつての江戸城外堀。ここに架かっていた橋の名「呉服橋」は、交差点付近に、幕府の御用呉服商の後藤縫殿助(ぬいのすけ)が屋敷を構え、一帯が呉服町という町名だったことに由来します。
外堀通りを北に上ると、日本橋川を跨ぐ一石橋(いっこくばし)に辿り着きます。この橋の名前の由来がまた面白い。
一石橋の南に位置する呉服橋付近に呉服商の後藤さんが住んでいたことは先ほど記した通りです。実は、一石橋を北に渡ったところに住んでいたのも後藤さんでした。こちらの後藤さんは、幕府金座御用といって、小判(金貨)の鋳造を命じられた後藤庄三郎といいます。ちなみに、金座の跡地が今の日本銀行本店です。
石(こく)とは、当時の体積の単位で、一石=十斗=百升=千合です。橋の南北に後藤さんが二人住んでいるから、「後藤(五斗)」×2=「十斗」、すなわち「一石」というわけです。橋の名前を洒落で付けてしまうなんて、日本人の言葉遊び好きは、今も昔も変わらないということですね。
三井本館と三越本店がある交差点の一角に、「タロー書房」という書店の看板が見えます。書体が何とも可愛らしい、と思って眺めていたら、「岡本太郎さんが書かれたんですよ」とガイドさん。よく見ると、「タロー」の「タ」の字の頭には、太陽の塔を思わせるイラストがあります。店主が岡本太郎と仲が良かったということです。岡本太郎ファンは、ぜひ訪れてみたいところではないでしょうか。
三井物産ビルの隣にひっそりと佇むのは、平将門公の首をお祀りする将門塚です。
将門公を御祭神とする神田明神は、かつてこの地にあったといわれ、将門塚との縁も一方ならぬものがあります。毎年9月には、将門公の御霊をお慰めする将門塚例祭が開かれ、2年に1度開催される神田祭では、鳳輦を携えて神事が執り行われます。
江戸時代、この地には、酒井雅楽頭(さかいうたのかみ)という徳川譜代大名の屋敷がありました。酒井雅楽頭と言えば、古くは、伊達藩のお家騒動「伊達騒動」を描いた歌舞伎『伽羅先代萩』(めいぼくせんだいはぎ)や山本周五郎の小説『樅ノ木は残った』に、近くは「2010年本屋大賞」の第1位を獲得した冲方丁(うぶかた・とう)の小説『天地明察』に、重要な登場人物の一人として登場します。
この『天地明察』は、日本の暦について描いた長編時代小説です。中盤以降の、笑いあり涙あり、夢あり挫折あり、恋愛あり友情あり、爽快な人間ドラマはお見事。楽しみながら、日本の歴史や文化、暦について勉強までできちゃう、個人的にお勧めの一冊です。
行くところどころが面白いのはもちろんですが、「ウォークガイド」の最大の魅力は、なんといっても個性豊かなガイドさんではないでしょうか。
今回ガイドをしてくださった柊昌夫(ひいらぎ・まさお)さんは、御年70歳にして、毎年フルマラソンを走る健脚と、遠くまでよく通る豊かな声量の持ち主です。柊さんの圧倒的な存在感に、出だしは気圧され気味な場面もありましたが、時間が経つにつれ、柊さんの該博な知識と風刺が効いた辛口のコメントの魅力にぐいぐい引き込まれていきました。
「人が変わっても同じことしか喋らないんだったら、録音の音声ガイドと変わらないでしょ。人によって解釈や説明の仕方が違ったり、芸風が違ったりするから面白いのよ」とは、同行されたガイドの方のお言葉です。
柊さんに会いに行くもよし、他のガイドの方との出会いを楽しむもよし、まちの魅力と人の魅力に同時に触れられる、「丸の内ウォークガイド」をぜひともお試しあれ。
* 「松丸本舗」は、以前こちらでも紹介しました。
出版不況に活!客単価2倍の、松岡正剛氏プロデュース丸善本店「松丸本舗」のヒミツ
* 写真1枚目:東京駅丸の内口にある東京中央郵便局の旧局舎。外壁部分を残して2012年に「JPタワー」として生まれ変わる予定です。
* 写真2枚目:ハヤシライスのふるさと、ここにあり!?
* 写真3枚目:「しはくこちい」を右から読んで、「いちこくはし」(一石橋)です。
* 写真4枚目:タロー書房。字体に岡本太郎の雰囲気が見て取れます。
* 写真5枚目:将門塚。歴史の舞台にもなりました。
* 写真6枚目:ガイドの柊さん。御年70歳と思えないほどパワフルです。
・開催曜日:毎週木曜日
・所要時間:休憩を挟んで3時間半程度(14:00~17:30くらい)
・参加費:1,500円(喫茶代含む)
丸の内ウォークガイド 詳細