エコッツェリアの会員企業のCSR担当者が集まって、よりよい「環境コミュニケーション」のあり方とは何か、そしてそれをどう伝えていけば良いのかをワーキングショップ形式で考える環境コミュニケーションワーキング。
前半は4回にわたり、ゲストを迎えての座学中心で学んできました。後半は、引き続き新時代のCSRの潮流を学びつつ、参加者が自社のCSRのポスターを実際に制作し、現在取り組んでいるCSR活動の一覧を作成。その成果を「エコのまど」という冊子としてまとめ、パネル展示発表会も行うといった、実践を通したワーキングショップに重きを置きます。
前半4回の記事はこちら
昨今、従来のCSRという型にはおさまらない、CSRの枠組みを超えた考え方が必要なのではないかという機運が世界的にも高まってきており、3.11以降その流れはさらに加速しています。CSRの向こう側にはなにがあるのか、どうすればそこにたどり着けるのか――3月まで、このテーマを模索していきます!
さて、後半1回目の今回は「各社CSRの相互評価とディスカッション」と題し、新時代の環境コミュニケーションを、記憶に焼き付くアイデアを研究したチップ・ハース、ダン・ハースによる『SUCCESsの法則』(参考:『アイデアのチカラ』(2008、日経BP社) )というフレームを使ってワークショップを行いました。講師は鈴木菜央氏です。
ある研究によると、人は起きてから寝るまで1日3000件の情報に触れると言われています。通勤途中の電柱、会社に着きチェックするemail、雑誌にテレビ......自社のCSR活動を知ってもらうためには、そういったあらゆる情報を相手とするタフな戦いに挑まなければなりません。
アイデアは都市伝説のように勝手に広がっていくものもあれば、ほんの数人にしか伝わらないものもある。情報洪水の戦いを勝ち抜ける、記憶に焼きつくアイデアとは一体どんなものなのでしょう?
『SUCCESs』は、「単純明快である(Simple)」「意外性がある(Unexpected)」「具体的である(Concreate)」「信頼性がある(Creadible)」「感情に訴える(Emotional)」「物語性がある(story)」のそれぞれの単語の頭文字を合わせた造語です。
具体的に1つずつ見ていきましょう。
これは聖書の言葉ですが、たった一行と短いながら、多くの人が一生守ろうとするほど深い言葉。意味のあるメッセージが強烈に短い文章になっている良い例です。
自分の活動のなかでアイデアの核となっている部分はなにか。あらゆる要素に優先順位をつけ、本当に重要なものを選び、それだけを伝える。単純明快であることの素晴らしさがよくわかりますね。
昨年新聞をにぎわせたゴシップですが、なぜこんなに話題になったのでしょうか。
タイガー・ウッズと言えば、品行方正、フェアプレー精神にあふれ、人柄もよいと、誠実さの塊のような存在。そんな彼が実は○○していたなんて!と、世間一般の予想を裏切ったというのが最大のポイントです。たとえば、堅い会社であれば、柔らかい表現を使ってみるなど、まず最初に興味を引きつけ、そして興味を持ち続けてもらうとことが大切です。
「人生にはさまざまな選択肢があるが、両方を追い求めようとするとどちらも手に入らない云々」などと、さまざまな現象や活動を説明しようとすると、どうしても抽象的にならざるをえないことはよくあります。が、同じことを言っているにもかかわらず、兎に置き換えた具体的な格言のほうがイメージしやすく心に残る。これは、脳は具体的なものを記憶するようになっているからだと言われています。
『7つの習慣』を書いたスティーブン・コヴィーの言葉ですが、ある調査で「自分の会社がなにを、なぜ目指すかを知っていますか?」というアンケートをとったところ、理解していたのは37%の社員のみという結果に。会議の場で報告するも「まあ、そんなものか」と反応が鈍い。そこで「サッカーに置き換えると、自分たちのゴールがわかっている選手は11人中4人だけということです」と伝えた途端、「それは大変!」と一瞬で理解されたそうです。
自分の経験や人生を振り返ってシミレーションしてもらえる表現であるかどうかがポイント。信頼性のあるアイデアとは「そうそう」「たしかに!」など自分で検証してもらえるからこそ、落とし込まれ、信じてもらえるものなのです。
あるNPOはアフリカの貧困に対してアクションしていこうというキャンペーンを長年続けていたが、あるときこのキャッチに切り替えたところ、一人あたりの寄付金が倍増するという結果に。
アフリカの貧困という現象を説明するのではなく「ロキアは○○という街に住み、4人兄弟で、学校まで歩いて数kmの距離を通い......」と、一人の人間のストーリーとして伝えた点に注目。マザー・テレサも「大衆を見ても私は行動しない。個人を見たときに私は行動する」と言っているように、人間は人間に対して感情が動くもの。アイデアを心にかけてもらうには、相手の感情をかき立てるような表現が必要です。
鈴木氏の最近の個人的体験(!)より。どうやって用を足すのか?と話は続くそうですが、ぎっくり腰になり、忙しすぎるのはよくないなとか、体重が増えてきたら要注意だよ、座り仕事が多いのは危険だねなどという教訓を得たとのこと。でも人に伝えるときにその教訓から入るのではなく、トイレに......という話から入るととても喰いつきがいいのだそうです。
人間は、体験の裏側にある教訓、学びを共有し、未来に備える生き物であると言われていますが、実際に伝えた相手になにかしらの行動に移してもらうにも、物語性は重要です。
以上のレクチャーに続き、この『SUCCESs』という"定規"を使って、自社のCSR活動についてディスカッションするグループワークがスタート。
参考として取り上げた、ヤマト運輸のCSR活動を例に、概要、はじまり、今までの成果、エピソード、今後の展望に各自まとめ、グループ内で発表します。
最後は、今日学んだことを一人ずつ発表。
「インフラに関わる仕事同士、同じグループとなりディスカッションしたが、まちの安全安心を守るという本業そのものがCSRなんだと気付いた」
「本業である、会計士など専門スキルを使ったボランティア(プロボノ)に力を入れている」
「本業をとおしてのCSRは、単純明快で理解しやすい」
など、"本業"という言葉がキーワードに。「自分の会社の本業、事業自体がCSRなんだと気付かされた」との声が多く聞かれました。
また、「感情とか物語性といった『SUCCESs』の法則で考えたとき、そのCSR活動の実際の担当者でないことも多く、自社のことでも意外と知らない、語れないということがわかった」「自分が本気で取り組もうと思えば、共感のポイントや物語性は見つかるはず。社内のコミュニケーションも大切だと思った」などの意見も。
例としてあげたヤマト運輸の事例には、「現場の社員の自発的な行いに、経営陣が涙する。
対立軸で語られることも多い労使の関係でも、大変なとき、大事なところはつながるんだなと感動した!」と高い評価が集まりました。
2月にこのワーキンググループで取り上げる予定の、CSRの新しい潮流であるCSV(Creating Shared Value)、世の中に価値を提案するのが企業活動の本質であるといった話にまでディスカッションは広がったようですよ。
このワーキンググループの今後の展開がますます楽しみですね!