東日本大震災の被災地に、その他の地域の人々が花の苗を育てて送り、花を咲かせる「ひまわりプロジェクト」。「丸の内朝大学」から生まれたこの取り組みで、7月までに関東一円から宮城県の仙台市、名取市に植え替えられたひまわりの苗3000株が大きく育った。8月に入って満開の花を咲かせている。そして花以外の地域を元気にする交流も、さまざまな形で生まれている。
名取市の「美田園花の広場」(みたぞの)では、8月末に約1000本のひまわりが一斉に開花した。ここは仮設住宅に隣接し、津波に襲われて家が壊れた人々が住んでいる。被災地では、仮設住宅に住む人々や小中学校の生徒が、花を一生懸命育てた。
震災のときに、仙台空港に逃げ込み一夜を過ごした仮設住宅にすむ60代の農家の主婦は毎日、ひまわりの世話をする一人だ。「苗を育ててくれた関東の人のため、枯らしてはいけないと思った」と思いを述べる。農家の20代の女性は震災のときに父と妹と車で避難した。ところが津波で道路が冠水して動けなくなり救助が来るまで、車中で一夜をすごした。「ショックからは立ち直ったけど、嫌な思い出。目の前のひまわりを育てると、それを忘れられる」という。
仙台市では12の公立小中学校の生徒が、学校や地域の公園・コミュニティ施設などで送られた苗を大切に育てた。被災地の人々には、ひまわりを育てること、眺めることが心の癒しになっている。
このプロジェクトは、大手町・丸の内・有楽町(大丸有)地区の街づくりを行うエコッツェリア協会が、イベント「朝大学」で4月に震災の被災地のためにできることを話し合ったことをきっかけに生まれた。育てる苗に選ばれたのは、見ると元気が自然と沸く、ひまわりだった。
朝大学の参加者にも苗を育てる呼びかけが行われた。大学や企業の職場単位、老人介護施設、小中学校や保育園、また市民それぞれが個人で苗を育て、ひまわりプロジェクト実行委員会を通じて被災地に送った。さらに栽培にかかわった人は推定で数千人。誰もが被災地の復興を願った。
そして花を媒介にして、多くのつながりが生まれた。関東一円で花を育てた人が植えられたひまわりを見に訪れ、育てた人々との交流が生まれている。名取市の美田園地区では住む人によって苗を育てる園芸クラブが立ち上がった。
仙台市に本社を置くアイリスオーヤマはひまわりプロジェクトを聞き、共感して協力を申し出た。同社がプランターなどを提供して園芸クラブとともに『プランターではじめるハーブのある暮らし』という講習会が8月21日に美田園で行われた。講師には著名なフードニスタの浜田峰子さんが登場。ハーブを育て、それを料理に使って仮設住宅での暮らしを少しでも楽しんでもらう試みだ。「困っているときの手助けと善意をありがたく思う」。参加した60代の主婦は話していた。
「さまざまな園芸活動や、講習会など長く続く取り組みを行いたい。復興した被災地が、花にあふれる光景をみたい」。プロジェクト実行委員会の日比谷花壇・武山直義さんは活動の発展に期待を寄せている。
大丸有の人々の善意から始まったひまわりプロジェクト。その善意が広がり、大丸有と被災地をつなげ、東北の復興を支える動きの一つに成長した。